技術の見える化スペシャリストの古謝です。

本日の「現代ビジネス」にわずか社員6名の会社が作る世界一の砲丸の記事が掲載されていました。その技術は職人のなせるわざなので、本質までせまることは難しいのですが、ものづくりの考え方としては非常に参考になりました。

町工場だって世界に通用する 
砲丸など一級のスポーツ用具を生む技術力 
辻谷工業代表取締役 辻谷 政久
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/8031

1980年に定められた砲丸の国際規格は成人男子用で7260プラス5~25グラムだそうです。この辻谷工業の凄いところは、この重さの誤差をプラスマイナス1グラム以内に納めて、かつその重心を砲丸の中心に合わせられることです。何故重心の位置にこだわるかと言うと、「重心が中心から外れている砲丸は、飛距離が1メートルや2メートルは落ちてしまう」からだそうです。

重心と中心が合うように加工することは、ハイテク工作機械のNC旋盤では出来なくて汎用旋盤で初めて出来るというところが凄いし、面白いところだと思いました。

辻谷工業についてはWikipediaにも紹介されていて、北京オリンピックでのエピソードでは溜飲を下げました。以下に引用します。
<引用開始>
2004年に中国重慶で行われたAFCアジアカップでの中国人の観客のマナーへの不満から、北京オリンピックには砲丸を提供しないことを表明した。また、このことで北京五輪では大会前から今大会では砲丸の新記録が出ないだろうと噂され、実際に新記録が打ち立てられることはなかった。
<引用終了>


Wikipedia:辻谷工業
http://ja.wikipedia.org/wiki/辻谷工業

では、重心と砲丸の中心の関係は飛距離とどんな風に関わっているんでしょう?直観的には重心と球の中心がズレていたら力がムダに使われそうな気はしますが、その理由はすぐには答えきれなかったので図を描いて考えてみました。

左が辻谷砲丸、右が他社砲丸です。
$観察力/想像力を鍛える図化のブログ-砲丸比較


砲丸投げは砲丸を押し出すように力を加えて投げるので、多分投げる力は球(砲丸)の中心に近いところにかかるのではないかと想像します(確認したわけではありません)。その結果、辻谷砲丸では投げる力と砲丸の重力による抗力が一直線上に揃うと考えられます。合力は単純に二つの力の差です。
一方の他社砲丸では投げる力と抗力の働く位置がズレるとすると、合力は投げる方向と違ってくるうえに、砲丸を回転させる力(モーメント)を生じることになります。

その結果、両者の弾道は以下のように違ってくると考えられます。
$観察力/想像力を鍛える図化のブログ-弾道比較


こんな風に「辻谷砲丸は力のムダを防止している」イメージを作ることが出来ました。
それにしても、人間の感覚でそれだけの精度を出すことが出来ることを見つけた辻谷さんって凄いです。