私が喫茶店開業を思い立ってから20年以上になる。

当時大切な友人が乳がんに罹り、入院中だった。

地元テレビ局のアナウンサーだった事もあり
退職後アナウンサー養成の会社やイベント会社を経営していた人だった。

癌にかかってからもテレビ出演や講演が多く多忙を極めていた。

しかし彼女の気配りはすごすぎて、誰も真似ができないほどだった。

だから骨に転移してどんなに激痛が走っても、かえって見舞い客が励まされてしまうほどだった。

そんな彼女を見ているうちに、彼女のような、例え体が不自由でも、あんまりかまってほしくない人、なるべく一人で行動したい車椅子使用の人もいるんじゃないかと思った。

ある日彼女に「一人で車椅子のまま入れる喫茶店作るから待っててね」と言った。

しかし店の敷地と道路の高低差が大きい場所は、まず無理だった。

それで土地がなかなか見つからずに10年以上たった。


その間に彼女は亡くなってしまった。



今の店には車椅子のまま入れるドアがあるがスタッフが誘導する。

そのくらいの親切は嫌じゃないんじゃないかと思ったからだ。

でも宣伝もしないし、なかなかそんなお客様はなかった。ところが先日、近くの病院に入院中のお母様と子ども夫婦が3人で散歩の途中、寄ってくださった。

スロープの方に案内し店内に入ってもらったら、とても喜んでいただけた。

その夫婦が、車椅子の老人に、とても優しく接しているのを見て私の方がうれしかった。

夫婦は「また来ますね」と言って帰っていかれた。

やっと役に立ってよかった。

いつの日か車椅子のお客様が自分で運転して、車椅子のまま一人で珈琲を飲みに来られる日が来るのを楽しみにしている。

友人に間に合わなかったから。