いつも散歩の途中に出合う「家なき仔ネコ」、右の道を行っても左の坂道を下ってもどちらでも出合う「家なき仔ネコ」。
坂道を下った所には大きな家があるがそこは無人、家主は向いに屋敷があり広い庭もある。
その庭の垣根の隙間からじょうずに出入りする「家なき仔ネコ」、夫に「ほら、あそこにいるわ、まだ小さいわ、、」
と私。

白内障の手術をしてからよく眼が見えるようになった夫は「なにか持って来たったらよかったな~、、、」という。
「家なき仔ネコ」なので餌はやってはいけないのだが、まだミルクを飲むくらいの「小さい仔」なのだ。

この寒空に小さくなってじっと陽のあたる所にうずくまっている。
買い物をするスパーでなにか夫は物色している。「ちりめんじゃこ」のパックを手にしている。

「お父さん、それはなんでもあかんわ、、、硬いわ、まだ子供やよ、、、、」と小さな声で私。
「これやったらええのと違う?」と軟らかい「かにかまぼこ」を一袋買う。
98円也、夫は道を歩きながら他に買った物と別の袋に入れ替えて、それだけを上着のポケットからすぐ出せるようにしまった。

夕暮れ近くなりやっと坂道まで来たら、「家なき仔ネコ」はいない。
でも夫はポケットから出して袋を破り「仔ネコ」の座っていた所に2~3個投げてやった。
また戻ってくるだろうと、、、、



娘の飼い猫の「サンちゃん」のことを私は思い出していた。
束の間だったが一緒に生活して、それはもう愉しかった。
毎日「サンちゃん」のチリンチリンという鈴の音で起こされるのだったが、それはもう喩えようもなくいい響きだった。

猫に関心のなかった夫が猫に関心を持っようになったのは「サンちゃん」のお陰なのだ。
夫もちょっぴり「サンちゃん」のことは忘れられないのだろう、、、、

その日の夕食、夫は「仔ネコ」と同じ「かにかまぼこ」で一杯飲んだ。