CR(完全奏功)となって丁度半年後の2014年11月、PET検査で左鎖骨上窩リンパ節に転移巣が発見された。超音波検査でもリンパ門の消失などの悪性所見があり、いわゆるウイルヒョウ(Virchow)転移と診断された。ガンの診療に直接携わらない科に属する私でもよく知っている、非常に有名なリンパ節転移である。医学生の間でも常識で、私が学生だった頃も国家試験を受けるには必須の知識であった。

 

主治医からその転移がある、という話を聞き、「またか」とがっかりするとともに、「ああ、あれね」という感覚も持った。医師が患者になった場合、どこかで客観的にというか、他人事というか、そういう立場で自分の病状を見る傾向があるように感じる。自分はまさしくそれで、この時もそうであった。最初の告知の時もそうであった。おそらく長い間、病気を客観的に、かっこよく言えば、冷静・冷徹に、診るトレーニングを積んできているからだと思う。

ただ、幸いなことに、AFPは18とさほど上がっていない。以前は3桁あったのだから雲泥の差である。CRになってから半年が経過していたし、単独の再発だし、侵襲も少ないということがあって、主治医(外科医)から手術でも行けます、と言われた。迷ったが、基本的に気が小さい臆病者なので、やはり治療を受け慣れている陽子線照射を受けることにした。実は凍結療法をした部位が、このころはまだ本当に治癒していたか、画像診断上はっ切りせず、陽子線のようにすっきり治った感じがなかったので、別な治療を取り入れた場合の経過を経験していない、という不安も、手術を選択しなかった根拠でもあった。

 

幸いいつもと同様に、陽子線照射にすっきりと反応してくれて、病巣は消失し、再度CRとなった。