~Russian of Secret5~
2月14日のバレンタインデー当日、私は「トラジックマーカー2」の現場には行かずに ホテルの部屋に1人籠もって色々と準備をしていた。
2~3日前に形を作って乾かしておいた”銀粘土”の指輪は、朝 コンロを使って焼いて…完成した。
焼く時に少し縮むから…ちょっと心配だったけど、丁度いい感じに敦賀さんの指のサイズになったみたい。…少し大きめに作っておいて良かったわ…。
銀粘土でアクセサリーを作るのは慣れてるから…スムーズに出来たし。
そしてチョコレート作りは、原料の”カカオマス”を使ってみた。それなら砂糖の量を1から自分で調節出来るから。
今回は兄さんの大好きなウィスキーを入れて、ほろ苦いチョコにしてみた。まぁ…今日この部屋で敦賀さんが”カイン兄さん”になってくれるかは分からないけどね…。
そろそろディナーも出来上がりそうだし…今日のメインメニューはじっくりと煮込んだビーフシチュー。
『…もう5時…?早いわね…』
ちらっと時計を見てみると、5時になろうとしていた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
キョーコは色々とあった…ここ一週間の事を思い出していた。
敦賀さんにからかわれて…遊ばれてばかりだったけど、それでも思い返してみると楽しい事だらけだった。
ドキドキの連続で心臓は可笑しくなってしまいそうだったけど、普段じゃありえないくらい近い2人の距離。
『でも…この生活も…もう明日までで終わっちゃうのよね…。』
そう考えると…何だか急に寂しくなって来た。…前にヒール兄妹が終了した時よりも…より寂しく感じるような気がした…。
『…ダメよキョーコ…落ち込んじゃ…』
そうよ…せっかくのバレンタインデーを敦賀さんと2人っきりで過ごせるのだから…。今日は思いっきり楽しんじゃおう…!
なんか…世の中の”敦賀蓮ファン”に恨まれても可笑しくないような状況だわね…。
『…ふふっ…』
今度は何だか急に可笑しくなって来て思わず笑ってしまった。そして作った指輪に目がいくと、ふと…まだする事があるのを思い出した。
そうだったわ…指輪にチェーンを通してアクセサリーにして、箱に入れてラッピングしないと…!
ふふ…それにしても我ながら…格好良くてオシャレなデザインの物が出来上がったんじゃない…?
でも…指輪のアクセサリーなんて…セツカの”独占欲”という勢いがないと気持ち的に作れなかったわよね…。
『…セッちゃんに感謝だわ……。』
キョーコはそう思いながらも指輪を箱の中に入れて、丁寧にラッピングしていき…全ての準備が終わると…何だか落ち着かなくなって来た。
『どっ…どうしたのよ…私…!もう…落ち着くのよ…キョーコ…』
そうして…そわそわしながら蓮の帰りを待つ事 約3時間…玄関の鍵が「ガチャリ」と開く音が聞こえて来た。
とっ…とうとう敦賀さん帰って来たわ…!ど…どうしよう……とりあえずセツになっておこう…。
『…おかえり兄さん…今日は早く帰れたのね…』
セツで話し掛けたのに…見た目はカイン兄さんでも…やっぱり今日も中身は敦賀さんのままで…
「うん…ただいま…最上さん…。」
そう返事をして…優しく私に微笑んだ。…もう…今日もカイン兄さんにはならずに”素”のままで過ごす気ですか…?
「ん…?何だかとても良い匂いがするなぁ…今日は何を作ってくれたの?」
『あ…はい…今日はビーフシチューをじっくりと煮込んでみました…14日は手の込んだ料理を作るとお約束していたので…』
「…ありがとう…とっても嬉しいよ…早速食べたいな」
…何て嬉しそうな笑顔をするんですか…!こんなのが続くと…流石の私でも勘違いしそうになるわ…もう…本当に…罪な人…!
『あ…はい…それじゃあすぐに用意しますね///』
そしてキョーコは手際よく今日作った料理を温めてテーブルに並べていった。
「それじゃあ…いただきます…!」
『はい…どうぞ…』
蓮はビーフシチューを一口食べると、にっこりと微笑んだ。
「…これ…凄く美味しいよ…!」
『ほっ本当ですか…!…なら良かったです…/////』
気に入って貰えたみたいで良かったわ…今回のは本当に時間を掛けて煮込んだから…。
「やっぱり最上さんの料理はいいな…ずっと…毎日これからも俺の傍で作って欲しいくらいだよ…」
なななっ…なんて事をさらっと言うんですか…?アナタは…?!
『まっ…またうまい事…お世辞を……!』
「…お世辞じゃないよ…俺は本気でそう思ってる…」
『…そっそうですか…ありがとうございマス…///』
何だか…今日の敦賀さんは今までと雰囲気が違う気がして…いつも以上に落ち着かないんですけど…。
そして…ディナーが終わった頃に、私はデザートのような感覚で さりげなく今日作ったチョコをテーブルの上に置いた。
「これ…もしかしてバレンタインのチョコレート…?」
『はい…今回は…カイン兄さんに合わせてウィスキー入りのほろ苦いチョコにしてみました。』
「へぇ…どれ…。…うん…!大人な味だね…甘くなくて食べやすいし…しかも美味しい」
やっぱり今日も…この部屋でカイン兄さんになるつもりは…ないんですね…敦賀さん…。あぁ…緊張するからプレゼントは出来れば兄さんに渡したかったのに…!
さぁ…覚悟を決めて敦賀さんにプレゼントを渡すのよ…キョーコ…!大丈夫よ…あの暗号はバレないわ…敦賀さんがロシア語分かるなんて話は聞いた事ないもの…!
『…あの…それで…遅くなりましたけど…これ…敦賀さんの誕生日プレゼントです』
私は内心ドキドキしながらも…落ち着いたフリをして、敦賀さんに小さな箱を渡した。
「とうとう出来上がったんだね…ありがとう…開けるよ…?」
『…はい…どうぞ』
なんかこの開けている間が…心臓に悪いわ…。大丈夫なのに…!
「…凄い…!格好良く…オシャレに出来上がったね…最上さん…!これ本当に売り物みたいだ…カインと俺、どっちが付けても違和感ないし…!」
蓮は驚いた顔をした後に…にっこりと微笑んでそう言った。
『はい…そう言って頂けると嬉しいです…デザインには…結構苦労したので…』
「…そうなんだ…?…それで…このデザインの文字の意味は何…?」
『……へ…?』
え…?…まさか…文字について突っ込んで聞いて来ますか…?それは予想外です…!
「何て書いてあるの…?」
『えええ…と…いいえ…特に文字に意味はないんですよ…!!ただ…その文字の見た目が気に入ったから…デザインに入れてみたんです…!』
「………。…へぇ~?…そうなんだ……?」
『はっ…はい…そうです…!!』
ん……?なっ何だかよく分からないけれど…怨キョレーダーが…?!
どうして…?私何も気に障るような事言ってないわよね……??
「…じゃあ…早速…コレ…俺に着けてくれる…?」
…へ…?貴方は今…私に…ソレを直接 俺に着けてと…今そう おっしゃいましたか…??
なな…何だかそれはそれでとても緊張するんですけど…?
「ん…どうしたの…?早くこっちに来て…俺に直接 コレを着けて…?コレは君が ”愛情をたっぷりと俺に込めて” 作ってくれたんだろう…?」
”愛情をたっぷりと俺に込めて”
その言葉を聞いた瞬間、私の胸はドキっとして…心拍数が一気に上がった。
ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…
…だっ大丈夫よ…落ち着いてキョーコ…別にその指輪の暗号がバレた訳ではないんだから…。最近の敦賀さんは少し可笑しいから…いつもの冗談でそう言っているだけよ…!
『…わっ…分かりました…じゃあ…そのまま椅子に座っていて下さいね…?』
私は何とか冷静を装って…彼の後ろ側に回ろうとした所で…軽く敦賀さんに腕を掴まれた。
「…そっち側じゃないだろう…?」
はっはい…? い…意味がよく分からないのですが…?背中側からの方が着けやすいじゃないですか…!
蓮がキュラキュラとした笑顔で…キョーコの腕を掴んで意味不明な事を言い出したので、キョーコはどうしていいのか分からなくなり、固まってしまった。
「前から着けて欲しいな…せっかく”愛情をたっぷりと俺に込めて”君が作ってくれたんだから…ね…?」
蓮がそう言って妖艶な雰囲気で微笑むと、キョーコの顔は”ボン!!”と一気に真っ赤になった。
どどどうして…さっきから ”愛情をたっぷりと俺に込めて”って…そこばかり強調するんですか…!!まさか…ロシア語は知らなくても…ここ一週間で私の想いがバレてしまったとか…?
ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…
『…もう…敦賀さんはたまに日本語の使い方の表現が…可笑しいですよ…?』
「そう…?別に間違った事は言っていないと思うけど…?」
そうね…よく考えてみたら…このプレゼントはセツカから愛するカイン兄さんに対して作ったモノでもあるから…間違いではないのかもしれないわね…。
『…じ…じゃあ…前から…失礼イタシマス…////』
あぁ…もう…敦賀さんが変な言い方するから…顔が真っ赤になったまま戻らないじゃない…!っていうか…こういう場合って…普通みんな前から着けてあげるモノなの…?
ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…
キョーコは緊張で少し震える手を落ち着かせる為に…静かに深呼吸をした。
その後…蓮に言われた通りに、椅子に座っている彼の首に手を回して前から”独占欲の証”のアクセサリーを着けようとした。
2人の顔の距離が近付く――…。
あぁ…!!何なのよ一体コレ…!顔近いし…敦賀さんのいい匂いがするわ…//// …じゃなくて…!!早く着けて離れるのよキョーコ…!!
あっ…無事に着いたわ…手先には自信があると…こういう時に助かるわね…!
そして…無事に着け終えて安心したキョーコが…蓮から離れようとした瞬間…
「.....Я люблю тебя....Для R от К......」
(ヤ リュブリュー ティビャ デリャアールォートカァ)
キョーコの耳元で静かに蓮がそう囁いて妖しく微笑んだ。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・へ?』
「”Я люблю тебя.Для R от К.”…これって…ロシア語だよね…?本当はちゃんと意味があるんだろう…?」
『・・・・・・・・・・・・・・えっ・・?・・え・・アノ・・えっと・・』
あまりに突然の蓮の言葉にキョーコの頭の中は真っ白になり、思考回路は完全に停止して…蓮から逃げようとしたが、腰に両腕を回されて動けなくなってしまった。
『・・・・・・・・・・・・・・・・わっ・・分かりません・・・』
「…そう…?じゃあ…俺が君の代わりに答えを教えてあげる――…。」
蓮は再びキョーコの耳元で…そっと静かに囁いた…。
「――”貴方を愛しています…KからRへ”――…」
…キョーコは真っ白になった頭の中で、蓮の胸元の指輪をぼーっと見つめていた――…。
敦賀さん……。
この指輪の”暗号”に気付いてしまったんですね…?
本当は…セツカではなくて”私”の想いを込めた…
貴方には秘密の独占欲の”証”になる筈だったモノなんです――…。
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