それから、私のシャブによる怪しげな奇行が始まった。
今、泊まっている旅館の部屋の隣から、SEXの行為以外の物音が聴こえてくるのだ。安い旅館なので、すぐ隣の音も聞こえてしまう。
その日から、私は隣側の壁に耳をつけて隣の様子を伺うようになった。SEXが始まる前に洗面所で何かを洗っている。それもガラスのようなものを。
それから、静かになる。さらにまたガラスのようなものを洗面所で洗う。毎日、懲りもなく聴いていると、洗面所で洗うガラスは注射器のように聴こえてきた。
使い終わった注射器を丁寧に洗面所で洗い、最後に針をさして針も洗っている。針を洗うというのは、注射器に水を入れ、針を刺して勢いよく押すと、勢いよく針を通って水が飛び出る。いわゆるピストン運動のようなものだ。
そんな行為を30分毎にやっている。こんな大人(恐らく)もいるんだなと感心していた。
私はちょっとしたいたずらを考えてみた。旅館にはテレビも設置してあり、当時は2チャンネルなどというチャンネルがあった。多くは、連れ込み旅館やラブホテルにはある。いわゆる今でいうAV画像のようなものだ。チャンネルを2に回せば、自然と誰でも視れるようになっていた。
隣のSEXも終わったらしく静かになったので、2チャンネルを大音量でかけてみたら、隣はどんな反応をするだろうか?そんな馬鹿げたことを真剣に考えていた。
早速、チャンネルを2に設定し、ボリュームアップをしてみた。
私は隣の壁にへばりついていた。
しばらく、2チャンネルのドラマが展開していくうちに段々とエロっぽくなるやいなや、隣は洗面所で注射器を洗い、SEXの準備を始めたのである。
そんなことばかりやっているので、右耳と右の首筋がだるい状態から、痛くて右に首を回すのも困難になってきてしまった。
夏子に話すと、ガラスコップの飲み口を壁に当てがって、ガラスのコップの底に耳を当てて、聴くといいよと良い提案を与えてくれた。コップを壁につけてもコップの底から聴こえてくる。
さすが! 夏子! 夏子は、私を狂人扱いにしていただろうと思う。