歯槽骨「治る力」で再生
東京都内の主婦Aさん(50)は、重い歯周病で歯がぐらつき、食べ物をうまくかめなくなった。歯を支える骨である歯槽骨の大部分が溶けたためで、歯科では抜歯と総入れ歯を勧められた。フカダデンタルクリニック(東京・新宿区)で、特別な薬や外科手術を用いない、独特な「非外科的骨再生療法(F―METHOD=エフ・メソッド)」を受けた。約2週間で、肉や野菜など食事がとれるほど、かむ力が回復。約2年後には、上の歯11本のうち9本を支える歯槽骨が再生、総入れ歯にする必要がなくなった。「食べる楽しみと健康を取り戻した」と喜んでいる。
薬・手術なし
歯周病は、歯と歯茎の間にある歯周ポケットに、歯垢(しこう)(プラーク)と呼ばれる細菌の塊がたまり、歯の周囲に炎症を起こす病気。30歳代以上の8割がかかっているといわれる国民病だ。
放っておくと、歯と歯槽骨のクッションの役割をする歯根膜や、歯槽骨などの歯周組織が失われ、歯を失う原因になる。あご全体にわたるような重い歯周病では、いったん失われた歯周組織を再生するのは難しいとされてきた。
こうした重い歯周病でも、出来る限り歯を残す治療法として、同クリニック院長の深田邦雄さんが編み出したのが、非外科的骨再生療法だ。歯肉を切開して薬などを注入する外科手術ではなく、歯槽骨自らの再生する力を引き出す点に特徴がある。
治療はまず、歯根膜を再生させ、次に歯槽骨の再生へ移行する2段階方式だ。
第1段階の歯根膜の再生には、プラークや歯石を取り除いて歯の根(歯根)周辺を清潔に保ち、歯周組織の炎症を抑える必要がある。このため家庭や職場で1日5回以上、歯周ポケットの奥まで届くよう、毛が1列の特製の歯ブラシで磨く。歯茎が傷つかないよう、歯磨き剤は使わない。
最初の2か月は月5、6回通院し、歯根にこびりついた歯石などを完全に取り除いてもらう。同時に、特殊な器具で歯根の表面を滑らかにして歯根膜が歯根に密着するようにする。この「ルートプレーニングケア」と、日常の歯磨きで、失われた歯根膜が約1か月で再生するという。
こうして、次の段階の歯槽骨の再生にとりかかる。
深田さんによると、歯根膜が再生して適度な弾力を取り戻すと、歯周病でグラついている歯は、本来の正しい位置に戻ろうと、わずかに移動する性質がある。歯の移動により、歯根膜に力が加われば、歯根膜に付いていて、骨の元になる骨芽細胞が刺激を受けて活性化し、歯槽骨の再生が促進されるという。骨折した骨がくっつくように、歯の骨の修復を促す治療だ。
この際、歯の移動を妨げるような虫歯治療の詰め物を一時はずしたり、かみ合わせの調整をしたりする。
過去5年間で約200人の重い歯周病患者を治療したところ、1人あたり3か所以上、8~14か月で2~4ミリの歯槽骨が再生した。
まだ臨床試験などで効果が広く確認されてはいないうえ、若い患者に多い歯槽骨が水平に大きく失われている場合や、喫煙者には効果が少ないといった限界もある。
それでも、東京歯科大教授の下野正基さんは「動物実験でも、歯周組織の炎症が治まると、歯の移動とともに歯槽骨の再生が確認される。こうした現象に注目した治療法で、外科手術に流れがちな歯周病治療に一石を投じるのではないか」と話す。
東京、大阪などで歯科医向けの研修会が開かれ、これまでに約200人が受講した。
治療に保険はきかない。約10本の歯槽骨再生が成功した場合、計約80万円かかる。
F―METHODを行う主な医療機関
フカダデンタルクリニック(東京都新宿区)(電)03・3353・1054
澤田歯科医院(大阪市都島区)(電)06・6352・6176
松本歯科診療所(鳥取市)(電)0857・22・7800
まき歯科クリニック(岡山市)(電)086・243・1106
読売新聞 - 2007年6月1日