治療開始から約10か月目、別の大学病院の腫瘍内科を受診した。あらかじめ、紹介状と画像のCDを送っておいた。私が医師であることも紹介状に書かれていたようで、言葉を飾らず、かなり直球な言葉で彼の考えや解釈について聞かせてもらった。

分かってはいたが、改めて自分の置かれた立場の厳しさを言葉を飾らずに言われると、いくら医師と言っても応えるものである。もちろん私が逆の立場であれば、言葉を飾るのはむしろ失礼になるので、そういう風に言うんだろうな、と思ったが、こんなところも医師であることのデメリットだな、と思った。

 

散々厳しい言葉を聞いた後(緩和医療も選択肢のひとつと話された)、別な選択肢として、とあるレシピの提案を受けた。AFP産生腫瘍は「胚細胞腫瘍」と似た性質を持つので、その進行期の治療であるBEP療法(bleomycin + etoposide(もしくはvincristine) + cisplatin)をトライしてみてはどうか、ということだった。そう言われて、一つの文献1)を教えてもらった。

 

胚細胞腫瘍とはかなり稀な腫瘍で、生殖器(精巣・卵巣)と体の中心線に沿った部分、胸の中(縦隔)、お腹の中(後腹膜、仙骨部)、脳(松果体、神経下垂体部)などに発生しやすいものである。赤ん坊の頃から色んな細胞に分化する役割を持つ原始胚細胞が悪性化したもので、明らかに私の癌とは違う。ただAFP産生腫瘍であることが多く、細胞の性質として似通っている(つまり効果のある治療薬も似ている筈)ので、効果はありそうだ、とのことである。ご自身も、私と同じ上部消化管のAFP産生腫瘍に対して実際に治療したことがあり、かなり効果があった、とのことであった(残念ながら最終的には亡くなられたとのことだが)。

 

やはり餅は餅屋で色んな経験をしているな、また文献を読んでいるな、と感心するとともに、一筋の光明を見た気がした。少なくともPositiveな情報を戴けたことに感謝した。

 

駄目元でもなんとかならないかと、あっちこっちにしがみついて今までやってきた。

諦めの悪い、無様な患者だったとは思うが、当たり前のことだが、こんなところでかっこつけてもしょうがない。

 

一つ気掛りなことがあったが、とりあえず、このBEP療法について主治医に相談することにした。

 

1. Guo Y-L, et al. Primary yolk sac tumor of the retroperitoneum: A case report and review of the literature. Oncol Lett. 2014 Aug;8(2):556-560. doi: 10.3892/ol.2014.2162.