陽子線照射は効果がある感触はあった。照射した部位はPETやCTで病巣は消失していたし、AFPも激減していたからである。ただ、当時化学放射線療法として、一緒に使っていたパクリタキセルはどうも効果があるようには思えなかった。

 

ご承知のように、重粒子線・陽子線などの粒子線を含む放射線療法は、いわば局所療法でPETやCTで検出できる癌の塊(病巣)を退治する。基本的に考え方は手術と同じ、と言ってよいと思う。これに対し、化学療法(抗癌剤)は放射線治療と組み合わせる場合、相乗効果があると言われ、照射部位の病巣が消えやすくなるとされている。

 

化学療法のもう一つの、そしておそらく最も大切な役割として、全身に広がっているであろう、癌細胞の小さな塊(PET等の検査では描出できないもの)を退治してくれる、というものがある。例えば私のように、病巣として検査で明らかになっていたものは、原発巣以外には、肝の右葉とリンパ節だけであったが、食道以外にそこまで到達しているということは、おそらく検査ではわからない小さな病巣は、他にもたくさん全身に散ってしまっているはずである。したがって、局所療法だけでなく、やはり効果の高い化学療法のレシピを見つけるのが急務であると感じた。

 

主治医は外科医なので、基本手術については詳しいが、化学療法はやはり腫瘍内科の先生の意見を聞いた方が良いと思った。もちろん主治医のことは信頼しているし、優れた医師だと思っているが、やはり餅は餅屋ということもある。手術も化学療法も、というのは昭和のころは当たり前だったが、医療が高度化している現在、分業制は進んでいるので、両方優れている、MLBの大谷選手のような人を求めるのは無理がある。

 

陽子線照射という武器を手に入れた、という実感があった。もう一つ、有効な化学療法という武器をどうしても手に入れたかった。私の癌のような特殊なものは、標準治療は必ずしも有効ではなく、それ以外の方法があるはず、と思った。

色々調べて、某大学病院の腫瘍内科の先生の門をたたくことにした。もちろん主治医にはその意を伝え、紹介状を書いてもらった。