「ドイツは経済リーダーとして、利益享受が多くあるのだから、不景気になったら突然、単独行動をとりたがり、周辺国を切り捨てるようでは、危機は世界に広がるし、欧州は新興国にさえバカにされかねない」。これはドイツ人の弁である。

今月9日、オバマ大統領はメルケル首相との電話会談でその点を厳しく詰め寄ったという。その後メルケルの態度が急に変わったと言われたが、ここ数日の行動を見ているとやはり単独行動がお好きなよう。とはいえ、このユーロ安で欧州の大半の企業は恩恵を受けているし、ギリシャにも観光客を呼び寄せるチャンスではある。しかし…ギリシャでは当然、欧州主要国の報道は日本よりずっと豊富に入ってくるが、メルケルの態度や彼女の経済顧問を批判する声はドイツやドイツ寄りの国からさえも多く聞こえてくる。

ギリシャ国民にしたって現時点では誰もドイツ批判などしていない。ビジョンのないギリシャ政府に一番憤りを感じているのだ。

EUに加盟したことはギリシャにとってもちろんメリットもあった。トルコによる過酷な占領時代の恐怖はギリシャ人の中にDNAとして刻まれている。防衛面での圧倒的な安心感は、私のような外国人の想像を遥かに上回るものだと思う。

また長期のローンを組まなければ買えなかった高級車に手が届き、家電製品も安くなって一般市民の生活レベルは飛躍的に向上した。不動産ブームも到来し、建設業界も潤った。しかしいったん不況になると、産業基盤のない国、輸出するものがない国は雇用の創出ができない。政府のとる対策は公務員の雇用を増やすしかないので、謎の外郭団体等が次々と増えていく。そしてこれは選挙の際の組織票に絡んでいるから泥沼だ。職員とその家族は、勤務先機関に絡む議員に投票しなければならない。

20世紀を代表する海運王アリストテレス・オナシスによって最高のエアラインの称号も手にしたことのあったオリンピック航空は、再び国営になってから万年赤字経営だった。昨年やっとMIGに買われたが、破綻寸前になるまで政府が自由に使い放題、官僚の天下りなどまさにJALと同じようなパターンを辿っていたのだ。

04年にはネア・ディモクラティアに政権交代。カラマンリス首相が率いたこの5年は、腐りきった特権政治が蔓延し尽くした状態だったと分析される。最大なのはドイツのシーメンス社のスキャンダルだが、政官業の癒着は増え続け、巨額の公共事業資金が消えてしまった。

ギリシャには人類の遺産、パルテノン神殿をはじめ素晴らしい遺跡、エーゲ海の島々などセレブにも人気のリゾートがたくさんある。観光メインの国として、サービス業の人間をきちんと教育する学校や、観光インフラ全般をもっとしっかり整備しようという構想があったにも関わらず、その資金は忽然と消えてしまった。もしその計画が実現されていれば、雇用も創出されただろうし、ギリシャはハワイのようになっていただろうと言われている。

政治がアマチュアだったために、残されたのは年金の支払いにさえ困る追い詰められた政府とキャンセル続出で悲鳴があがる観光業界の悲劇的状況だ。

最近、ギリシャのメディアも盗人議員狩りへの目くらましか、富裕層の脱税を大々的に報じている。今週は女優にして建築家、閣僚だったアンジェラ・ゲレクー(発覚前に辞職)の歌手である夫が長年にわたり、巨額の脱税をしてきたというニュースが最も注目を浴びた。現時点で6000人が摘発されたが、このうちの500人はなんと5千万ユーロを支払う必要がある!

ギリシャのビジネス社会は、コネや賄賂がまかりとおる悪習がある。何事につけ申請や許可が必要な場合、あまりにも複雑な公的機関のシステムの中で、普通に手続きをしていたら何年かかるかわからない。このような人々は税金を払う代わりに「テーブルの下でお金を払ったり受け取ったりする」習慣にどっぷりつかっていた。イタリアの友人も同じようなことを言っているのでギリシャだけではないかも知れないが、欧州というのはまだまだ日本やアメリカの発想からは信じられないほど多くの因習が残っている面がある。