焼けた石を抱えていた。
片手で握ると、ちょうどいいくらいの大きさ。
きっと、自分の心臓と同じくらいの大きさだと思う(自分の握りこぶしが、自分の心臓と同じくらいの大きさになるらしいから)。
僕は小さかった。子供だった。
見覚えのある、焼き釜と平たい土地。足下は砂で、所々乱雑にひげのような雑草が生えていた。
僕はここを知っていた。
昔一度、埴輪を作った事がある。その焼き釜のある土地だ。
目の前に青い大きなバケツがあって(それは本当にでかい。なにしろ、僕の鳩尾の高さまであった)、それにはたっぷり水が入っていた。
僕がすっぽりと入っても、まだ隙間がありそうな大きなバケツを前に、僕は焼けた石を握っていたんだ。
軍手をはめた手の上からでも、充分にアツすぎる、焼けた黒に近い灰色の石。
そうだ。これは少年が、見ず知らずの小さな少年が、僕に渡したものだ。
これをもっていてね。と。
少年は無邪気に、素手で、持っていた焼け石を僕の手に落として。
そうだ。少年は笑いながら言ったんだ。
「この石を持っててね。熱かったら、そこの水に浸してもいいから。熱が冷めたら、また僕にちょうだい」
何故か、僕はいやがる事もなくそれを承諾した。
熱く、皮膚を焦がすような焼け石を両手で転がしながら、大きなバケツの水の中に浸していた。
じゅうう、と、音を立てた焼け石は、水に浸していてもちっともつめたくなんかならなかった。
それどころか何故か、石は熱くなっていくばかりで。
耐えきれなくなった僕の手をすり抜けて、焼けた石はバケツの底へ沈んでしまった。
僕はあわててそれをとろうとするのだけど、届かなくて。
ほどなくしてかけてきた少年に、僕がなんと言ったのか。
少年が僕になんと言ったのか。
それがぼやけるうちに、目が覚めた。
目が覚めて、ぼんやりしている僕の頭に、ふと、少年の笑顔が(顔は思い出せない。でも、笑っていた気がする)蘇った。
僕はあの場面を知っていた。僕はあの場面を覚えていた。
あれは、現実だった。
祖母とともに幼い頃訪れた、焼き物体験のあの場所。
皆の埴輪が釜に入るのを見届けるでもなく、僕は見知らぬ少年に頼まれて、一人で焼け石を握っていたんだ。意味が分からない、と思いながら。
少年の言葉に、声に、聞き覚えがあると思いながら見ていた夢は、それは夢ではなくて現実だったから。
でもそう思いながら、夢と記憶が混ざり合う。
焼け石を握った記憶も、バケツの底にそれを沈めてしまった記憶もある。
それは、多分間違いなく、僕自身がリアルで…(現実で…)起こしたことだろう。
けれど、あの少年が実在したかどうかだけが、よく解らなくて恐ろしい。
僕の記憶の中で笑うのは、友人だった少女だ。
彼は笑っていた。彼女も笑っていた。
どこで、なんで、どうやって、どうして、なぜ、なんのために、笑っていた…?
あれが誰なのか解らない。
僕の手の中に落とされた、僕の心臓と同じくらいの大きさの焼けた石。
大きなバケツの水底に、ことんと落ちた焼けた石。
あれは、誰のくれたものだった?
あれは、何のためのものだった?
