~エピローグ~

ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。
小鳥のさえずりで目が覚める。朝7時。ん゛~っと伸びをして起き上がる。昨日23歳を迎えて、僕はもうイッパシの社会人気分でいた。窓の外は春のやわらかい陽射しとそよ風で、そんな僕の気持ちを代弁しているようだった。

顔を洗って、まだま新しいスーツに着替える。ネクタイの結び目が気に入らなくて、もう一度結びなおしてみる。
「よし、ばっちりだ」
内心そう呟いて、自己満足に浸っていると、
「ぅん~、もう朝なの?」
ベッドから眠そうな声がして、僕は振り返ってその声の持ち主を眺める。かわいいというには綺麗すぎる顔が、今は寝ぼけた様子でなんだかおかしい。
「おはよ。今日は3限からだっけ?まだ寝てていいよ」
そう言って僕はベッドに腰掛ける。
「ぅん、でもトーヤ君が起きてるのに、私だけ寝てるのも悪いし。トーヤ君が会社に行ってからまた寝ちゃうけど・・・」
"君"付けで名前を呼ばれるのは、すこしこそばゆい。
「まったく、そうやってすぐ気を遣うんだからなぁ。僕はまだ出かけないから、起きてるの大変だよ?佳穂だって疲れてるんだから、寝てていいよ」
キミのおでこに軽くキスして、髪をなでてあげる。
「でもぉ・・・」
「でもじゃないよ。僕はいいから、佳穂はやすんでなよ」
髪をなでながら、ぐずるキミに微笑みを向ける。
「ぅ~ん・・・じゃぁ、帰ってくる前にメールしてね。トーヤ君にご飯作ってあげたいから」
「うん、わかったよ」
僕の返事に満足したのか、キミは優しく微笑んでから瞳を閉じる。
「ぅん、それじゃぁ、おやすみなさぁぃ」

連日の就職活動で疲れているのか、キミはそう言ってまた眠りに落ちていく。キミの髪をなであげる手が、じんわりあたたかく感じて、自然と笑みがこぼれてしまう。
愛しいってこういうことを言うのかな。そんなことを考えて、僕はひとり微笑んでいる。

すやすや寝ているキミを眺めていると、キミが僕に告白してくれた日のことを想い出す。

抱きしめた僕の腕の中で、涙を流しながら微笑んでいたキミが愛しくてたまらなかった。キミが僕の心に残した足跡は、雪が溶けても消えることなく僕の心にはっきりと残っている。
そうやってキミは僕だけの大切になったんだね。そうやってキミは僕だけの特別になったんだね。
今もまだこうして僕と一緒にいてくれることが嬉しくて、幸せで。

もう一度僕はキミの寝顔をみつめてみる。幸せそうなキミのと息が、僕をいっそう幸せにしてくれる。あふれだす想いをこめて、優しくそっとキスをする。

「愛してるよ、佳穂」


あの日、あの時、あの場所でキミは僕に愛を教えてくれた。
僕の恋が愛へと変わったあの日。
キミの恋が愛を教えてくれたあの日。