秋の暮れ
ラルクメンバー登場させてます。そういうのが苦手な方は読まないほうがいいです。
-秋の暮れ
秋の朝はどこか物悲しい。朝まで続いたレコーディングは、僕を少しセンチメンタルにしていたのかもしれない。
ちょっと一服、と、スタジオを出ると、空はうっすらの黄色味を帯びていた。
口からポカリとはいた煙は、聳え立つ高層ビルを軟らかく包む霧に混じり溶けていった。
昔は、顔を上げれば、枯れてくすんだ緑と、輝くような黄と、艶やかな紅に彩られた山並みが目に飛び込んできたのだった。パノラマの景色は、静かに霧に沈んでいた。
片田舎から、音楽を追い求め、そして音楽に追われて慌しく上京し、どれだけの歳月が経っただろう。
この、東京という街では、何処を見渡しても背比べしているビル、そして申し訳程度に灰色の空が、この僕の小さな手のひらでも隠れてしまいそうなほど少しだけしか、見ることができなくなってしまった。
星空なんてもってのほかだった。
田舎が恋しい、とふと思った。そして、両親が恋しくなった。
「帰りたい」
僕が突然呟いた、つもりだったけれど結構響いた声に、隣で煙草をふかしていたケンちゃんが、びくりと肩を僅かに震わせた。
「家に?もうちょっとで収録も終わるやん」
ちがうねん、と首を少し振り、僕はケンちゃんを見つめて言った。
「田舎に」
ケンちゃんは煙をふぅーとはいて、こっちを黙ってみていた。
「山。紅葉がみたいねん」
僕がにっこり微笑んでケンちゃんを見つめていると、ケンちゃんは、おやじくさ!と笑った。
いやいや、ただのホームシック。
久々に、帰りたいなぁ。
あそこは、空気がとろりとゆっくりだから。