そのM先生はこの流派の僕の地区ではすごいらしく、月に1、2度現れ、いつも主に指導しているが格下のW&S先生も何も言えません
何と言ってもM先生は(今考えてみれば全然なのだけど)無茶苦茶厳しい…というより雰囲気がコワいのです
何度も何度も型の演武を繰り返しやらされ、厳しい注意というより怒鳴りを受けながら指導は永遠に続くかと思われました(実際はたいした時間は経っていないのですが)
なぜだか理由は分からないのです幼心にそれはとても怖かったらしく泣いてました
もちろん兄が泣かされるのも何度となく見ました
しかしその指導をされるのは僕ら兄弟と数名
今考えてみるとM先生が教えるに値すると認めてくれた証しなのかもしれません
M先生の指導は厳しかったものの確かに素晴らしい演武が出来るようになっていくのも確かだったように思います
しかしそうしたことが数年続くうちに変化が現れました
ある程度物事が分かるようになっていましたから小学校高学年~中学1くらいだったかもしれません
いつも指導に当たるW先生が僕の昇級審査をいつまでたってもしてくれなくなってきたのです
最初は「そのうちやってくれるだろう…そうポンポンと実力もなしに級位が上がっても変な気がする」と思っていたのですが…いつまでたってもその時は訪れず、そればかりか明らかに実力も低く、継続年数の少ない年下を自分と同じ級位にしたのです
そう、簡単にいえば「えこひいき」ってやつです
まして人格がどうこうって年齢でもなければ当時の自分は真面目で我慢強い(それに加え顔色うかがいの得意な)少年でしたから落ち度があるはずもありません(落ち度とか考えないほど純粋でしたが)
M先生に可愛がられ、指導され上達するのを面白くないと思ったのかもしれません
僕ら兄弟は気に入られなくなったようです
このときの感情は今も記憶に残っています…あまりそうは思いたくなかったのですが…精神を鍛え、人格的にも肉体的にも向上を目指して鍛錬しているはずの武道でなぜ不当な扱いを受けなければならないのか、理屈抜きで「なんだか切ないな」って感じていたのを覚えています
それからというもの武道館に向かうのが嫌な気分になりました
ただこのまま屈して止めてしまうのも癪だったので何とか初段以上になってからやめようと決心しました
しかしながらいつになってもやってもらえない審査を待つのもその二人の指導者の下で実力が上がるのも期待できなかった僕はM先生に直々に指導をお願いしました(実際にお願いしたのは親ですが)
その次の週から武道館ではなく、田舎の(僕の地元そのものが田舎なのですが)小さな体育館のような場所でM先生とマン・ツー・マンの稽古が始まりました
以降その場所での稽古は5、6年続きます
M先生は時間の経過とともにその性格と指導に丸みを帯びてきます
このM先生不思議なもので、なぜか心を読まれているんじゃないかと思わせるような発言を度々します
その内容はプライベートにまで及び彼女と別れたことを悟った様な発言をされたときゃあもう僕を驚かせ、あせらせたなんてもんじゃありませんでした
ところでM先生の指導の甲斐あって中学3年のとき(2年に一度行われる)首都圏のジュニア大会で型の演武、組み手で優勝します、高校2年の時は型3位、組み手は8位に降格してしまったんですがね(笑)
結果的に良かったというのではないのです、正直大会の結果なんて今思えばどうでも良かったし、黒帯が取れたからとか目に見える結果を求めていたのではないのです
ただ向き合ってくれた時間と労力と気持に恩返しはしたかった、結果は天がうまく与えてくれました
確かなのは僕は自分ときちんと向き合ってくれる指導者の下で学びたかったということ
W&S先生が良くなくて、M先生が良かったなんて言う単純なことで片付けるつもりもないのです
形は違えど学びを与えてくれたという意味ではそう違いはありません
僕の人生の約10年間を支えてくれたこと本当に感謝しています
本当にありがとうございました
カンケーないけど、武の本質は守にあり(弱い者が強い者に勝つため)って本当だと思う
- 天上天下 20 (ヤングジャンプコミックス)/大暮 維人
- ¥540
- Amazon.co.jp