ひとりきり残されたリビング
去った彼の残像が頭にこびりついて
なすすべも無く立ち尽くすしかないこの身
最近の明らかに変わった態度で
抱えている不満に
気づいてたものの
ミツがあんなにハッキリと口に出して
私を責めたのは初めてで
お前は俺らを捨てたともとれる
衝撃の言葉が
リフレインし痺れる身体
……
でも今夜
これまでと違ったのは
私がいくら仲直りを投げかけても
歩み寄ろうとしてくれなかった
私の瞳を見ない
まるで知らない他人から
誹謗中傷されてるよう
私からのメッセージを遮断し
彼自身の意思で
私と向き合うことを避けてる
初めて知った
責められることより
辛いのは
抱えている感情を
無視されること
ミツの視界に私がイナイ
傍にいて
いくら話しかけても
鏡に映る幻影に
語りかけてるよう
どこにも
私のミツを見つけられない
『…… 分かった。
そんな風に思わせちゃって
ごめんなさい。
みっくんの気持ちはわかったから……
ただ
もう喧嘩したくないから
ちゃんと話そ 。
聞いて
私ね
『も いーよ』
淡々と投げるミツの声色の強さ
光に満たされたリビングなのに
手足が凍ったように冷えて
唇がぶるぶると震えて止まらない
『…… 。』
気持ちを分かって欲しくて
今夜は傍にいて欲しくて
何とか言葉を紡ごうとする私を
一瞥し何も語らず
途中だった食事もそのままに
テーブルを立つ恋しい背中
っ ??
ちょっと
待って！
みっくん待ってよ
まだ何も話してない
じゃ私がここに帰ってくればいいの？
そうする……
そうするから……
でもね
あの時そう感じてたなら
どうして言ってくれなかったの？
今になって言うなんて
ズルいよ
なんで いいよなんて ……
去っていこうとする後ろ姿を
引き止めたくて
必死に訴える私
最後の語尾が言葉にならない
振り向きもせず
持ち帰ったままの荷物を手に
黙ったまま閉じられた
リビングの扉
混乱し
視界はハレーションでぼやけ
玄関までを追いかける足はもつれ
つま先の感覚もない
ねぇ
待って
なんでみっくん逃げるの？
耳にハウリングする
悲鳴にも似た自らの声
目に映る
靴を履き足早にドアノブに手を掛ける姿に
心が破れそうで
嗚咽が止まらない
『君の質問には答えた
これ以上は喧嘩になるから……』
淡々と語る言葉に感情はなく
追いかけたくとも
その玄関のドアには近寄れないワタシ
視界に
ゆっくりと開いてく玄関の向こう側が映り
閉まるドア勢いに入り込む外界の空気
かすかに流れてきたナニカを
感じたと思った時には
消えてた背中
体が
心が
魂が
痺れて
……
崩れ堕ちた膝
ただただ
乳飲み子のように
私は
彼の後を追いすがるしかなかった夜