●風英堂長月記=在外経験からアフガン撤退に思う事。

 

長月(ながつき)が始まった。海外旅行に出られない日々が続くが、旅に出たら<在外公館>にお世話になる時が多い。基本的に海外公館は大使や公使、副総領事など日本から派遣された少数の日本人職員と現地職員で運営される。その在外公館は現地職員がいないと成り立たない。このため、現地スタッフは家族同様の扱いになる。

 

アフガンは危険地であるため、日本人職員は単身赴任で、家族は日本在住だったのであろう。だが中東アフガンで現地人スタッフを置き去りにすると言う「悲しくも卑しい日本人のサガ」が露骨に示された。今回のアフガン大使館の対応は、基本的に大使の命令による日本人職員の早期国外退避と言える。この地の警備担当は警察か防衛省職員と思われるが、「情勢、情報分析が甘かったのか、本省に報告要請を出したが返答が無かった」のであろう。返答しなかったのは官邸の危機管理担当であり、ガースの関心の無さであろう。

 

20年程前から報道部、外務省霞クラブ在籍したマスメディアの一員が、ノンキャリアながら外交官の妻と海外経験をしていた。マレーシアの<ペナン総領事館>とアフリカ<セネガル大使館>勤務の時は通い夫をしていたが、外交官パスポートで移動していた。もっとも恩恵は受けたことは無い。メディア退職後は<ボスニア大使館>と<マルセイユ総領事館>には家族として帯同していた。

 

だが、元メディアであるため、何か起きたら「外交官家族とメディア」としての立場を使い分ける必要があった。ニースでのテロ事件の際も当日の約束を回避して逃れたが、大きな事件は無かった。飛行機事故など常にギリギリの取材対応を考えて行動していた。

 

 

在外公館の組織は民間企業とほぼ同じで、日本人は官房、広報、領事、経済支援、警備、通信などのチーフとなる。大使公邸のシェフや警備運営もある。少ない人数で兼務している場合が多いので、各業務には現地職員スタッフが必ず付き、現地職員はボスニアでは現地人がほとんどだったが、マルセイユではフランス人などと結婚した女性が雇われていた。いわば日本国のお金で雇われた現地スタッフがおり、基本的には終身雇用となる。

 

その他、在外公館の職員の他にJICAなど公的活動をする海外事務所があり、そこには日本人が派遣されている。マルセイユには日本の民間企業はほとんど無いが、<日本人職員・在住日本国籍者・赴任滞在者・旅行客>などを、在外公館は「邦人保護」という大きな役割を持つ。

今回の「置き去り事件」は現地職員を巡る日本政府の基本的な考え方の問題だ。現地職員を家族として見ない純粋日本人信仰、国内でも外国人の棄民政策等々があり、「島国日本=国際性の無さ」が露呈している。

 

 

欧州在住の今井佐緒里氏はこう分析している

◆日本人は、とても気持ちが優しくて、寛大なところがある。そうかと思うと、どこまでも他者に冷たくなれる、極めて酷薄なところがある。その冷酷さを正当化する言葉が「自己責任」である。このは、わかりやすく外国人に向かうだけではなく、日本人自身にも向かうことがある。とても美しい国、日本で見られる人々の偏狭な心の冷たさ。◆

 

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者・執筆家・編集者

アフガン人退避ゼロの日本の、「この国のかたち」(今井佐緒里) - 個人 - Yahoo!ニュース

●日本が自発的に退避させたアフガン人は「ゼロ」である。

日本人は、とても気持ちが優しくて、寛大なところがある。そうかと思うと、どこまでも他者に冷たくなれる、極めて酷薄なところがある。その冷酷さを正当化する言葉が「自己責任」である。この刃(やいば)は、わかりやすく外国人に向かうだけではなく、日本人自身にも向かうことがある。とても美しい国、日本で見られる、人々の偏狭な心の冷たさ。

 

なぜこんなに遅くなったのか。結局、政府も政治家もおそらく官僚も、日本人の退避のことだけを考えていた、外国人を移送するつもりなんてなかった、諸外国を見てマズイと本気で思い始め、やっと重い腰をあげたーーそういう風にしか見えない。「外国人の移送は初めてのことだから」とか、「憲法のせいで」とか、そういう問題がないとは思わないし、関係ないとも思わない。しかし、根本にあるのは、日本という「この国のかたち」の問題なのに違いない。

 

日本は、常日頃から難民を受けいれていない。日本の2020年の難民受け入れ数は、たったの47人。入国管理局の外国人収容所は、刑務所と同じと言われている。自由も人権も無視。そして「実習生」という名の、ごまかしだらけで歪んでいるが、欲にだけは忠実な「移民労働者受け入れシステム」は、国際的に批判されている。ついこの前、名古屋の出入国在留管理局で、たった33歳で亡くなった、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんの事件がニュースになった。先日は、茨城県の東日本入国管理センターで、警備員が収容者の首を腕で絞め、全治2週間のけがを負わせた。たかだかサッカーボールの問題で。

 

それほど移民が嫌ならば、腹をくくって、いっそ全く入れなければいいものを。それならば、批判されても筋は通っているのに。そのようなことを平気でしている国の政府や政治家を選び、そういう政治を許して無気力に黙っている私たち国民も。これが今の日本の、ごまかしだらけで歪みっぱなしな「この国のかたち」なのだろう。