Loverholic Lucifer#23 | まみんのブログ

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Loverholic Lucifer

# scene 23. Adrenaline







キボムの聴覚の問題はその日以降たびたび現れた。

ジョンヒョンとの会話の途中でもキボムの方から話が途切れた。急に音が聞こえなくなりジョンヒョンが何を言ってるかわからないからだ。

ジョンヒョンは何も考えずしばらくキボムの返事を待っているうちに、また耳が聞こえてないんだと気付いた。ジョンヒョンが心配そうにキボムを見ると、キボムもそんなジョンヒョンの視線を感じ、自分がまた聞こえてないんだという事実を知る。

そんな事態が数時間周期で繰り返された。短くて30分、長いと2時間ほど。聴覚が戻ってもしばらくするとまた聞こえなくなる状態が連続した。


『君に向かう感情が堪え切れないほど大きくなってるんだ。それで自分でもコントロールできずに成長していってる』


数日前にジンギが言った言葉だ。
ジョンヒョンは長い苦悩の果てに、キボムがこうなった理由は、あの日ジョンヒョンを抱いてミノの病室から逃げようと翼を使ったために無理したのだろうという結論を出した。
それ以外に考えられなかった。


「最近疲れがたまってるとかないか?」

「……」

「また聞こえないのか?」


そう尋ねてもキボムからは何の返事もなかった。また始まったようだ。
ジョンヒョンはため息をついてキボムをつつき、耳を指差して手で×を作って見せると、ようやく意味がわかったのかキボムはゆっくりうなずいた。

キボムの耳が聞こえなくなる周期はだんだん短くなっていた。問題が深まってるという意味だろう。ジョンヒョンは毎日毎日が焦燥の連続だった。
もうキボムと一緒にいれる時間は5日も残ってなかった。

その間だけでも何の不安もなく笑って過ごさせてあげたいのに。なんでこんなことになったんだ。


「…大丈夫だよ」

「え?」

ますます悪化してるというのに何が大丈夫なのか。ジョンヒョンはキボムの不意の言葉の意味がわからず眉をひそめた。

「僕は今もすごく幸せ。ジョンヒョン、僕いっぱい笑ってるよ」

「…口は減らないな。力使っちゃだめだって何回も言ったのに。言うこときかないからこうなったんだよ」


ジョンヒョンの思考を読み取ったようだった。ジョンヒョンはますます胸が苦しくなりぶつぶつ文句を言った。そんなジョンヒョンをじっと見ていたキボムの瞳が突然エメラルド色に光った。
久々に見る瞳の変化にジョンヒョンが驚いた刹那、キボムはジョンヒョンの隣に寄り添って座り、彼の肩に小さな頭をもたれた。
ジョンヒョンはゆっくり顔を向けキボムを見下ろした。今日は特に彼の肌が眩しいほど白かった。


「ジョンヒョンのために必要な時だけ使ったんだから、僕はこうなったこと後悔してない」

「…今聞こえてるのか?俺の言ったこと聞こえたのか?」


ついさっきまで聞こえないと言ってたのに、キボムの答えは驚くほどはっきりしていた。聴覚が戻ったのかというジョンヒョンの問いかけにキボムが答えるまで、しばらく間が開いた。

「…ううん、聞こえない」
「え?どうなってんだ?」
「ジョンヒョンの考えを読んでるの」
「なに!?」


ジョンヒョンはキボムの返事に動揺した。瞳がエメラルド色に変わったのも、ジョンヒョンの言葉にすぐ答えが返ってこなかったのも、彼の思考を読むのに時間がかかってたからに違いない。
見習いルシファーが思考を読めるのは、たまに相手の人間との交感が強くなった時自然と記憶や感情が流入する場合だけで、ルシファー自身の意思で考えを読みとるのは正式ルシファーでなければ不可能だった。

ジョンヒョンはますます不安になった。このままじゃ体が弱って音も聞こえないキボムにもっと負担がかかるんじゃないか。


「勝手に俺の考えを読むなよ!」

「…やだ。ジョンヒョンと話したい」

「我がまま言うな。他のことはともかくこれだけは絶対駄目だ。まったく!」


結局ジョンヒョンは肩に寄りかかるキボムを押し戻し怒りだした。なんでこんなに思い通りにいかないのか、ジョンヒョンはもう発狂したかった。
キボムがこんな危機に陥った理由は、ジョンヒョンが関連した事態に見境なく許されない能力を使ったからだ。
それならジョンヒョンはキボムが力を使うはめにならないようにすれば問題は解決するんじゃないかと思った。

しかしこうなった以上、もはやキボムが能力を使うのをジョンヒョンは止められない。やめろと言っても勝手に考えを読む相手をどうやって止めればいいんだ。
今まで考えていたジョンヒョンなりの解決策などまったく意味がない。


「ジョンヒョン―」

「もういい。お前とは話さない。だから考え読むな!」

「ジョンヒョンは僕と話したくないの?」

「そうじゃなくて、このままだとお前の体に無理がかかるだろ!耳が聞こえないだけで済まなくなるぞ!」

「…じゃあどうしたらいいの?怖いのに!」


ついにキボムも大声を上げた。ジョンヒョンはやっと冷静になり理性的にキボムを見れるようになった。最近感情が激動することが増えた。

ジョンヒョンを映すキボムの瞳は震え続けていた。ただでさえ色白のキボムがさらに蒼白になり、もはや悲哀を帯びていた。


「…僕も、僕もこんなこと一度もなかった。だから怖くて仕方ない」

「キボム」

「ジョンヒョンが話しかけてくれてるのに何も聞こえない、自分の話し声も聞こえなくて…怖い、怖いよ」

「……」

「でもジョンヒョンと話してたら…ちょっと安心できるから」


キボムは不安そうな手つきでジョンヒョンの服をつかみ引っ張った。
それは今にも倒れそうな自分を支えてほしいというメッセージのようで、ジョンヒョンはそんなキボムを遠ざけることもできず彼のそばにいた。

いつものように正直に言えなかったが、本当は心配でたまらなかった。ジョンヒョンの立ち場でもつらくてたまらないのに、突然全世界の音を失ったキボム自身はどうだろう。
今は聞こえたり聞こえなかったりを繰り返しているが、このまま永遠に聴覚を失ってしまうかもしれない。

立場を変えて考えてみると、それは歌手であるジョンヒョンにとっては命を奪われるのと同じだ。ジョンヒョンは今自分がどんな表情をしているのか気付かないままぼんやりとキボムを眺めていた。
他人から見たら魂を抜かれたような姿だった。キボムはジョンヒョンの首に両腕を巻き付けた。


「ジョンヒョン」

「……」

「お願いがあるの」

「…なんだよ」

「…キス…して」


キボムは小さな声で囁いた。まるで吐息のようだった。キボムがこんなに直接的にスキンシップを求めるのは初めてだった。

ジョンヒョンはキボムを胸に抱いたままその言葉を聞いた瞬間、体の中のどこかが耐えられないほどくすぐったくなった。

なんだ、この感覚。

一度も感じたことのない不思議な感覚がジョンヒョンの体を走り抜けた。
しっかりと胸に抱いてるのに、キボムは今にも消え去ってしまいそうだった。ジョンヒョンは急に涙が出そうになるほど目が熱くなった。

堪えてきた何もかもが今すぐ崩れ落ちていくような感情。また鼓動が早まった。
どくん、どくん。ジョンヒョンの耳元に激しい心臓の脈動がこだました。


この音は聞こえるだろうか。こんなにも鼓動が早まるという予想外の展開は緊張のせいだろうか。それとも…それとも。

「お前は…それを本当に望んでるのか?」

「……」

「キボム」

「ジョンヒョンを…」

感じたい。


家の中全体が微妙な夏の熱気に包まれた。ジョンヒョンは当然拒絶しようと思ったが、よく考えるとジョンヒョンの立場から見れば特に害のない頼みだった。

一回キスするくらい難しい話でもないし、ジョンヒョンはなぜ今までキボムへのスキンシップを頑なにためらっていたのか、自分でも理解できなかった。


もともとたいして節操のあるタイプでもなく、スキンシップも比較的好きなほうだ。もし彼を抱いたところではっきり言ってつらいのはジョンヒョンより彼を受け入れるキボムだ。
口に出せない恥ずかしい過去だが、デビュー前にはその日会ったばかりの女と酒の勢いで一晩共にし、翌朝言葉も交わさず別れたこともあった。
その女も、そしてジョンヒョンも、お互いに相手が誰なのかなんて覚えてもいないほどの無意味な一瞬の縁。


『キボムが僕に抱かれるとどんなに喜ぶか、君には想像もできないだろう?』


―なのにキボム、お前はなぜ違うんだ?

ジョンヒョンはミノが言った言葉を鮮明に思い出した。
その瞬間、チェ・ミノの下で真っ白な胸や太股をさらけ出しあえぐキボムの姿が脳裏をよぎった。

一瞬体のどこかで何かが這いまわるような感覚がジョンヒョンの全身を貫いた。気分が悪いのかいいのかわからなかったが、明らかなのはもう我慢できないという事実だった。
ジョンヒョンの息は荒くなった。初めて感じる感覚。


「…お前から誘ったんだ」

「……」

「俺を恨むな」


一度溢れだした感情はもう元に戻せなかった。ジョンヒョンは聞こえないキボムにつぶやくと口付けた。

突然の思考と感情の変化は明らかに正常ではなかった。唇が触れた瞬間、キボムは自然に目を閉じた。思ったよりずっと柔らかく小さな唇。

ジョンヒョンはふと思った。
もしかすると、俺は無意識に一度キボムを抱いてみたいと思ってたんじゃないか。
お前のピンクの唇を見る時も、他の男よりずいぶん細い腰を見る時も、俺は本能的にお前を求めていたのかもしれない。


不思議に長い付き合いの恋人のように何の違和感もなかった。ジョンヒョンはためらいもせずキボムの口の中に侵入した。ジョンヒョンの胸でキボムが小さく身動きするのを感じた。
熱い舌がからまり合った。


「はあ…」

ジョンヒョンの濃厚なキスに翻弄された唇の隙間からキボムの吐息がこぼれる。その瞬間リビングのライトが急に消えた。
停電かと思ったが今のジョンヒョンとキボムにはそんなことはどうでもよかった。むしろ暗い方が都合がいい。重なる唇とからみつく舌がいやらしい音を立てた。

混ざり合う唾液は想像よりずっと甘く、相変わらず異様に大きく響く鼓動の間に時折聞こえるキボムの声は、妖しい色気があった。
ジョンヒョンは高熱に浮かされたように頭の中が熱くなるのを感じた。


「ああっ…!」

おかしい。異様な感情が全身にからみついていた。ジョンヒョンは無言でキボムをソファに押し倒し、その上に乗り上げた。

驚いたキボムは声を上げて後ろに倒れた。ジョンヒョンは自分の下で唾液に濡れた唇で瞳を震わせているキボムをじっと見下ろした。
小さな顔に乱れかかる白金色の髪と、その隙間からジョンヒョンを見つめるキボムの黒い瞳。闇の中でもそれだけははっきりと見えた。

彼と目が合うと同時に心の中で何かが切れた。ジョンヒョンは飢えたようにキボムの真っ白な首に顔を埋めた。

「うっ、ううん…」

キボムは首を振って声をもらした。

まさかこんないやらしい声を出すとは思わなかった。
チェ・ミノが言った言葉は全部事実だったんだ。


何かが込み上げ続けた。
いったいなんだ、この堪え切れない感情は。

ジョンヒョンは熱に浮かされ溶け落ちそうな頭で荒い息をつき、キボムの白い首を夢中で舐めた。
信じられないほど甘く柔らかいキボムの首はゼリーを舐めているような感覚だった。
ジョンヒョンは乱暴な手つきでキボムの服をめくり上げ、その手はためらいなくキボムの乳首を蹂躙した。


「あ、ジョンヒョン…痛い!」

突然感じた刺激にキボムは泣き声で訴えたがジョンヒョンは手を止めなかった。いや、止められなかったと表現したほうがふさわしい。
彼の手が固く尖りはじめた突起を回すように触れ、キボムの平らな胸を撫で下ろすとさらにせつない声が上がった。

こんなに素直に飾らない反応を見せる相手は初めてだ。ジョンヒョンは徐々に下に下がりキボムの太股の上に乗り上げ、腰をかがめて彼のなめらかな腹部に口付けた。


「ああ、ジョンヒョン…」

「…もうちょっと太ったほうがいいな。男の腰とは思えない…」


ジョンヒョンは片手でつかめるキボムの脇腹を撫で指でくすぐりながらつぶやいた。
その割には下半身に感じる太股は顔を埋ずめたくなるほどふっくらしていた。

男じゃないのかもしれない。
一度も考えたことがなかったが、実際に味わうキボムの体は驚くほど肉感的だった。ジョンヒョンの舌がキボムの臍の周りを徘徊した。キボムはか細い腰をよじり声を上げた。

ジョンヒョンの下半身に押さえつけられた彼の太股が突然の刺激に反応して震えた。おどろくほど敏感な体。女でもこうはならない。ジョンヒョンの手がキボムの下半身に向かった。
ジョンヒョンは衣服の上から感じるふくらみを確認すると、キボムは確かに男なんだと信じることができた。


「待って…!」

予想もしなかった展開だったのか、キボムはうろたえた声で叫んだ。ジョンヒョンはキボムのズボンを下ろそうとしていたが、キボムの言葉を聞いたとたんにはっとした。

理性を失った自分に気付いたからだ。ジョンヒョンはようやく自分が繰り広げた状況が目に入った。
キボムは、胸があらわになるほど服をめくられてジョンヒョンの下に押さえつけられ、ソファに横たわっていた。

乱れた艶のある髪と揺らめく瞳、首から腹部まで真っ赤に染まった白い体。紅潮した頬。
彼をこんな状態にしたのが自分である事実は決して否定できない。その瞬間ジョンヒョンは大きな罪悪感にとらわれた。


お、俺はどうしたんだ?
その姿を見た瞬間すべての状況を把握したと同時に驚きを隠せないジョンヒョンが、慌ててキボムを抱き上げて起こした。なぜこんなことをしたのか全くわからなかった。

ただキボムは一度キスしてほしいと言っただけなのに。セックスに溺れたように襲いかかるなんて。欲求不満か!?最低だ!

ジョンヒョンは心の中で自分を罵り急いでキボムの服と乱れた髪を整えた。
キボムはまだ荒い呼吸のまま、急に落ち付いたジョンヒョンの手に身を任せた。


「ご、ごめん!」

「ジョンヒョン…」

「思わず。どうかしてたんだ。ゆ…許してくれ」

「……」

「俺を責めてくれ。いや、殴ってくれ。何発でも殴ってくれ。ああ、なんでこんなこと」


思いつくまま話し続けたジョンヒョンは大きく一息ついた。さっきは間違いなく何かに精神を支配されていた。そうでなければ急にあんな行動に出るはずがない。

ジョンヒョンはキボムに申し訳なくて顔も上げられなかった。
最初はキボムの言う通りやけになってちょっと楽しむつもりでキスだけして終わろうと思ったのに。なんでこんなことになったんだ。

どんなに驚いただろうと思うとジョンヒョンは何も言えなかった。その時、キボムがジョンヒョンの手をぎゅっと握った。ようやくジョンヒョンはうつむいていた顔を上げた。
キボムは予想外に明るく笑っていた。


「…いいの、謝らないで」

「……」

「ジョンヒョンは僕の感情を共有しただけだよ」

「…え?」

ジョンヒョンは今のキボムの言葉のせいなのか、それとも信じられないほど穏やかなキボムの表情のせいなのか、何の言葉も出せなかった。


「今ジョンヒョンが感じてたのは僕の感情だよ。だからジョンヒョンが悪いんじゃない。謝らないで」

「……」

「…聞こえる。ジョンヒョンがキスしてくれた時から、聞こえてる」


再び耳が聞こえるようになったのは確かに喜ばしいが、なぜかキボムの笑顔には悲しみがこもっていた。キボムは急に全身の力を抜いたままうつむき、ジョンヒョンの肩に顔を埋めた。
胸をくすぐるキボムの息遣いに、ジョンヒョンは身動きできなかった。


今お前と俺が感情を共有した?…じゃあさっき俺が感じたあの息も止まりそうな感情は全部お前のものなのか?それで俺が我を忘れてお前を抱こうとしたのか?


背筋に寒気が走った。

じゃあいったいお前は俺を見るたびに何を考えて…


そして、ジョンヒョンはそれから長い時間が経ってから、キボムが気を失っていることに気が付いた。