このブログでは、主に地盤工学のコミュニティ(私の知人と、指導する学生が数名?)を対象に、主にArduinoを使った電子工作で、土質実験室、あるいは原位置観測で役に立つ装置(主にデータロガー)を極めて安価に自作する方法を紹介していきます

 

管理人は、地盤工学の研究のため、2015年ごろからArduinoを使って実験室や原位置観測に必要なデータ取得装置や制御装置を自作しています。電子工作の特別な知識があるわけではないのですが(トランジスタって何?というレベル)、今の世の中は、必要なものを買ってググり、そして粘ればたいていのものが作れるようになっています。しかし、「やってみたいけど、できたらいいけど、やっぱ難しそう」と言う人も多いです。その理由の一つに、「とっつきづらさ」があります。懇切な入門書やウェブサイトはあるのですが、「ゲームをつくってみよう」「植物への自動水やり装置をつくろう」といった例から入ることが多く、「ゲームはいいから、俺は研究に使えるデータロガーを作りたいんだ!」といったニーズを持つ人には、回り道に感じられます。そこで、地盤工学のために(他にも使えるかもしれませんが)役に立つ装置に向って一直線の講座をこのブログで開くことにしました。地盤工学会誌などでこのような講座を開くこともできるかもしれませんが、学会の出版物では具体的な製品の名前を出し、これを買え、とは書けません。しかし、それでは読む人にとってはあまり役に立ちません。このブログは対象者が非常に限られるわけですが、自身の備忘録も兼ねて、プライベート感を隠さず淡々と進めていきます(査読のない文書を書くというのはよいですね)。

 

管理人は、まず原位置観測データを記録するデータロガーを作りたくてArduinoを使った電子工作を始めました。率直に言って、データを取得して記録するだけなら、勉強を始めて数日で習得可能です。問題は、フィールドに放置して、ケアフリーで半年なり1年なり動作を続ける省電力でロバストなシステムをつくることです。これにはそれなりの試行錯誤がありました。今でもよくセンサーの動作が止まることはよくありますが、まあこれは少なくとも工作のせいではない、というところまでは達しました。こういった経験からの私見も交えて執筆していきます。

 

本講座では、まずデータロガーの作成から始めましょう。これができれば、十分な知識がついて、何を参照しながら何ができるのか自然とわかっていくと思います。管理人は、最近はデータの記録だけではなく、電空変換器を用いて、試験装置の載荷制御モジュールもArduinoで作っています。このようにユーザーとのインターフェイスが必要な応用には、PCを用いて、PCとセンサーをつなぐ仲介役としてArduinoなどのマイコンを用いると便利です。こういった例もいずれ紹介できればと思います。

 

以下は、ここまで作って原位置に設置した装置の一例です。このようなものを数時間で作れるようになります。箱やバッテリーなどを除けば、回路そのものは数千円しかかかっていません

 

例1:秋田県での堤防調査:太陽光パネルで給電し、12点に埋設したテンシオメーターの値を毎時計測・記録。

大気圧や気温・地温も同時に記録。2017年より稼働。

 

 

 

例2:同じく秋田県のとある水路にて水位計測中。Sigfoxを使い、札幌のオフィスにてデータを遠隔取得。

加速度センサーにより、傾斜などの異常も検知。

 

 

 

例3:北海道の高速道路切土法面の積雪深を計測。これ一つで、3つの異なる原理で計測しています。

 

 

 

なお、装置の設計等については、「動くのだからこれでよい」という次元の考え方です。おかしな配線・非効率的なコードもあるかもしれません。何か気付く点があれば教えて頂ければ幸いです。

 

 以下が掲載予定です。なお、以下は今後、修正されていくことがあります(ブログが続いていくに従って後から変更されるというのは、ジョージ=オーウェルの小説「1984」に出てくる役人の演説みたいですが)。

 

 

第1部 基礎編:室外(原位置)データロガーをつくろう

 

第1回 はじめに ~ この講座で何がつくれる?室内・室外データロガー、三軸制御装置・・・

第2回 Arduino、その他を買う

第3回 ArduinoのセットアップとPCとの通信

第4回 電圧を読む(その1:ArduinoのADC機能を使う)

第5回 SDカードに記録する:SDカードシールド

第6回 できたものをPCなしで動かすには:給電のイロハ

第7回 時刻を記録する:RTCモジュール

第8回 電圧をより高い分解能で計測する:ADCモジュール

第9回 電圧を出力する:DACモジュール

第10回 多チャンネル化する:マルチプレクサーモジュール

第11回 スイッチの開閉をする:リレーの駆動

第12回 省電力化・長期稼働に向けて:① Arduino Pro Miniの導入と、消費電力

第13回 省電力化・長期稼働に向けて:② スリープとRTCによる復帰

第14回 省電力化・長期稼働に向けて:③ 電源管理モジュール(自作+TPL5110)

第15回 省電力化・長期稼働に向けて:④ 太陽光パネル+チャージコントローラー

第16回 実装に向けて:① ユニバーサル基板

第17回 実装に向けて:② ロガーボックスは奥が深い

第18回:LCD(液晶ディスプレイ)による情報表示

 

第2部 発展編:いろいろなセンサーやモジュールを扱う

 

第19回 ひずみゲージ型センサーからのデータ取得

第20回 温度計測① 熱電対

第21回 温度計測② 温度センサーDS18B20

第22回 温度計測③ 環境センサーBME280/BMP280

第23回 距離計測 赤外線ToFセンサー・超音波センサー

第24回 土壌水分計

25回 水圧計測:SMC PSE570

第26回 水圧計測:TE Connectivity MS5837-30BA

第27回 I2Cマルチプレクサ

第28回 3軸加速度センサーADXL345

第29回 UARTシリアル通信①:Arduino同士の通信

第30回 UARTシリアル通信②:ArduinoとWindows PCの通信

第31回 様々なマイコンボードを使う

第32回 データを転送する①:ESP32によるWiFi通信とAmbientの利用

第33回 データを転送する②:Sigfox (LPWA)

第34回 【番外編】PCを無人操作する裏ワザ:Arduino Micro

 

第3部   実線編(作品例)

 

(思いつくがままに過去の作品をレシピとともに紹介していきます)