薫風 | シジンの日記

シジンの日記

つれづれなるままに、心にうつりゆくよしなしことを、だらだらと書かせていただいてます。

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五月は薫風の季節と申しまして、今日も良いお天気でございます。
どこかへお出かけ、とか考えおられる方も多いと思いますが、海や山へ出かけるにはよい季節です。
海の水はまだ冷たいですが、まだ澄んでいてとても気持ちがよいものです。
運が良ければ相模湾でも海の底まで見られる。
出かけるのなら梅雨の前がお勧めです。
梅雨になってしまうと、雨で陸のごみが海に入ってくるし、梅雨が明ければ日差しはきついし海が汚れてくる。
そんなわけで私は五月から梅雨前の海が好きです。
水はまだ冷たくて、ちょっと風も強いですけれど。
風が落ち着いている十一月の海もいいですよ。
いえ、十一月になっても海の水はまだ温かいのですよ。
風が吹けば冷たいというか、寒いのでそんな時には海には出ませんが。。
海に出るのは風が落ちて凪いだ日差しの暖かい日です。
海の向こうでは老夫人の夏と言うそうですが、小春日和。
風もなく暖かな日差しの中にボートを浮かべてのんびりと釣りをするのは気持ちよいものです。
そんなわけで私が好んで海に出かけるのはだいたい半年周期です。
五月の海は風が強いことが多いのですが、、五月の風は薫風ばかりではありませんで、季節の変わり目、気温の変化の大きな季節ですから、風邪をひかれて咳をしたり鼻をかんだりしている人もよく目にいたします。
五月晴れと言いますが、五月雨とも言います。
天気気温の変化が激しい季節です。
私もせっかくの五月連休を風邪でつぶしてしまいました。
連休を狙ったかのように風邪にやられたのだから困ったものです。
結局、連休には何もできませんでした。
皆さんもお身体にはお気を付けなさってください。

五月と言うと上天気のイメージがありますが、五月雨を集めて早し最上川。
芭蕉もこんな俳句を詠んでおります。
けっこう雨の多い季節でもあります。
実は芭蕉の時代の五月と言うのは今で言う六月でして、この句が詠まれたのが当時の五月二十九日。
今で言うなら六月の末になります。
梅雨の雨を集めて最上川が増水している様を詠まれたわけです。
梅雨時に川が増水して坊ちゃん嬢ちゃんが流された、なんて不幸な話もたまに耳にしますが、本所深川は江戸時代に埋め立てられた土地でございまして、当時は梅雨時などによく水が出て人が流されたりしたものだそうです。

本所は、今は"ほんじょ"と呼ばれておりますが、以前は"ほんじょう"と呼ばれておりました。
同じ"ほんじょう"でも埼玉県の本庄とは関係ありません。
隅田川沿いの本所です。
その本所の南割下水。
割下水と言っても今で言うところの下水ではありません。
掘割のことです。
本所深川にはたくさんの掘割がございまして、人々の生活の足になっておりました。
南割下水は隅田川に近い公儀御竹蔵から横川をつないでおりまして周囲は武家屋敷ばかりでした。
南割下水から御竹蔵沿いに竪川の方に少し下った辺りには本所亀沢町がありますが、こちらは町人の町屋が並んでおります。
亀沢町は今も墨田区にありますが、今の亀沢町一丁目のあたりが当時の亀沢町です。
その本所亀沢町の裏長屋に長介と言う若い鳶職人が住んでおりました。
とび職と言うのは当時の花形、鯔背な職業でございます。
鳶と言うと纏を持った町火消をすぐに連想される方も多いかと思いますが、普段のときは屋根の上などの建築現場での作業をしております。
高所作業に慣れているから鳶の多くが町火消に所属して活躍できたわけです。
芝で生まれて神田で育ち、末は火消しのあの纏持ち、などと端唄にも唄われておりまして、鳶は江戸っ子憧れの職業でありました。
もちろん誰にでもできるわけではありません。
ひ弱な坊ちゃんには無理ですし、熊みたいな大男や太っちょさんにも無理がある。
こうすらりと筋肉質で身が軽くなくちゃぁ、鳶にはなれません。
亀沢町の長介はその鳶を仕事としていてもちろん身は軽い。
さらに見た目は今で言うしょうゆ顔、すらりとした面長の美貌は長介の住む亀沢町だけではなく、江戸中に広まっておりました。
今で言うところのアイドルです。
ところが長介自身はまじめで控えめな性質であまり表に出たがらない。
仕事場に女子供があふれて仕事にならない、と親方から怒られて恐縮したりしている。
いっそのこと役者にでもなっちまったらいいじゃないか。
長介の友人の熊が勧める。
この熊は名前の通りに熊のような大男でもちろん鳶ではない。
もっこ担いで日銭を稼ぐ、身体が資本の土木作業員です。
まぁ、熊に勧められたところでまじめで控えめな性質の長介が舞台に立つわけがありません。
今で言うモデルのような仕事でもあればよかったのだけれど、当時はそんな仕事はありませんでしたから長介は困っていました。

悩みの絶えない長介が仕事場から南割下水沿いを背中を丸めてうつむき加減に歩いていると、偶然にも女性が襲われているのが目にはいりました。
女性は武家の娘のようですが、供を連れずに一人で歩いていて三人の男に襲われたのです。
犯人の一人は遊び人風の男で、後の二人は駕籠を担いでいます。
遊び人風の男が女性の後ろからするすると近寄ると脾腹に拳固を叩きこみ、気を失って倒れこむ女性を後からやって来た駕籠の中に見事に収めてしまいました。
明らかに人さらいです。
それは一瞬の出来事で、長介だって偶然頭を上げ中れば気が付かなかったでしょう。
どうやら地味な服装で地味に歩いていた長介が背景に溶け込んでいたようで、犯人も長介に気が付かなかったのです。
長介が、あっ、と思った瞬間、遊び人風の男が長介に気が付きました。
駕籠かきの二人は男に何かささやかれると一目散に走って逃げます。
駕籠を追おうとした長介の前を男が塞ぎます。
男の右手は懐に入っています。
たぶん匕首を握っているのでしょう。
長介は焦りました。
長介だって火消をやるくらいですから、腕っぷしには自信があります。
でも匕首を扱うのに慣れていそうな男ではさすがに躊躇してしまいます。
長介は考えました。
男は薄笑いを浮かべながらふらふらと動いて長介の行く手を阻んでいます。
男の動きは一見力がなさそうですが、動きに無駄がありません。
最小限の移動で長介の前を見事にふさいでいます。
女性を乗せた駕籠はどんどんと先に行ってしまいます。
長介は男のいない方へと身体を動かします。
「何もなかったんだよ。消えな」
男は長介が動く方へ動く方へと身体を回り込ませてきます。
うかつには手を出せない長介が困っている間にも駕籠はどんどんと先に行ってしまいます。
大声で助けを呼ぼうにも周囲は武家屋敷で人通りが少なく、人影は見えません。
長介は焦ります。
気が付くと男の右手には匕首が握られています。
このままでは長介は娘さんを助けるどころか自分の命までが危ない状況になってしまいました。
長介絶体絶命。

長介はこれからどうするのか、さらわれた娘さんはどうなるのか、それはまた後日のお話と言うことで。

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(続くかもしれない)
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シジン