いよいよカニのシーズン到来
11月6日。山陰海岸各地でのズワイガニ漁が解禁になりました。
これで、9月にすでに解禁となっている紅ズワイガニと合わせて、本格的なカニのシーズン到来です。旅館や民宿ではすでに年内の宿泊は予約が難しいところも多いようです。
さて、ズワイガニと紅ズワイガニはどう違うでしょうか?私はジオパークに関わり始めて初めて知りました。
ズワイガニは紅ズワイガニより少し大きくて、ちょっと値段が高く、
下の写真では上にあるのがズワイガニ、下側にあるのが紅ズワイガニです。
どちらも茹でたカニで、大きさ以外はほとんど区別できませんが、それをひっくり返すと、
このように、全然違います。
裏が白いのがズワイガニ、裏も赤いのが紅ズワイガニです。
そして、ズワイガニが棲んでいるのは深さ300m~500mぐらいなのに対して、紅ズワイガニは600m~2500mほどの、もっと深いところに棲んでいます。
山陰海岸のカニがどうしておいしいのかを地元の人に伺うと、
カニが棲んでいる深いところが陸から近く、新鮮なカニが手に入るから
という答えが返ってきます。
そこで、はたしてそんなところは山陰海岸の近くだけなのか、そしてほかのカニはどうなのか、もう少し詳しく見てみることにしました。
日本列島周辺の海底地形
スペースシャトルから測定された地形データに海底地形を加えたものに、SRTM30Plus というものがあります。そこでSatellite Geodesyのページから FTP SRTM30_PLUS, entire grid を開き、さらにSRTM30_PLUS.kmz をクリックすると、Google Earth上に次のような図が作られます。
ここでは深さ500mごとの等深線が描かれています。
山陰海岸ジオパークのある兵庫県北部近海を拡大すると、このようになります。
ほぼ大陸棚の縁にあたる水深200mの等深線を黄色で付け加え、水深500mの等深線を赤色で示しています。
カニの棲むところ
これを見ると、山陰海岸の沖は海岸線から200mの大陸棚までが狭く、大陸棚の縁から水深500mまでが広いことがわかります。ここがまさにズワイガニの生息する深さに相当し、格好の漁場となっているのです。そして、さらに500mから1000mにかけて急激に深くなって、1000m~2000mの緩やかな海底へと続きます。ここには紅ズワイガニが棲んでいます。
それを書き加えると、このようになります。
このように図に示してみるとズワイガニや紅ズワイガニの棲息場所が海岸から近いことが、美味しいカニを手に入れることができる要因となっていることが、よくわかります。
なお、同じズワイガニでも京都府から兵庫県・鳥取県・島根県で水揚げされるものは松葉ガニ、福井県では越前ガニ、石川県では加能ガニと別々の名前で呼ばれます。
糸魚川は紅ズワイガニ
それでは、富山県や新潟県では?
以前、糸魚川ジオパークを訪問しましたが、こちらでもカニ漁は盛んです。
しかし、山陰側とは違って紅ズワイガニがメインの様です。
その理由も、海底の深さにありました。
次の図は日本近海の海底の深さに、カニの主な漁場を重ね合わせたものです。
ズワイガニの棲息する深さ300~500mの部分が広がっているところは意外とすくなく、山陰海岸の沖は貴重なズワイガニ棲息地であることがわかります。一方富山・新潟・山形・秋田の日本海沿岸は一気に深くなり、海岸のすぐ近くに紅ズワイガニの棲む水深500~2000mの海が迫っています。そのため、糸魚川などではズワイガニより紅ズワイガニが多く水揚げされることになります。
参考のために、タラバガニや毛ガニの漁場も記入していますが、これらのカニは水深200mより浅いところに生息するため、大陸棚の発達した北海道や東北の太平洋沿岸に漁場が分布します。
日本海沿岸でズワイガニや紅ズワイガニが産するのは海が深いためですが、その原因は、以下図のように大陸の東縁が断裂・拡大し、日本海と日本列島ができたことによっています。
つまり、日本海の拡大で深い海ができたために、この地域でおいしいカニが食べられるといっても過言ではないのです。
日本海と日本列島の成り立ち
平 朝彦(1990)の「日本列島の誕生(岩波新書)」にしたがって、一部加工したものです。