みなさま、ごきげんよう。


最近は、
スティーブン・スピルバーグ監督による「ウエスト・サイド・ストーリー」や、
アンドリュー・ロイド・ウェバー×スティーブン・スピルバーグ×トム・フーパーの「キャッツ」など、
ミュージカル映画の超大作が次々と企画されています。


そんな中で特に注目しているのは、
ウィキッド
の映画化です。



ウィキッドは、
2003年初演のブロードウェイ・ミュージカルで、
トニー賞に10部門ノミネートされた名作です。


この作品は、
巨大で美しい美術セットや、
自由を求めて」などの名曲の数々が魅力的ですが、

非常に強い政治的メッセージを持っているのも特徴です。


この作品の原作が書かれたのが湾岸戦争後の1995年、
ミュージカルが作られたのが、イラク戦争の真っ最中の2003年で、

その状況下で、
強者の論理
を徹底的に批判した作品です。

勝者が正義なのか?
強者が正義なのか?

悪とされている方が本当は正しい可能性もあるんじゃないか?
弱者は虐げられて良いのか?

そういう問題提起をする内容で、

芸術は弱者の声なき声を届けるためのもの
という、
アメリカのショウビズ界の精神そのもの
のような作品です。


ストーリーは、
オズの魔法使い」のアナザーストーリーといった感じで、
キャッチコピーの
誰も知らない、もう一つのオズの物語
というのが良く内容を表しています。

のちに「西の悪い魔女」と呼ばれることとなるエルファバと、
南の善い魔女」となるグリンダが、

魔法学校のルームメイトで親友だった
という衝撃の展開から物語はスタートします。

やがて「オズの魔法使い」の悪事に気付いた二人は、協力して戦いを挑むのですが、

エルファバオズの魔法使いの罠によって、悪い魔女」に仕立て上げられてしまいます

そして、
国民を率いる「善い魔女」となったグリンダと、
悪い魔女」の汚名を着せられたエルファバは、

本人達の意に反して、対立を余儀なくされ…

というストーリーです。

現代アメリカの闇を痛烈に批判した、素晴らしい物語のミュージカルです。


そして、ストーリーと同じくらい素晴らしいのが、オリジナルの主演2人です。

エルファバを演じたのは、
アナと雪の女王」のエルサこと、
イディナ・メンゼルさんです。

アナ雪のエルサのモデルがエルファバなのは言うまでもなく、
イディナ・メンゼルさんが配役されたのは、一種のセルフパロディです。



そして、グリンダを演じたのは、
クリスティン・チェノウェスさんです。

クリスティン・チェノウェスさんは、
独特の金切声で、まくし立てるように歌う歌い方が特徴的なミュージカルスターです。

グリンダの歌う曲は、
クリスティン・チェノウェスさんが演じることを前提として書かれており、

彼女の独特な歌声でなければ、
曲の良さを表現することは不可能です。



ウィキッド」に限らず、
ミュージカルの多くは、
初演のオリジナルキャストを想定して、楽曲が作成されています。

なので、ほとんどの場合、
オリジナルキャストを越えることは難しいです。

そうは言っても、ロングラン公演などの場合、
永久にオリジナルキャストが同じ役を演じ続けるのは不可能なので、
キャストの交代は仕方がないし、当然だと思います。

ですが、映画化の時には、
オリジナルキャストに演じて欲しいです。

オリジナルのブロードウェイ公演から、何十年も経ってからの映画化の場合は仕方がないですが、

ブロードウェイ初演から映画化までの期間が短く、オリジナルキャストが現役の場合でも、
オリジナルキャストではなく、有名なハリウッドスターが配役される場合がほとんどです。

個人的には、こういったハリウッドの風潮には反対です。
マイ・フェア・レディ」の悲劇から何も学んでいないと感じてしまいます。

(「マイ・フェア・レディ」の
主人公イライザのオリジナルキャストは
ジュリー・アンドリュースさんでしたが、
映画化では知名度を重視して
オードリー・へプバーンさんがキャスティングされました。
しかし、オードリー・へプバーンさんは歌が苦手だったため、
歌は全て吹き替えとなり、
その結果、アカデミー賞にはノミネートすらされませんでした。
一方、役を奪われたジュリー・アンドリュースさんは
同じ年に「メリーポピンズ」に主演し、
見事アカデミー賞を受賞するという、
皮肉な結果となりました)


ということで、
ここからは、オリジナルキャストのインパクトが強すぎて絶対に越えられない作品を紹介したいと思います。


ハーベイ・ファイアスタイン(「ヘアスプレー」)

巨漢でオネエの俳優さんで、
演出や脚本も手掛けるマルチな天才です。
(ミュージカルキンキーブーツ」の脚本も担当しています)

ダミ声で有名で、
分かりやすく言うと、プロレスラーの天龍源一郎さんとほぼ同じ声です。

ですが、そんな声にも関わらず、
ミュージカルヘアスプレー」では、見事に歌っています。
(ハーベイ・ファイアスタインさんを初めて見る人は、「これを歌ってるって言って良いの?」と思うかも知れませんが…)

その結果、トニー賞の主演男優賞を受賞しました。

なので、演技さえ上手なら、天龍さんが読売演劇賞を獲ることも可能ってことですね(笑)


Dameアンジェラ・ランズベリー  (「スウィーニー・トッド」)

93歳の現在も現役の、
ブロードウェイの女王です。

独特の震える「しゃがれ声」が特徴で、
歌うというより語りかけるように歌います。
(ただし音程は非常に正確です)

「美しい声で歌い上げる」ことを「歌が上手」と言うのなら、
アンジェラ・ランズベリーさんは歌が上手とは言えないのかも知れませんが、
その表現力には誰も敵いません。

その結果、トニー賞は史上最多の回受賞しています。

ディズニーアニメ「美女と野獣」のポット婦人でも有名です。


他にも、
リトル・ナイト・ミュージック」の
グリニス・ジョンズさんや、

日曜日に公園でジョージと」の
バーナデット・ピータースさんや、

そして、
アニーよ銃をとれ」の
エセル・マーマンさんも、

絶対に他の人には真似できない、唯一無二の歌声と思います。


さて、「ウィキッド」の映画版のキャストはまだ発表されませんが、
一体誰が配役されるのでしょうか。

個人的には、
イディナ・メンゼルさんとクリスティン・チェノウェスさんにしか、
ウィキッド」の名曲は表現できないと思っています。

まあ、スティーブン・ダルトリーさんが監督なので、妙な配役はしないと信じていますが…

ただ、仮に知名度重視で有名なハリウッドスターが配役されたとしても、
合唱コンクールみたいな歌い方の日本版よりは、まともな作品になるとは思います。


あくまでも個人の意見ですが、
ブロードウェイのオリジナル版の良さをちゃんと表現できている日本版」は、ゼロだと思っています。

日本版のキャストの人って、
オリジナルの映像とか観てないのかな?
って思ってて。
(実際はそんなことは無いとは思いますけど)

なんか「ホットドッグにお醤油をかけて食べさせられてる」みたいな違和感を感じます。

ボイストレーナーのお手本通りに歌うことに何の意味があるんだろう?って思いますし、

だったらボカロでいいじゃんって思っちゃいます(笑)


一番言いたいのは、
ブロードウェイミュージカルに、歌の上手さなんて全く必要ない
ってことです!!

日本のミュージカルファンの人たちに、そのことに早く気づいて欲しいです。


最後まで読んで戴き、ありがとうございました。
楽しんで戴けていたら嬉しいです。 

In case I don't see ya, good afternoon, good evening, and good night!

xxx