陽子線照射を病巣に行っていたが、AFPの値は2000前後(正常:10以下)を行ったり来たりしており、画像診断(PETやMRI等)ではわからない、微小病巣が散らばっていることが推察されていた。先に書いたような経緯で、その時期にFLEP療法を始めたところ、AFPは下がりかけた。しかしながら、肝臓の左葉の体表面に近いところに新たな転移巣が出現してしまった。AFPが下がりきらないわけである。正直心が折れかけたが、諦めるわけにはいかない。

  主治医と相談し、今度は表層にあることから、凍結療法を行うこととした。本当に色々考えてくれてありがたい限りである。これは、皮膚科や泌尿器科の疾患に対して、古くから行われてた方法である。その名の通り、ガンの病巣に針を刺し、そこで凍らせて癌細胞を死滅させる治療法である。欧米では、肝臓がん、腎がんなどの体内の病変にも行われていて、日本でもだんだんと浸透してきている方法である。

  お蔭でその病巣も消失し、AFPも下がってきた。ただ、全身に散らばっているのは間違いないので、さらなる再発を心配していたが、その心配通り、今度は縦郭から胃の後ろの膵臓の近くのリンパでの病巣が発見された。イタチごっこの感はあったが、FLEPと陽子線照射を再度試みることにした。ただ、AFPの値を見ると3桁だったのが、再発の度に上がりはするが、少しずつ下がってきた。

 

そしてとうとうこの陽子線照射の途中でAFPは5.4と正常値となり、画像でも一切病巣は描出されなくなった。いわゆるCR (Complete Response:完全奏功)である。発病したのが、2013年2月26日、そして、このCRが明らかとなったのが、2014年5月15日であった。偶然だろうが、昭和初期の有名な軍部クーデターと日付を同じくした(順番は逆だが)。発症以来目指してきたCRが現実となり、本当にありがたく、嬉しく思った。

  ただ、CRは検査上完治になった状態だが、微小転移はまだ残っている可能性はある。この後も暫く慎重にFLEP療法を継続することとした。