北の歓楽街、ススキノの外れ。

小さなベッドに横たわる俺に、嬢は手慣れた様子で声をかけた。

「緊張してますか?」

 

「え、あの、はい。なんせだいぶ久々なもんで」

心を見透かされて動揺する俺の様子に、嬢はくすりと笑う。

 

「我慢しなくていいですからね。じゃあ準備するんで、うがいして待っててください」

ぬるい水でうがいをしながら、俺はこれから始まるあれやこれやを想像して、期待と不安に胸を高鳴らせた。

 

 

 

ここへ来ようと思ったことに、特に深い意味はない。

仕事のストレス、代わり映えしない日々への反抗、斉藤和義の「男節」を久々に聞いたこと、なんとなく人間として健康に生きるため・・・。それらの理由はきっとすべて正しいけれど、すべての理由を言い尽くせてもいない。

 

指名はしないと決めていたが、出てきた嬢は小柄でショートカットの俺好み。日頃の行いが良いからだろう。心の中でガッツポーズをつくった。

 

「じゃあ始めますね」

俺の秘部をじっくりと見つめ、ヌキにかかる嬢。小さな手が驚くほど器用に動く。時に優しく、時に激しく。俺は麻酔でしびれたような快感に身を委ねる。

 

10分、20分・・・。

「根っこが太いとヌキづらいんですよね」

嬢の言葉に「そういうものなのか」と思いながら、俺は吐息で返事をするのが精一杯だった。

 

「ちょっと吸いますね」

「痛くないですか?」

「もうちょっとかな」

もうろうとする意識のなかで、嬢の言葉が俺の体に優しく染み渡る。

 

そして迎えた絶頂の瞬間。

嬢は「ふう」と一息つくと、俺を見て「がんばりましたね」と微笑んだ。

「がんばったのはそちらです。おつかれさま」と言いたかったけど、脱力感に襲われて声が出なかった。

 

「これどうしますか?」

1分前まで俺の体の一部だった白い残骸を見せてくれる嬢。

追加料金を払ったら飲んでくれるのかな、と思いながら、変態だと思われたらどうしようと急に恥ずかしくなり「捨てちゃってください」と答えた。

嬢は「たまに持って帰るひともいるんですよ」と教えてくれた。そんなやつもいるのか。

 

 

嬢にまさぐられ続けた60分は、長かったのか、短かったのか。

すっきりしたような、ぐったりしたような。

ただ、60分前の自分とは確実に違う自分がいた。

 

 

帰り際、嬢は俺の耳元で予想外のことを持ちかけてきた。

「あしたも来てくれませんか・・?」

驚いて嬢を振り向くと、潤んだ瞳で俺を見つめてくる嬢。

この店はあしたは休みだが、自身は系列店に出勤しているため、できればそちらに来てほしいのだという。

 

営業トークだとわかっていながら、自分を必要としてくれることがうれしかった。風俗にハマる男の心理というのはこういうものなのだろう。

まあ別にいいですけど、と答えると、嬢の表情はぱぁっと明るくなり、こちらもうれしくなってしまう。愛人6号くらいにしてやってもいいぞ。

 

 

 

 

翌日。

系列店を訪れた俺がベッドに横になって嬢を待っていると、サウナが好きそうな黒光りした男が俺のもとを訪れた。

「このたびは連日ありがとうございます」

店長、あるいは黒服だろうか。わざわざお礼を言いに来たらしい。

 

 

ほどなくやって来た嬢に「きのうはありがとう」と声をかける。

ちょっと恥ずかしそうに「こちらこそ」と答える嬢は、なんだかきのうよりかわいく見えた。

 

嬢に秘部をさらすことには、すでに抵抗がなくなっていた。

嬢は俺の秘部をじーっと観察したり、つんつんとつついたりした。

前日の熱いプレイを思い出し、下半身に血が集まるのを感じる。わざわざ2日連続で会いに来たのだ。きょうはどんなサービスをしてくれるのだろう。

 

 

そして嬢は言った。

「うん。だいじょぶそうですね」

 

 

 

 

 

「じゃあ、抜糸は1週間後に」

 

 

 

親知らずを抜いた穴が、急に痛み出した。