オリンピック開催都市東京の危機管理力を考える | GII REPORT

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政策コンサルタント事務所GIIのブログです。米国の首都ワシントンDCに10年ほど拠点を構えた時期は日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所その後は同学会防災・テロ対策研究会の業務を受託しています。連絡を頂ければメディア出演や講演の依頼にも応じます。

 1月17日は私も会員である特定非営利活動法人一橋総合研究所と、やはり同じく特定非営利活動法人三田経済研究所との共催にて、第一衆議院議員会館の国際会議室の国際会議室において、タイ国より来日するタイの軍幹部候補生に民間人を含む若手30数名の視察団との意見交流として、表題のような題名の下に、東京オリンピックのテロ対策に関して講演させて頂きました。質疑応答も活発で、こちらも非常に勉強になりました。このような素晴らしい機会を与えてくださった全ての関係者に心より御礼申し上げます。

<講演要旨>

 「オリンピック開催都市東京の危機管理力を考える」というテーマを頂きましたので、私の問題意識を中心にお話しさせて頂ければ幸いです。

 私は前回の東京オリンピックの前年に生まれました。その頃の日本は高度経済成長の真っ盛りでした。それは近隣アジア諸国の方々と日本人との色々な意味での協力のお陰と私は心から感謝しております。

 日本の戦後復興と経済成長の背景には近隣アジア諸国の人々の御協力と同時に、日本人の「絆」の精神が活きたからでもあると思います。6年前の東日本大震災の時、食糧配給所に整然と並ぶ被災者の方々の姿を見て、世界の多くの人々が感激してくださいました。消防団と呼ばれる日本独特の地域防災ボランティア組織の活動は、被災地での救助作戦を展開した在日米軍によって大変注目されました。

 その他、消防庁、防衛省、警察等の協力もそれなりの実績を上げたと思います。それを調整した内閣危機管理監室は、95年の阪神大震災を契機に作られました。

それを母体に数年前、日本も米国と同じNSC( national security council )を作りました。

 地震でもテロでも何か危機的事態が起こった時の対処組織については日本もある程度自信を持っています。

 ではテロを事前に防ぐ政策は、どうでしょうか?これは日本では殆ど出来ておりません。

 日本のお役所はセクショナリズムが極端に強いのです。テロ対策に関係する警察庁、法務省、防衛省、外務省、消防庁等も殆ど協力体制にはありません。

 日本政府には内閣官房という組織があります。しかし、それは以上のような各省庁の中堅幹部が集まる連絡所に過ぎません。全ての省庁に少なくとも協力させる状況にもないのです。

 また日本では自衛隊は国の所管、警察の実働部隊は都道府県の所管、消防の実働部隊は市町村の所管と分かれています。それも色々な意味で日本の危機管理を難しくしています。

 しかし流石に東京は首都だけあって消防も警察と同様に東京都の直轄に近い形です。そして石原新太郎先生が都知事だった時代に自衛隊、警察、消防合同の危機管理訓練を何度も行いました。都庁には立派な危機管理司令をする部屋もあります。

 もちろん首相官邸にも同様の危機管理司令をする部屋があります。先に述べた組織としての内閣危機管理監室やNSCが、この危機管理司令をする部屋を使っています。

 この二つの組織は内閣官房に置かれています。

 内閣官房には内閣官房長官がいますが、内閣官房長官は国務大臣ではあっても、首相の補佐役であります。そのため内閣官房は首相直轄に近い組織と言えます。

 一方、後で述べる内閣府の防災担当部門には担当する国務大臣がいます。そのため内閣府の防災担当部門は首相直轄ではないのです。

 そこで首相が米国大統領のように直接危機に対処するため、内閣危機管理室やNSCは、内閣官房に置かれた形になっています。

 これは例外的な措置です。なぜなら前に述べたように内閣官房という組織は本来連絡所に過ぎないのです。

 何れにしても内閣危機管理監室やNSCは、何らかの危機的状況が起きた時のための組織としては優れていても、平時に各省庁間の協力体制を作らせる組織とは言えないのです。テロ対策も含めてです。

 そこで今から15年ほど前、全ての省庁の協力関係を作らせるために、内閣府という新しいお役所が出来たわけですが、殆ど力がありません。なぜでしょう?内閣府には東京大学の卒業生が少ないからです。

 そんなことと思われるかも知れませんが、少なくともお役所関係に関する限り、この東京大学の卒業生が絶対的な力を、日本の社会では持っているのです。

 30年以上前やはり他の省庁の監査役のような総務庁というお役所が作られたことがありました。しかし東京大学の卒業生が少なかったために予定された役割を果たせませんでした。そこで東京大学の卒業生の多い自治省というお役所と合併させて総務省という役所を作ったところ、多少は上手く行くようになりました。

 いま内閣府と内閣官房も、総務庁と自治省が合併したように、少しづつ一体化して来ています。例えば数年前の集団自衛権法制の時には、内閣官房と内閣府の同じような担当を同じ人が兼任するようなケースがありました。そのような人事は今後も増える可能性は高いと私は思います。こうして元々東大エリートの多い内閣官房が内閣府を人材的に強化して行くことが期待されます。

 その結果、各省庁が協力して国のテロ対策を少しでも良くして行く可能性を私は期待しています。

 しかし東京オリンピックともなると国以外に東京都やオリンピック委員会も重要なプレーヤーになって来ます。実は日本の警察としては、彼らのセクショナリズムにより、オリンピックの警備は、オリンピック委員会や東京都の責任であると考えています。

そのためオリンピック委員会や東京都の予算で雇った民間警備会社が、オリンピック警備の責任主体であり、警察等はサポート役でしかないというのが日本の警察の表面上の立場です。

 これは何と2016年のG7サミットでさえが同じだったのです。

 サミットの場合、警備の責任主体は外務省および外務省が雇った民間警備会社にあるというのが日本の警察等の表面上の立場でした。しかし流石に世界の要人が狭い島に集まる2016年サミットでは、かなり緊密な協力体制を、日本の警察も外務省や外務省の雇った民間警備会社とは行ったようです。

 それでも警察の監視カメラの映像と民間警備会社の監視カメラの映像を同じ場所で一緒に見ているような形になりませんでした。

 それだけではありません。最近のテロの主流は組織だったものよりも、ネット経由で影響された個人によるローンウルフ型テロに移っています。既にIS (Islamic state) は“東京でテロを起こせ!”とネット上で指令を発しています。

 それに影響されて今の日本の社会に不満を持つイスラムとは何の関係もない日本人がテロを起こしたりする可能性も低くないと私は思います。

 そのような人はネットで頻繁にイスラムのテロだけではなく爆弾の作り方その他のテロの起こし方に関しても検索している筈です。

 それがGoogle社等のビッグ・データで分かっていない筈はないと私は思います。しかしGoogle社等は米国本土でも個人情報保護等を理由にデータを直接的に政府に渡すことは頑強に拒んでいます。

 しかしGoogle社等の米国のネット関係会社は、ネット上のテロ誘導を防止する団体を自らNPOやベンチャー企業形式で設立したりしています。

 の対策団体にデータを渡して、例えばテロに走る可能性の高い人物が、テロ関連の検索結果をしても、IS関係のサイトを見えなくさせたりはしています。またテロに興味を持っている人物が検索をすると、ISが如何に恐ろしい団体かーという情報が載ったサイトが優先的に出て来るようにして、彼らの意欲を抑制させるように仕向けたりもしています。

 Google社等は、このようなNPOやベンチャー企業を通じて、警察等との情報共有を、少しでもしているのではないかと、私は思っています。

 例えば、そのような活動を行う企業の法人税を減免するような政策も、日本では必要ではないかと私は思っております。国に先んじて東京都が行っても良いのではないかと私は思っています。

 このような国、自治体そして民間が協力できるようなシステムを、あと3年で日本は構築できるでしょうか?それは今日ここにいるような方々が、どれくらい日本政府や東京都に働きかけるかに寄って来ると私は思います。

 どうか御協力を宜しくお願いします。ご静聴ありがとう御座いました。