セカンドオピニオンで得たBEP療法について一つだけ気がかりなことがあった。厚生労働省はBEP療法を私のような食道ガンには認可してくれていない、ということである。こういうのを適応外使用と呼ぶが、保険診療の枠外になってしまう。金銭的な問題はもとより、そこで副作用などで障害や死亡事故が起こってしまった場合、責任問題が発生してしまう。たとえ「私(患者)が強く希望した」という事実があっても、何か起これば、医療者側が責められてしまう。今の世の中の流れから行くと、善意を持った医療が、第三者の批判的論調であっという間につぶされてしまうのである。後出しジャンケンであり、こういう場合、常に勇気ある善意の医療者が不利な状況に追い込まれてしまう。そして、このような試みが潰されてしまうと、医療の進歩は途絶えてしまう。ただ、またその逆も真実で、善意ある医療者も人間である以上万能であるわけがなく、正しいと思ってやったことが最終的には単なる暴走となってしまう危険性もはらんでいる。当然だが「何でもあり」の治療では、薬害事件が起こるのは必至である。
こういった状況を防ぐため、各大学や大きな病院には倫理委員会、薬事委員会等があり、そういう例外的な治療に関して議論をする場を設けているが、そこには多くの場合、法曹関係者など医療の素人である人が参加している。彼らは当然現場の微妙なニュアンスは分からない。中立的な立場での意見を伺う場合にはとても良いと思うが、正直「そういう問題ではないんだけどなぁ。。。。」と思ってしまうことも多々ある。そして、特にこういう議論は倫理委員会自体も責任をとりたくないというのもあるが、慎重にならざるを得ないことが多い。現代の世論の流れから、是非は別にして、医療は安全を最優先した、萎縮医療に向かってしまっていると思う。
ただ、病気は待ってくれない。そのため、各施設では緊急度によって、緊急承認制度というのを設けていることが多く、この場合、2∼3週間で承認してくれる場合が多い。ただ、BEP療法は完全適応外使用であり、食道がんでの使用についての論文など、科学的な根拠に乏しく、承認が得られるか微妙なところであった。私の癌は進行が速いため、この審議に時間をかけられるようになってしまうと嫌だな。。と不安に思っていた。