AKB総選挙と参議院選挙・5—「自己破壊効果」と「徹底操作効果」 | GII REPORT

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政策コンサルタント事務所GIIのブログです。米国の首都ワシントンDCに10年ほど拠点を構えた時期は日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所その後は同学会防災・テロ対策研究会の業務を受託しています。連絡を頂ければメディア出演や講演の依頼にも応じます。

 私は今まで何度も「アナウンス効果」や「沈黙の螺旋効果」に関して言及して来た。しかし、それらは高度な政治学的理論であると同時に、実は誰もが直観的に思っていることでもある。“判官贔屓”とか“勝ち馬に乗る”といった表現は、ごく普通に昔からある。少なくとも「アナウンス効果」に関しては、多くの日本の選挙民が、80年代の前半には、薄々感じていた。もちろん予測報道を行う大手メディア関係者も、である。

 そこで80年代の半ばには、日本の大手メディアが一時的に、大々的に予測報道を行うことを控えていた時期もあった。1986年のダブル解散における自民党大勝の原因を、そこに求める考え方をする人もいる。あの時もし実際に起こったような自民党の大勝が大々的に予測報道されていたとしたら、あの時は自民党が大敗していたかもしれない。

 それと私個人の記憶では、あの時は不思議と、反自民党の大手メディアほど実際に起こったのに近い自民党の大勝を予測報道し、自民党に近い大手メディアほど自民党劣勢を報道していたように思う。中曽根総理に近しい政治評論家ほど、このままでは自民党が敗北し国鉄改革等が出来なくなるのではないか?—と危機感を訴えていた。

 このように「アナウンス効果」や「沈黙の螺旋効果」には「自己破壊効果」が付き纏っている。と言うか「アナウンス効果」を「(予測の)自己破壊効果」、「沈黙の螺旋効果」を「(予測の)自己実現効果」と呼ぶ人もいる。その方が一般的かもしれない。

 つまり予測されたことで、それが本当に起こる筈だったことが、起こらなくなったり、あるいは予測されたことで、もしかしたら起こらなかったかもしれない現象が、その通りに起こってしまうことを意味する。このようなことは原子物理学の世界でさえ、あると言われている。観察するための手段の影響で観察結果が本来と変わってしまう現象は、そのような理系の世界でさえ、問題になることがある。

 だが政治、経済、社会そして心理学等の世界では、理系の世界よりも深刻だろう。例えば不登校の高校生等が自ら心理学を勉強したりする程カウンセリング等が効かなくなるという考え方もある。カウンセラーの手の内を読まれてしまうからかも知れない。

 これは政治家や芸能人とファンの関係にも似たものがあるのではないだろうか?己の支持や人気が高いように見せることで、さらに支持や人気を高めようとしていると思われると、支持や人気が落ちる。己の支持や人気が落ちて来ているから助けて欲しいといったシグナルを支持者やファンに出すことで支持や人気を高めようとしていると思われると、さらに本当に支持や人気が落ちてしまう。難しい問題だと思う。

 AKBの総選挙で言うなら、速報で期待より低い順位しか出なかった女性が、そのことを強調すると、“判官贔屓”で票が増える可能性もあるが、それを彼女自身が期待しているかのような印象が、ファンの間で広まれば、ますます順位は落ちるかもしれない。総選挙投票直前の握手会で、自分の待ち行列が長いように見せようとすることで、あと1歩で望んでいた順位に入れそうだという印象をファンに与えて、票を増やそうという戦略を取って、それがファンに読まれれば、さらに票が減る。

 実際の選挙も同じだと思う。勝つために、勝てそうな印象を強めて“勝ち馬に乗る”心理を煽ったり、負けそうな印象を強めて“判官贔屓”で票を集めようとして、それが有権者に見抜かれれば、勝てた筈の候補者や政党も負けるかもしれない。

 どうしたらよいだろうか?それは何度も言うように、“強い支持意識”を育てるしかない。“強い支持意識”を持っている人には、今まで述べて来たような「自己破壊効果」が起きにくい。

 そのために私は繰り返し自民党は“安倍信三こそは一旦は正社員の身分を失って不安定な派遣労働者になった人でも大会社の社長になれるという敗者復活戦の夢を人々に与える存在である”等というイメージ戦略を重視するべきだと書いて来た。それも間違っていたとは思わない。

 だが自分がAKBに選挙や企業危機管理の研究材料として興味を持ち、とうとう握手会等にまで行ったり、今年はAKB総選挙で実際に投票しようと考えたりしているうちに、ある重要なことに気が付いた。それは米国の政党や政治団体が、日本の政党や政治団体のネット戦略がホームページ中心なのに対して、ブログやフェイスブック等を重視していることの理由でもあるような気がして来た。それは単に相互的コミュニケーションが有権者との間で起こる(あるいは起こっているように有権者に思わせる)ことだけではないのではないか?それは何か?

 心理学の世界に「徹底操作」という概念がある。特に「自己破壊効果」に、対処するためのものとは言えないが、要するに相手の心の中で起こった(カウンセラー等から見て)良い変化を強化することを意味する。「徹底操作」には色々な方法があるだろうが、最も分かりやすいのは、悪戯をして怒られて反省した子供に、反省文を書かせたりすることだろう。

 悪徳商法から真に素晴らしい宗教団体に至るまで、特に新入会員には、“ここに入会したお陰で自分は、こんなに良くなれた”というような文章を定期的に書かせ、それを指導的立場の人間が時々チェックしたりするのも同じだろう。チェックすることが大事なのではない。書かせることが大事なのである。それによって会員の意識が強くなる。

 トランプ氏とJFKが似ていると言ったら誰もが悪い冗談と思うかもしれないが、世代的にもトランプ氏がJFKを意識していることは間違いないように思う。二人の演説には、聴衆に問いかけて、聴衆が自分で考え(たような気にさせ)て、それを聴衆地震に答えさせるという点で非常な共通性が見られる。

 デマゴーグと言われる余地はあるだろう。しかし英語文化圏の人間なら誰もが知っているシェークスピアの『ジュリアス・シーザー』におけるアントニウスの演説にまで、その淵源を遡ることが出来る、実に奥の深い問題なのである。

 何れにしてもブログやフェイスブックに多少でも肯定的なコメントを書き込むことは、それに対する返事がなかったとしても、書くことで書いた人自身の支持意識が強化される。対象になるブログ等が政治家や政党のものでもAKBの女性でも同じだろう。

 自民党や自民党の候補者は、自分に興味を持ってブログやフェイスブックを見た人が、肯定的なコメントを書きたくなるような、ブログやフェイスブックの戦略に力を入れるべきだろう。今の日本の法律では、公示されたら内容の更新が出来なくなるようだが、そうであれば尚更、公示日直前に、肯定的なコメントを書きたくなるような文章等を、ブログやフェイスブックに乗せておくべきだろう。そうすれば興味を持ってブログ等を見て肯定的なコメントを書き込んだ人は、予測報道等に惑わされずに、投票してくれる可能性が高まると思う。

 このような心理学等は、米国が本場である。米国の政党や政治団体のネット戦略が、ホームページよりもブログやフェイスブック中心なのは、このような理論が応用されているのかもしれない。

 AKBの女性でも人気があって選挙で上位に入ったりする人は、外見や歌やダンス等の能力に恵まれた人よりも、ブログ等での活動が上手い人だと言われている。その理由も同じなのかもしれない。

 繰り返すが自民党はAKBの良いところを見習うべきなのである。AKBの総選挙まで、あと数日しかないが、参議院選挙までは、あと数週間ある。“自民党大勝”の可能性は幾らでもあるし、そう支持者の一人として思いたい。この思いを裏切らないためにも、ネット戦略等でも自民党は、いま以上に良い方向で頑張って欲しいものだと思う。