刑事事件で逮捕された人と警察署で初めて面会する場合、その事件を報道する新聞記事を事前に確認することがあります。

 

ただし、被疑者本人には気付かれないよう注意します。

 

実名報道がなされている場合、本人がショックを受けてしまうからです。

 

日本の報道機関は、おおむね事件の加害者や被害者の個人を特定する実名報道を原則とし、匿名は例外としています。

 

国民の知る権利に応えるためとか、報道を正確かつ客観的なものとするためとか、また警察の活動の是非などについて検証を可能にするなどのために実名報道は必要であると説明されています。


他方で、無罪推定の原則があるにも関わらず、逮捕されると社会は犯人と思ってしまうため、実名報道は罪のない市民にとって取り返しのつかない不利益となります。

 

また真犯人であっても逮捕歴があると知られることは本人の社会復帰を困難にし、更生の妨げになりえます。

 

 

本人の家族にも重大な影響が及び、地域社会や学校でつらい目にあう事例に接したこともあります。

 

 

特に現代のインターネット社会では記事が消えることなく残ってしまいます。

 

事件報道自体は防犯意識の喚起などのために必要でしょうし、犯人と疑われる人の職業、性別、年齢などは事件の性質を知るために必要な情報になりえます。

 

政治家の贈収賄事件など個人を特定する必要性の高い事例もあります。

 

 

しかし、一般的な事件で逮捕された人の住所や名前が報道されることにどれほどの意味があるのかと、実名報道をされた被疑者本人やその家族に会うたびに思ってしまいます。

 

 

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素描集 第244集(執筆:弁護士小林明人)より転載
※ 読みやすくするため、一部改行しております