「問題とは何か」の最終項です。
ターンアラウンドコンサルティングを行っていると、つくづく感じることがあります。突き詰めて言うとマネージャーの役割は「企業が持つあらゆる問題、ギャップをなくすこと」に他ならないということです。
ただし、会社として「問題とは何か(=あるべき姿と現状とのギャップである)」ということの共通認識ができあがっていて、かつこれらを可視化し、定期的に測定し、問題解決方法まで共有・実行している会社はほとんどありません。
事業再生プロジェクトでは、これまで述べたように、まずは日々の問題を可視化できるようなマネジメンの仕組みを取り入れて、①自部署→②部門間および全社→③顧客との問題を毎日解決していきます。たとえ6ヶ月弱のプロジェクトでも、これらを解決していく中で、部門横断的な商品開発プロジェクトチームを作ったり、営業と製造部門の定期的な需給調整の問題解決機関を作ったり、全国20拠点の営業所で統一の案件の営業プロセスと受注確度を取り入れたり、顧客クレームを全社共有する仕組みを作ったりと多くの「副産物」が生まれます。
いずれも現場から見たら当然必要不可欠なのに、会社設立以来、「なぜか」なされていなかったことです。結果として、前年度の●倍の一人当り売上と営業利益、会社や部門設立以来の好業績を叩き出したりする成果を出す契機となります。
こうしたことを言うと、さも大層なことをやり続けているように聞こえますが、事業再生プロジェクトでも、最初はほんの小さな一歩から始めます。どこの会社にも、どのマネージャーでも抱えている小さな、そして重要な問題をまず解決することから開始するのです。
その問題とは、「知っていること」と「やっていること」のギャップです。
卑近な例で言えば、マネージャーが営業部門なら慣れていない新人の営業同行にちゃんと行くとか、営業日誌にちゃんと毎日フィードバックするとか、購買部門なら担当者任せになっている品目をもう一度洗い出して共同購買する余地がないか探るとか、施工部門なら、担当者が忙しさにかまけて適当にやっているであろう実行予算をもう一度見直すとか。5Sでもミーティングでも、例え「些細なこと」でも何でも良いと思います。現場の人が「本来やらなければならない」と思っていて、でも「やれていない」ことに、業績向上や組織活性化の貴重なヒントがあるのです。
プロジェクトでは、日々何をやるかを必ず明示してもらい、何があってもそれを実行する。そうした経験を積み重ねていきます。「千里の道も一歩から」と始めていくのです。これを問題の①→②→③のステップで高次化していくのです。
こうした中で、企業に大きな変化が生まれていきます。
①→②→③と問題解決のステップが上がっていくプロセスは、企業において各部署とそのマネージャーが、他責から自責へ、Win-Lose/Lose-WinからWin-Winへ、局所最適から全体最適への体現者に変わっていくプロセスに他ならないのです。
他責の姿勢が染み付いているプロジェクト開始当初に、窮境に陥っている原因をインタビューをすると、それこそ他部門への「愚痴」のオンパレードです。バリューチェーンの上流部門は下流部門を「考えることを知らないバカ者」扱いし、下流部門は本社や上流部門を「現実やお客さんを知らない頭でっかち」として捉えています。
ところが、プロジェクト後半になると、そうした態度は遥か昔のことになり、どんなに「一杯一杯」でも目標達成に向けて互いに助け合うようになります。数々のドラマが生まれ、こうした姿を傍から見ていると、感動すら覚えます。
こうした感動を得られると同時に、クライアントにはマネージャーの面白さ、辛さ、そしてやりがいを再認識してもらえる。そしてクライアントには信じられないほどの定量的成果をもたらすことができる。これがどんなにハードワークで生命の危機すら覚えても、私がこの職業に魅せられ、決して辞めることのできない理由の一つです。
「コミュニケーションにおける唯一にして最大の問題は、
それが『きちんと行われている』という幻想である」
-ジョージ・バーナード・ショー (英劇作家)
「コミュニケーションを取る」-何気なく使ってしまうこの言葉も、前職のコンサルティング会社に入った際に、上司から厳しくその意味を問われ、正されたことがあります。以来、私は「コミュニケーションが取れている」と軽々しく言えなくなりました。
ターンアラウンドプロジェクトでは、毎日、毎日クライアントの管理職の方と個別にミーティングを重ね、日々の問題解決を通じて、行動変化を起こしてもらいます。毎日必ず一対一の話し合いを持ちます。短くて15分、長ければ1時間くらいを何ヶ月もの間、毎日続けるのです。加えて全体会議や営業同行・業務観察の時間も共に過ごすのです。その期間だけ見れば、下手な友人やあるいは家族よりも、遥かに多くの時間を共有します。傍から見れば立派に「コミュニケーションを取っている」状態です。
ただ、往々にして、全く話が噛み合わないことがあります。ありがちなのはWhy-What-How間のずれです。例えばこちらは職業柄、いつも「あるべき姿」を語ります。あるべき姿を考えてもらい、現実を客観的に直視し、そのギャップ(問題)を埋めていく。それが毎日のミーティングの目的です。
しかし、実際は上手くいかない。営業部門での顧客管理と傾向分析、管理部門での業務効率化、製造部門での作業工程の短縮化について、まずは、とあるべき姿を話し合っていても、日々の実務に忙殺されてしまう管理職の方は、自然と目の前の現状から物事を考え、Howに囚われ、結論をつけてしまうのです。大所高所から見て「あるべき姿」を考えることなんてできなくなります。窮境に陥っている会社の実情です。
こうした現実を頭に入れておかないと、なぜ相手と意思疎通が上手く取れないのかが分からなくなります。相手が自分と違う意見を持っているかと思い、感情的になったりしてしまいます。でも、実際は異なる意見というよりも、そもそもお互い同じテーマを話しているのに、違う性質の話をしているのです。
クライアントの窮境ぶりが厳しければ厳しいほど、一般に社員は少ない、顧客クレームが多い、社内でもトラブルが多い、火消し作業ばかりしている…と現場の人は目の前の山積している問題や必要な作業に頭も目も囚われ忙殺されています。すぐに「でも実際はさー…。そういえばこの間…。大変だよ本当に…。現実的には難しいよね…」と終ってしまいます。例え本人が意図的に話を逸らそうとしていない場合でも、一つのテーマについて、対話の中でWhy-What-Howを完結させることがなかなかできないのです。
以来、私は、ミーティングに臨む前に、いつも上司から言われた言葉を思い出します。
「コミュニケーションが取れたということは、単に話し合いの時間を持ったり、自分が言いたいことを言ったり、相手が言いたいことを言ったりすることではない。コンタクトを経て相手が具体的なアクションを起こして初めてコミュニケーションが成立したといえる。そうでなければ、お前は「音」を発しているだけだ」という言葉です。
確かに、業績改善、行動変化を目的としたプロジェクトにとっては、その話し合いを経て、クライアントが思考を変えて実際にアクションを起こさなければ、意味が無い。「おっしゃるとおり」「わかりました」「すっきりした」「これをやりたい」と言われ合意しても、それだけでは何も変わっていない。
こうした事態を防ぐため、噛み合わない相手に対しては
①冒頭に「●●について話し合って、●●のアクションを決めていきたい」と目的・ゴールを明示する
②とにかく会話の中で話していることを絵・図・言葉で紙に書いて、今話している話題・お互いの意見・意見の相違点などを可視化し、眺めながら話す
③話が逸れたら何十回でも①や②を繰り返す
④結論も紙に書いて相手に渡す
などを徹底します。
コーチングなどでも行われているこうした一連の手順を、面倒でも、「もう大丈夫だろう」と思えても、失礼だと思っても、これを愚直に続けないといけない。さもないと、いくら話し合いを重ねても、プロジェクトが(中身として)全く前進しない状態に陥ってしまいます。
前項で見たように、問題=「あるべき姿と現状とのギャップ」と捉えれば、企業には様々な「問題」がそれこそ、無数に存在します。
企業に発生している問題は、その根の深さと解決難易度から以下の3種類に分けられると思います。
① 自部署・部門内の問題
-放置されると、当該部署で目標未達、コンプラ違反、事故、残業、休職者などが発生しがちに
② 部門間・全社横断的な問題
-放置されると、目標達成部署の偏り、他責の文化、政治、役所のような風土などが発生しがちに
③ 顧客と自社間の問題
-放置されると、全社売上や利益減少、顧客数の減少やクレームの頻発などが発生しがちに
プロジェクト導入当初は、まず上記①を徹底的に毎日あぶり出し、解決策を策定し実行していきます。ただし、そうして毎日毎日自部門だけで問題解決をしていると、なかなか根本的な問題解決ができず、問題が再発することがあります。その場合、部門間もしくは他部門が原因ではないかと捉える必要があります。問題の原因の深堀りをしていくようになると自然と、そもそも②に関する問題、他部門とのルールや会社としての対応が不明確だったり、実態にそぐわなかったりするという原因に突き当たるようになるのです。
ただし、これを改善していくには、まずは自部署が自責で解決すべき問題はしっかりと改善に取り組んでいる、問題の深さ・インパクトを定量的に把握し可視化できている(他者に客観的に伝えられる)、部門間でかつ「全体最適」の視点で定期的に問題解決をする仕組みを作るなどの必要がありますので解決の難易度が上がっていきます。
そして最後に、企業における本質的な問題である上記③、顧客の求めている要件と自社の提供している商品やサービスとのギャップがあります。例えば実際に発生した小さなクレーム(またはクレームまで行かない顧客の「声」)の真因を探って企業として業務プロセスを改善したり、新しいルールを決めたり、新たに製品改良やサービス向上に活かすという動きがその解決行動ですが、当然これができる前には上記①②の問題の解決行動が日々取れていることが前提になります。
もっとも、最長でも6ヶ月程度の通常のプロジェクトですと、私の拙い経験では正直なかなかこの域までは達しないことが現実です。②をやり始められるくらいが関の山です…。それでも、多くのクライアントから、「うちの会社は変わったよ」としみじみ言われるくらいの変化となっているのです。
企業に発生している問題は、その根の深さと解決難易度から以下の3種類に分けられると思います。
① 自部署・部門内の問題
-放置されると、当該部署で目標未達、コンプラ違反、事故、残業、休職者などが発生しがちに
② 部門間・全社横断的な問題
-放置されると、目標達成部署の偏り、他責の文化、政治、役所のような風土などが発生しがちに
③ 顧客と自社間の問題
-放置されると、全社売上や利益減少、顧客数の減少やクレームの頻発などが発生しがちに
プロジェクト導入当初は、まず上記①を徹底的に毎日あぶり出し、解決策を策定し実行していきます。ただし、そうして毎日毎日自部門だけで問題解決をしていると、なかなか根本的な問題解決ができず、問題が再発することがあります。その場合、部門間もしくは他部門が原因ではないかと捉える必要があります。問題の原因の深堀りをしていくようになると自然と、そもそも②に関する問題、他部門とのルールや会社としての対応が不明確だったり、実態にそぐわなかったりするという原因に突き当たるようになるのです。
ただし、これを改善していくには、まずは自部署が自責で解決すべき問題はしっかりと改善に取り組んでいる、問題の深さ・インパクトを定量的に把握し可視化できている(他者に客観的に伝えられる)、部門間でかつ「全体最適」の視点で定期的に問題解決をする仕組みを作るなどの必要がありますので解決の難易度が上がっていきます。
そして最後に、企業における本質的な問題である上記③、顧客の求めている要件と自社の提供している商品やサービスとのギャップがあります。例えば実際に発生した小さなクレーム(またはクレームまで行かない顧客の「声」)の真因を探って企業として業務プロセスを改善したり、新しいルールを決めたり、新たに製品改良やサービス向上に活かすという動きがその解決行動ですが、当然これができる前には上記①②の問題の解決行動が日々取れていることが前提になります。
もっとも、最長でも6ヶ月程度の通常のプロジェクトですと、私の拙い経験では正直なかなかこの域までは達しないことが現実です。②をやり始められるくらいが関の山です…。それでも、多くのクライアントから、「うちの会社は変わったよ」としみじみ言われるくらいの変化となっているのです。
