訪問マッサージの仲間と話していると、こんなことをよく言われます。
「そこまで治療できなくても、
今のままでもクレームも出てないし、
何とかなるんじゃないの?」
「訪問リハビリほど治らなくても、
患者の心に寄り添ってあげて、
安らぎや安心を感じてもらえば、それで充分なんじゃないの?」
マッサージ師なのだからリハビリをせずとも、マッサージだけやっていればそれでいいんじゃないか?
ということなのでしょう。
しかし、ほんとにそうなんでしょうか?
日々、現場を見ている私には、とてもそうは思えません。
今回はちゃんと治療しないとどうなるのか?ということについて書いていこうと思います。
1、〔患者は治してくれる人のところに集まる。治せないと治せる治療院に患者をみんなとられてしまう。〕
以前、老人ホームに訪問していて、こんなことがありました。
私は発症後24年経っていた右片麻痺のおばあちゃんを担当していました。
ブルンストロームステージ(Brs)はⅢで移動は車イス。移乗は自立してましたが歩行は出来ず、右上肢は痙性麻痺で髪をとかしたり右手で食事なども出来ない状態でした。
私が担当してから、右手で髪をとかしたり、フォークでオカズを刺して口にもってきたりできるようになり、
また、膝と足関節の分離運動ができるようになって(これは要するにBrsがⅣからⅤくらいまでになったということです)歩行も出来る様になりました。
施設の意向で移動は車イスでしなければなりませんでしたが、歩行練習では、施設の廊下を手摺に掴まりながら歩いてもらっていました。
周りの施設の利用者さんは、このおばあちゃんが、歩けるようにはなるわ、麻痺の手で物を食べるようにはなるわで、驚いていたようです。
一方、そんな折に、
私が担当したおばあちゃんとほぼ同じ症状の片麻痺のおばあちゃんを担当していたA治療院がありました。
入った時期もほぼ同じ、リハビリの期間もほぼ同じでした。
しかし、このおばあちゃんは歩けるようにもならないし、麻痺の手も使えないままでした。
後で聞いたのですが、このA治療院の先生は「麻痺は半年以上経つともう治らないので、これ以上悪くならないように現状維持を目標にやっていきましょう」と言っていたそうです。
仮に、私が担当した患者をHさん、この患者さんをBさんとしましょう。
自分と同じ症状の(というか私の患者の方が悪いくらいでしたが)Hさんが、
ほぼ同じ期間リハビリをして、向こうは歩けるようになって、しかも麻痺の手も使えるようになっている。
しかし、こっちは始める前と何一つ変わっていない。
そんな現状を見て、Bさんは
「この治療院はダメだ!」、と思ったそうです。
「半年以上経つと治らないって言うけど、現に目の前で同じ症状の人が治っているじゃない。そんな嘘をいう人は信用出来ないし、そもそも、あなたに治す技術がないから私が治らないんでしょう。」と思っていたそうです。
結局、この治療院は断られ、
「あの先生にやってもらいたい!」と私が指名されて、Bさんにも入ることになりました。
当然、Bさんの麻痺も改善していきました。
さて、問題はその後です。
このA治療院の先生は、営業にも熱心で、報告書や何かと用事を作ってはケアマネにアピールしていましたが、
ケアマネがこのA治療院の先生に患者を紹介しようとしても、患者自身が嫌がって、受けなくなってしまいました。
つまり、この先生は患者から「治せない先生」と烙印を押されてしまったわけです。
結局、このA治療院の先生は、出入禁止になったわけではないですが、担当患者が一人も居なくなってしまいました。
人間的にはいい先生でしたが、治療の結果が明暗を分けてしまったのです。
このように患者を治せないと 治せる治療家に患者をみんな奪われてしまいます。
患者は治せる人のところへ集まっていくものですから、どうしても、治せる治療家の元へ患者が集中していくでしょう。
これが日々の現場でおこっている現実です。
特に麻痺の患者は治る治らないの差がはっきりとでるので、この傾向がとても顕著です。
医療制度を改めるという話も出ているようですが、
改めるまでもなく、
患者も馬鹿じゃありませんから、治せない人は見限って治せる人のところへ行ってしまうでしょう。
今後、治せない治療家は経営がかなり厳しくなってくると思います。
今のままでは、せっかく集客して患者を集めても、その患者は治せる治療家にみんな取られてしまい、治せる治療家のための患者集客マシーンと化してしまうでしょう。
悪い事は言いませんから、リハビリも学んで、治せるようになっておいた方がいいです。
これだけではありません。まだまだ他にも問題があります。
しかし、長くなってしまうので、続きは次回に繰り越したいと思います。
次回は、もっと深く、もっと切り込んだ、お話をします。