自分は数字にこだわるというか、験を担ぐ方だと思う。クリスチャンなので、13という数字はきらいで、2013年が始まった時とても嫌な感じがした。さらに今日は有名な2・26事件が起こった日である。あまりいい気分ではない。
医師には意外とこういう験を担ぐ人が多い。その証拠にオペ室のロッカーは必ず縁起の良いとされる7や8のついたものから埋まっていくし、13や4などの数字のものは最後まで残っている。それだけ皆必死だし、何とかオペが上手く行って欲しいと思っているからだ。また、どんなに手を尽くしても、不運な結果になってしまうことも経験しているからだろう。ちなみに私は皆が手術室に入るより少し早めに行くことにしているので(麻酔科医ではありませんよ)、8番をゲットできることが多い。
初診医にお会いして、アナムネをとってもらい(症状はどうか、家族ではどんな病気があるか、などのことを聞くやつです)、採血、エコー、PET-CTを早速手配してくれた。ただならぬ病状であったせいか、すべて緊急扱いにしてもらって、その日の内に結果が出た。呼ばれるまでの間、ずっと心の中で念じていた。肝膿瘍であってくれ、絶対そうであってくれ。。。
しかし、無情にも結果は最悪だった。
「食道癌、しかも下部食道、おそらく胃食道接合部癌、で肝臓に複数個(実際には確か8個ぐらいだったと思う)の転移巣があり、リンパ節にもやはり広範囲に転移があります。」とのことだった。
このことが何を意味するか、医者ならば誰でもわかる、「ほぼお前は100%死ぬよ、しかもそう遠くない将来に」ということである。いわゆる「死刑宣告」である。
ショックだったのは間違いないが、頭の中が真っ白くなる、とかいうのではなく、むしろ何か異様な高揚感があった。ほとんど自覚症状はなかったが、数回おにぎりが何となくつかえたような気がしたことがあったこと、何よりも逆流性食道炎があったので、友人の所で肝エコーを見た時に、ある程度は予測していたからかもしれない。
それよりむしろ、隣にいた家内(家内も医師です)の頬を涙がすっと流れたのを見て、どうしようもなくいたたまれない気持ちになり、
「人はいつか必ず死ぬんだ。俺は大丈夫だ。」
とたしなめたのを憶えている。
ただこれは、覚悟が出来ていたとかそんな立派な状態だったわけではなく、ただ単にまだこのことが自分の身に本当に起こっていることではなく、傍観者としてみている気分だったんだと思う。ちょうどものすごくリアルなテレビドラマを見ている視聴者のような気分だったのだと思う。
ここから時間が経過するにつれ、自分自身に現実で起こっていることとして、理解できるようになり、まる4日間家内と一緒に途方に暮れて、泣き暮らしたようである。実はその間の記憶はゴッソリと抜け落ちているので、あまり確かではないが。。。
この現実逃避から始まって、長く苦しい戦いが始まることになった。