ツキアカリイノリウタ3~ホシヅクヨル~【スザルル】 | geteiltさんのブログ

ツキアカリイノリウタ3~ホシヅクヨル~【スザルル】


『ツキアカリイノリウタ』3~ホシヅクヨル~




三度目の夜。
昨日の雪は積もることもなく、既に溶けて消えてしまった。
夜明け近くまでルルーシュの歌を聴いて、その時はには止んでいた雪が昼にはもう無くて、スザクは少し淋しい想いを噛み締めた。
『明日も会えないかな?』
『…すまない。明日は何時に来られるか…わからないんだ』
スザクの問いに、たくさんの歌を歌い、少し疲れたような表情でルルーシュはそう答えた。
白み始める空の下、明け方の凍える空気からルルーシュを守りたくて連れていった小さな喫茶店で。
夜にだけ開いている喫茶店、住宅街にひっそりとある其処はスザクの隠れ家のような場所だった。
古ぼけた店内には月夜の空を描いた絵が飾られていて、いつも同じ曲が流れて居て。
馴染みの店主がカウンターの奥に居るだけの控え目な店で、スザクはルルーシュに尋ねたのだ。
『明日も会えないか』と。
彼はわからないと言った。
少し憂いを含んだ瞳をして、『何時に来られるかわからない』と言った後、俯いてしまった。
スザクには何も言えなくて、気まずく時が過ぎるうちに閉店を言い渡されて…
店を出る間際、スザクはそっとルルーシュに囁いた。
『待ってるから…』
驚いたような紫水晶の瞳を見詰めて、そのまま走って帰った。
空が明るくなり陽が天に立ち、黄昏れて沈み、暗くなるまで一日中、眠る気にもならずにルルーシュのことを考えていた。
自分は何も知らない。
音楽のこともルルーシュの住まいも、昼間何をしていて何故夜には外で歌うのかも。
ルルーシュのことでスザクが知っているのは名前と姿。
とても美しいこと、歌うのが好きだということ…それだけだ。
連絡先も何も知らない。
殆ど家との連絡にしか使っていない携帯電話を手に持って、スザクは溜息を吐いた。
「電話番号くらい、尋いとけばよかったな…」
壁を背凭れに座った膝の上には、昨日買ったばかりのギターの本。
早く弾けるようになりたくて、ギターが弾けるようになればルルーシュにもっと近付ける気がして読み始めたのに、集中出来ずにただ膝に広げたまま…
気付いたら、真っ黒な夜空に星が輝いていた。
時計を見ると、七時二十八分。
『待ってるから』
そう言った自分自身の言葉を思い出して、スザクは立ち上がる。
カーキのダウンジャケットを羽織り、本と財布、携帯電話をリュックに放り込んで。
少し重い足取りのまま、夜道を歩いた。
家からは少し離れているあの路地に、あの街路燈の下に居れば…会える気がしていた。
ルルーシュは『わからない』とは言ったけれど、『来られない』とは言わなかったのだから。







はあ、と吐き出した息が白く夜空に溶けていく。
此処に着いてから何時間経ったのだろう。
腕時計を忘れてきたのに気付いたのは、この街路燈が見えた時だった。
確認しようと思えば携帯電話で時刻が見られるのだけれど、それをする気にはなれなくて。
持参した本を読みながら、何度となく見上げた空は綺麗な星月夜。
深く黒い空に白い月、煌めく星々。
冷たく澄んだ空気はそれらをはっきりと際立たせて見せて、ルルーシュみたいだとスザクは思った。
本を持っていた手は冷えてかじかんでしまっている。
体中が冷えて、指先や鼻の頭なんて痛いくらいなのに、スザクはそこを動く気にはならなかった。
(待ってる…って言ったんだ)
昨夜自覚したばかりの恋心に、浮かれてでもいるのかも知れない。
ルルーシュが来るかどうかなんて、昨日以上にわからない…寧ろ絶望的なのに。
(馬鹿…だな。僕…)
自嘲気味に笑って、また手元の本に視線を戻す。
いくつもの写真や図解で解りやすく、『ギターの弾き方』を説明する初心者向けの本。
後半には練習用の、簡単な譜面も載っていたけれど…スザクにはまだ、楽譜は読めない。
(ルルーシュの気持ちも、この本みたいにわかりやすく解説してくれる物があればいいのに…)
そんなことを考えて、首を振る。
ルルーシュにとって自分はまだ、一昨日会ったばかりの他人なのだ。
気持ちがどうとか、それ以前の問題だ。
(会いたい、なぁ…)
時計を確認しなくとも、冷たくなる空気と…僅かでもあった人通りが途絶えていることで、既に夜中になりかけていることがわかる。
スザクは本を閉じ、リュックに仕舞い込んで…そのまま膝を抱えて蹲った。
顔だけ上げて、野良犬のように夜空を見上げる。
煌々と輝く星月夜。
また一つ溜息を吐き出して、以前ルルーシュが消えていった路地の方向を眺めてみる。
(来るわけない…かな…)
そう思いながら反対側の、喫茶店のある方向に視線を移すと。
スザクはそのまま硬直した。
ルルーシュが、立っていた。
羽織っただけの黒いコートをはためかせ、憂いに満ち満ちた顔と瞳を晒して。
視線が合うと…その紫水晶は悲しげな、痛みを堪えるような色を帯びる。
「っ…ルルー、シュ……?」
問い掛けに、ルルーシュはどこか泣きそうな顔で、微笑った。






>3上げるの忘れてた。