【創作】街角にて【妄想】 | 寝落ち壁ダッシュ 〜イルーナ日記〜

寝落ち壁ダッシュ 〜イルーナ日記〜

イルーナ戦記Online・Android版ワールド①での活動を綴るブログです。
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 彼は悩んでいた。本当にあれで良かったのだろうかと。


 父もクレリック、母もクレリックという、クレリックの家系に生まれた彼は、当然、自分もクレリックになるものだとばかり思っていた。両親の才能を余すことなく受け継いだ彼は、回復術には自信があった。しかし・・・。

 かねてよりの経済的不況に加えて、遠くスルピニアの国で起こった内紛が各地に飛び火し、その影響により近年では、ここパルルと周辺国との国境でも小競り合いが絶えないという状況が続いていた。そしてそれらがもたらす社会的不安は、パルルの経済をより一層冷え込ませるのに、十分効果的であった。
 世の中は、不景気であった。

 何度、クレリックの採用試験に落ちたことだろう。彼は手元にある通知書の「貴殿の今後の御活躍をうんたらかんたら」の箇所に再度目をやり、肩を落とす。少なくとも実技試験においては、ほぼ満点に近い点を採れているはずであった。自分は才能がないのではない、運がないだけなのだ!と、自らを励ます戦法も、そろそろ擦り切れ、使用限界が間近であった。

 そんな折、久しぶりに兄が家に帰ってきた。弟の現状を聞いた兄は、クレリックを目指している弟に、ありえない提案をした。

「なぁ、うちの会社、受けてみないか?」
と。

 兄の勤める会社は、業界では名の知られた大手イベント企画会社であった。ちょうど新規エリア開拓にあたって、人手を欲しているらしい。
「でも僕は・・・」
すぐさま断ろうとする彼を、兄は必死に押し留める。
「まぁまぁ、とりあえずうけるだけ受けてみろって。なぁ?」

 昔から、よく言えば豪快、悪く言えば強引な兄に押し切られる形で、彼はそのイベント企画会社の門を叩くこととなったのである。

 以上が、今から1年と少し前の話。社員であり、一流のイベントプロデューサーである兄のコネが効いたのかどうか、彼は採用の運びとなり、この十数ヶ月の間、研修やら実務やらと、それなりに忙しい日々を送ってきた。
 そしてつい先日、初めて任された念願のイベントを、無事終えたのだった。いや、「無事」と評していいものかどうか、彼は悩んでいた。確かに、イベントは滞りなく終了したと言ってよいだろう。しかし、自分が求めていたクオリティとは、果たしてあんなものであったのか。

 イベント期間中以外、彼は上司に許可をもらい、会場入り口付近にて冒険者たちの体力、魔力回復のボランティアをしている。そんなことをしているのも、クレリックになる夢を未だ捨てきれていない、からなのだろうか。
 今日も冒険者たちを回復しながら、彼は先日終了したイベントの内容について独り、考えていた。
 流れは、そんなに悪くなかったはずだ。お菓子集めを冒険者たちに依頼し、集めてきたお菓子を抽選券代わりにクジを引いてもらう。うん、悪くない。ルールの説明も、回数を重ねるうちに上手くこなせるようになっていったし。ただ、カボチャのモンスターが暴走した時は少し焦ったけど。それとも、景品がイマイチだったろうか。カボチャシリーズ・・・会心の出来だと思ったんだけどなぁ。企画書を出した時、上司もこれでいいって言ってたし。でも、イベント終わってから誰も使ってないよなぁ、カボチャシリーズ。まぁ、あくまでイベントアイテムだからそれでいいのかもしれないけど。
 唯一好評を博していたのは、期間中限定でアイテムドロップ率が上がるカボチャの被り物である。しかし、それはあくまでレアアイテムを狙う冒険者たちが利用していたのであって、イベント会場へ足を運んでもらう要因としては、いささか弱かったのだろう。イベント開始直後こそ、会場内に設置されたオブジェの前で記念撮影をする人々で賑わったものの、すぐに客足は遠のいた。どうせならもっと、会場をお客さんで一杯にしたい!どうすればもっと、皆に楽しんでもらえるイベントに仕上げることが出来るだろうか。クオリティを上げるためには、何を・・・!?
 夢中でイベントの構成を考えていた彼は、自分の目の前に人が立っていることにも気が付かなかった。

「あのー、回復お願いできますか?」
見れば魔術師らしき女の子が立っている。頭の上に乗せたネコ(?)がチャームポイントらしい。
「あ、はい。お待たせしてすみません。」

 彼が回復魔法をかけ終えるのとほぼ同時に、女の子の仲間とおぼしき一行が近づいてくる。
「蓮ちゃん行くよー」
「はぁい」
目の前の女の子が返事をする。
「蓮ちゃん次の場所わかるー?」
「任せて!じゃあ行こうか。アリぴょん、ジーさん踏むのはもうそのへんにして。」
「えー、だって膝つくのは踏んで欲しいっていうサイン・・・あ、ガーベラさん寝てるw」
「テポドンテポドン」

なんやかんやと騒ぎながら、その場を離れていく一行。

 そんな冒険者たちを見送りながら、自分もクレリックになっていれば、こんなふうに仲間たちと冒険の旅に出ていたのだろうか。と、叶わぬ夢に目を細める彼の元に、上司からのメッセージが届く。

「あーもしもし、GMナインツ君?今度のクリスマスイベントについてなんだけど・・・」

そうだ。自分には、冒険に出ることよりも、もっと大事な役割があるではないか。次こそ、彼らには思いっきり楽しんでもらわなくちゃ・・・!

そうして彼が向けた視線の先には、冒険者たちで賑わう、いつものロココの街並みが広がっていた。


【今日のまとめ】
ふと思いついたネタを書いてみました。最近あまりインしていなかったので、不足気味のイルーナ分は妄想力でカバーです(*_*)