トランプは北朝鮮を攻撃するか?・4 | GII REPORT

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政策コンサルタント事務所GIIのブログです。米国の首都ワシントンDCに10年ほど拠点を構えた時期は日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所その後は同学会防災・テロ対策研究会の業務を受託しています。連絡を頂ければメディア出演や講演の依頼にも応じます。

 表題の件に関して今回は日本国内の複数の専門家の話を聞いて総合してみた。文責は吉川にある。

 まず話の出だしとして、北朝鮮が日本に中距離ミサイルを撃ち込んで来た場合を想定してみよう。日本の持つイージスもパック3も、理論的命中精度は90%以上であるが、それは実験室のデータである。実際の戦闘でダミー弾を含む多くのミサイルが飛来した場合、命中精度は60%程度ではないかと米国の保守系メディアまでが書いているほどである。

 しかも日本の持つイージス艦は4隻。常時1隻はメンテナンスに出しているので実働3隻。在日米軍は12隻を持っていた筈だったが、2隻が事故で壊れているのは報道の通りである。これは偶然だろうか?何れにしても、やはりメンテナンスの関係で、実働は多くても7隻。つまり10隻。1隻が搭載しているミサイル迎撃ミサイルは8発程度と思われる。つまり80発。命中精度が6割なら迎撃できるのは50発以下。

 北朝鮮が保有する中距離ミサイルは200発もあるのである!

 パック3の発射台は48台保有しているが、これもメンテナンスの関係で実働40台。1台が16発のミサイルを搭載しているので、640発。これなら命中精度6割でも残り150発の北朝鮮のミサイルを何とか迎撃できそうに見える。しかしパック3の射程距離は20キロ。この射程距離で40台の発射台で守れるのは、東京23区と横浜周辺そして名古屋周辺が限界とされる。

 なぜ大阪等ではなく横浜と名古屋なのか?横浜は米国第七艦隊の母港佐世保港へのロジスティックに欠かせない。名古屋周辺には兵器産業の工場が裾野を広げている。北朝鮮への反撃に欠かせない3地点を守るためには大阪その他を犠牲にせざるを得ない。

 陸上イージスが配備されれば、状況は変わって来るとは思うが、配備には2年は掛る。そのような時間の余裕はあるのか?繰り返すが命中精度は本当に高いのか?

 いま米国は自国だけではなく同盟国の持つミサイル防衛システムを統合運用し、それを米軍の人工知能で制御する方針である。これが実現すれば、本当に迎撃率90%以上になる可能性はある。しかし、やはり実現には数年かかる可能性がある上、そのようなことが実現した後に、アメリカ政府が“日本を守る必要はない”と判断するような政治的問題が起きた時、日本のミサイル防衛システムは動かなくなってしまう。

 何れにしても米国内でもミサイル防衛の現状には保守派からも不信感が強く、そこでパキスタン型解決を模索しているとも言われている。つまり北朝鮮が、いま保有する核を保有し続けることを当面は認める代わりに、これ以上の核や米国まで届くミサイルの開発を北朝鮮に断念させ、その代わりに北朝鮮に経済援助等を行うというものである。

 そのような約束を北朝鮮が守るだろうか?北朝鮮は結局アメリカまで届くミサイルと水爆を持ってしまうのではないか?

 何れにしても、このパキスタン型解決を目指すのなら、北朝鮮の核を抑止するため、日本も核武装する必要がある。米朝間で一定の合意があった場合、アメリカは北朝鮮が日本を核攻撃した時、北朝鮮を核攻撃しない可能性もあり、米国の“核の傘”の信頼性は低下する。まして北朝鮮が約束を破って米国まで届くミサイルを開発してしまったら、ニューヨークと東京を引き換えにして日本を米国が守ってくれる可能性は、さらに低下する。

 日本が核武装するとしたら、いわゆる“核シェアリング”—米国から核ミサイルを買って、それを発射するには、米国大統領と日本の首相が、同時にボタンを押さなければ発射できないという方式以外は難しいと思う。それではミサイル防衛の統合運用と同様に、アメリカが日本放棄を考えた時に意味がないという意見もある。しかし日本が国内を説得できて自主核武装に踏み切った場合、今の北朝鮮以上に世界から孤立する危険も非常に高い。アメリカさえ敵に回すことになってしまうかもしれない。

 私の知る限り日米の制服軍人同士の絆は本当に強い。“日本放棄論”を考えたりするのは、主として国務省筋である。

 いまトランプ政権は軍部に支えられ、国務省を実質的に解体する方向になっている。少なくともトランプ政権の内に国務省が大きく変われば、ミサイル防衛や核の統合運用の信頼性も高まるように思う。

 また技術的な問題等で、日本側の積極的な運用協力がなければ、ミサイル防衛や核の統合運用が円滑に機能しないように仕掛けることも不可能ではないかもしれない。それ以外にも日本が技術力等で米国に協力できることはあるのではないか?

 例えばトランプ政権は今まで情報組織NSAと合同だったサイバー司令部を、NSAから分離して正式の軍の一部に昇格させた。サイバー問題で日本は遅れているが、今は必死にキャッチアップを図っている。何れにしても北朝鮮の核やミサイルをサイバー攻撃で自爆させたり出来るのならば、それが最も望ましい解決であることは言うまでもない。サイバー司令部の正規軍への格上げは、その布石なのかもしれない。

 ところでオバマ前大統領は、積極的な地上軍派遣を行わなかった代わりに、1000人以上のテロ組織幹部を、特殊部隊やドローン等を使って暗殺している。そのようなノウハウを米軍は持つようになり、日増しに高度な作戦が出来るようになっている。オバマの数少ない肯定的なレガシーだと思う。

 そのようなノウハウを使って北朝鮮の核兵器やミサイルの開発や運用に携わる技術者等を皆殺しにしてしまうのも、良い方法の一つだろう。金総書記の暗殺より、その方が効果的で、かつ簡単かもそれない。いま米国は、そのような技術者が、どこに住んでいるか?一斉に暗殺するには、どうしたら良いか?情報を集め作戦を練っているのかもしれない。そのための時間稼ぎをしているのかもしれない。サイバー攻撃も同様である。

 何れにしても日本は“パキスタン型解決”を受け入れることは出来ない。上記のような方法ででもトランプ政権が北朝鮮を武装解除してくれないなら、核シェアリングは求めて行くべきだろう。

 そして核シェアリングにしてもミサイル防衛統合運用にしても、それは北朝鮮という目先の問題のためだけではない。2024年ごろまでには南シナ海の問題等を巡って、核の使用まで含めた米中戦争が起きることは不可避なように思われる。それを見据えても、日本が自国を守り価値観を同じくする同盟国米国と効果的に共に戦うためにも、今の内に準備しておかなければならない必要不可欠な問題だと思う。