「・・・、森月、引っ越すの・・・?」

   




   高校卒業式

   写真を撮ったあと、森月から言われたコト


   「嗚呼。・・・黙ってたの、悪かったと思ってるよ。

   でも、美槻に言っちゃったら、俺の中でもけじめつかないと思ってさ。

   俺、どうしても此処を出て、もっと違う、自分にあった大学行きたいから。

   俺さ、将来、科学者希望なの。だから東京のどっか行くしかないっしょ。」

   森月はそう言って笑った

   「・・・、そ、っか。

   へぇ、そんなんだ。頑張りなよ?」

   「たまに電話するよ、暇な時とかな。」

   僕も電話する、そう言って笑ってあげた

   

   森月も

   僕の傍から居なくなる

   



   独りだけ・・・




   僕の周りの人が

   

   どんどん居なくなっていく


   また一人


   また一人、


   と




   いつか僕も誰かを一人にする日が来るんだろうか


   そして





   独りになる日が来るんだろうか
















   あの、律の事件以来、

   僕は律と逢っていない

   理由は簡単だった


   あの後、何度か病院に行ってみたが、

   その時にはもう遅く、違う病院にまた移ったらしい

   今度は、県も、全部違う、何処かへ


   あれからは意識をちゃんと取り戻し、

   元気になったらしいが


   前みたく、


   笑わなくなったと聞いた


   笑顔は見せるが


   何処か余所余所しい


   それを聞いて、少し哀しくなった



   精神的ショックも大きい、そう言っていた

   

   それ以外は何も言ってはくれなかった




   一体僕は


   どうすればいいのだろう



   最愛の恋人を失くし


   最愛の親友を失くした



   嗚呼、僕は一体




   独りで何処へ向かえばいい?



   


   進路だって決まってなくて、

   それでも高校を出れたのはラッキーだった


   大学に行く気力なんてない

   だからといって働くわけでもない


   嗚呼、このままじゃ駄目人間だ


  

   せめて律さえ隣にいてくれたら




   僕はなんだって出来るのに









   雲ひとつない、


   春の青空


   小さく見上げた僕は






   太陽にはどう映ったんですか?






























 
























   「、だから、もう宮崎さんなら町を幾つか越した病院に行きましたよ。」



   受付の人の口から発せられた言葉の羅列

   

   律は   もう居ない



   信じられないよ

   だって、ついこの間まで

   白いベッドに横たわる律の綺麗な寝顔をみていたのに

   まだ意識を取り戻していなくて・・・

   声すら聞いていないのに、

   もう、僕の隣には居ない





   今すぐにでも行きたいのに、

   僕の立場がそうさせてくれない

   当たり前のコトだけど

   そんな当たり前なコトすら腹立たしい

  

   隣町なら行けたのに・・・

   僕は唇を噛んだ


   隣町にも、それなりの病院はあるのだが

   体内を侵食する毒を伴うとなれば話は別だった

   なんでも、

   もし助かったとしても、後遺症を発症する恐れがあるらしい

   だから、そんな危機的状況に或っても

   助かる可能性のある病院に移ったわけだ

   

   両親も辛いんだろう

   東さんという長男を喪ったばかりで・・・・

   せめて次男だけでも、といったトコロ




   まぁ、時間が経てば、また律もこっちに戻ってくるし

   少しの間待てばいい

   それまでの辛抱




   





   僕はそれから、律のコトを一日たりとも忘れずに高校に行っている

   






   















   









 

























   「大丈夫、一命は取りとめましたよ。」




   医師から告げられた言葉


   瞬間、涙が出そうになった

  


   律は



   生きてる






   僕は安堵したのか、

   脚の力が抜け、その場に座り込んだ

   「・・・良かった・・・・。」

   僕は呟くように言った


   遠くで、森月が医師に頭を下げて礼をしている

   僕は慌てて森月の方に駆け寄った

   「ねぇ、森月!

   早く律のトコロ行こ・・・・・」

   傍にくると、森月の顔が強張ってるのが分かった

   「森、月・・・?」

   僕は不安げに顔を見た

   「嗚呼、たった今、森月さんにはお話したのですが、

   ええと、先程一命を取りとめた宮崎律さんのことなんですがね、

   生命維持がやっとな状態なんです。

   何しろ、うちの病院はそんなに設備は整ってないんですよ。

   ですからね、これから大規模な病院に移された方がよろしいかと。

   でなければ時間の問題ですよ。

   今のままでは長くて一週間もつかどうか。」

   医師は深刻そうな表情で僕に話しかけた

   だが、どことなく他人事のようにも思えた


   「・・・、紹介してください、病院を。

   今すぐにでも、律をいい病院に入れてあげたいんです。

   律のご両親には僕からなんとか言って、すぐに来てもらいます。」

   







   僕はその後、律の家に再度行き、家の中の電話手帳を持ち出した

   勿論、意識を取り戻していない律には何も言っていない


   僕は手帳を開き番号を調べ、両親に電話をいれ、

   明日には帰ってきてもらうよう言った

   



   勿論翌日、病院には両親の姿があった

































 



























   目の前の悪夢


   「・・・・・り、・・・・つ」


 

   声を出そうと思っても

   中々思うように喋れない

   苦しくなって・・・・

   空気を取り込む度に、

   肺が悲鳴を上げる


   耐えられなくなった僕は

   部屋の窓を全開にした


   新鮮な空気が部屋中にいきわた---

  

   ・・・新鮮?



   



   嫌な予感はしていた

   家に一歩脚を踏み入れた時から

   家に入るとき、躊躇したのは

   失礼だとかの問題ではない

   


   もう


   『嘘』 

  

   では済まされない


   『何か』


   を見るのが怖かったんだ




   僕は咄嗟に律に駆け寄った

   肩を掴み、上下に揺する

   「ねぇ、ちょっとッ!

   ふざけてるの?いい加減にしなよ、

   ねぇ、ねぇってばッ!!」

   


   夢中だった

   

   少しずつ、体温を失いかけている律の意識を戻そうと


   肩を揺さぶり、

   無我夢中で名前を呼んだ


   

   


   森月が来てくれるまで、

   僕は狂ったようにそれを繰り返した


   「美槻ッ、

   何やってんだよ、おいッ!」

   いきなり腕を掴まれて、反射的に僕は腕を止めた

   「・・・、どうしたんだよ?美槻

   何があったわけ・・・?」

   僕はゆっくりと顔を上げ、森月の顔を見た

   「・・・あ・・・、

   救急車・・・、救急車呼ばないと・・・。」

   自分でも何を言っているのかさっぱりだった

   「もう呼んでおいた。大丈夫、すぐ来るよ。」

   森月はそういうと、僕の頭を優しく撫でてくれた

   「なぁ、美槻、何があった?

   この部屋だって、律だって・・・、

   普通じゃないだろ?」

   僕は俯き、小さく口を開いた

   「・・・、僕が来た時から・・・・こうだった。

   家に入った途端、苦しくなって・・・・、

   息が出来なくて、この部屋にきたら、・・・・律が・・」

   この先は言えなくて、僕は涙を零した

   「・・・こんなコト言いたくないけどさ・・・、

   多分、自殺。一酸化炭素だと思うんだ。」

   

   「・・・・それって・・・、

   中、毒?」

   そういえば、森月はいつも理科の授業が得意で・・・・


   「嗚呼、それに家全体が締め切り状態だったから・・・

   充満させたんだと思う。

   それに、一酸化炭素を発生させるモノだって、

   探せば幾つかあがるんだ。

   さすが学年トップだぜ。こいつ、一番中毒性の高いものを使いやがった。」

   森月はそういうと、悔しそうに唇を噛んだ




   しばらくすると救急車が到着して・・・






   嗚呼、



   東さんを失って









   次は律




   君まで失わなくちゃならないのかい?































 

























   「、宮崎、は今日も休みか。」

   出席

   いつもどおり、朝にやる一つのコト

  


   律は、ここ最近学校に来なくなった

   今日で12日目

   2週間以上も休んでる

   勿論、恋人である僕は心配で、

   帰りに、一日一回は律の家に行く

   だが、いくらベルを鳴らしても出てきたコトはなかった

   要は、門前払い

   昨日も寄ってみたが、勿論出てくれる筈もなく



   「なぁ、律、どうしたんだろうな。」

   あれから、かなり仲の良くなった森月と昼休み


   「さぁ・・・、いっつも家には行くんだけど、

   出てくれないんだ。」

   僕は頬を膨らませて言った

   「やっぱさ、兄貴のコトと関係あんのかな?」

   森月は少し身を乗り出して聞いてきた

   「・・・、どうだろ、よく分かんないけど

   ないと思うよ。

   律のコトだから、きっと違うと思う。

   そんな引きずるのは、律がいやだと思うしね。」

   僕はそれだけ言うと、すぐに席を立ち、廊下に出た

   「え、ちょッ、

   おーい、みずきぃー!」

   教室から、僕を呼ぶ森月の声が聞こえる

   正直、すごく心配だった

   東さんのコトを、どうとも思ってないとは、

   僕自身考えられなかったからだ

   もしかしたら律はまだ思い悩んでて・・・

   そう思うと、居ても立ってもいられず、

   僕は学校を早退して律の家に足早に向かった



   

   しばらく歩くと、いきなれた律の家

   玄関の前に立ち、

   ベルを鳴らす

   勿論、中からの返答はない

   いつもなら、何回か繰り返して帰るのだが、

   少し気になって、ドアノブに手を掛けてみた

   開いている、なんてコトはないだろう、

   そう思いつつドアノブを回すと

   面白いくらい簡単に開いた

   「・・・・。」

   入っていいのか躊躇ったが

   僕は恐る恐る玄関に脚を踏み入れた


   「・・・ッ!!


   、・・・・・・な、に・・・これ・・・」

 


   少し歩いたトコロで

   いきなり苦しくなった

   息が上手く出来なくて・・・

   僕は胸元に手を当てて膝をついた

   

   激しく咳き込む

   空気を吸い込むたびに、

   喉が焼けるように痛くて苦しい

   「・・・う、・・・、

   はぁ、・・・はぁ・・・

   なんな、の・・・・・・・・」


   飲み込めきれない唾液が喉を伝う


   「・・・り、つ・・・」


   口に手をあて、なんとか立ち上がった僕は

   何故か東さんの仏壇がおいてある部屋に、転がるように入り込んだ


   






   そこで目にしたモノ


   



   最も恐れていたモノだった







   「嘘・・・でしょ・・・」


  

   苦しいのも忘れて


   ただ必死で






   



   愛してる人の名前を呼んだ















   「律ーッッ!!!!!」


































 
























   「あ、やべ。もうこんな時間?

   俺もう帰っけど、美槻はどうすんの?」

   


   律の、相変わらず綺麗な部屋で

   僕ら三人は多少の勉強と無駄話をしていた

   「え、森月帰るの?

   僕は律の家に泊まるからいいけど・・・。」

   今日は元々泊めてもらうつもりで来てたから

   律も分かっているんだろう、何も言わなかった

   「あ、お泊り会?

   いいな、俺も是非そうしたいけど、今日、用事あんだわ。」

   森月はそう言うと、ドアノブに手を掛けた

   「あ、待って。送ってくよ。」

   律はそう言って立ち上がろうとする

   「嗚呼、いいっていいって。別に一人で充分だし。」

   森月はそう言って笑うと、部屋を出て行った


   二人だけになった部屋には沈黙が訪れる

   律は、よく分からない方向を見ているし、

   僕は必死にノートと教科書と睨めっこ


   そんな思い空気を先に破ったのは律だった

 



   「僕、さ。」

   

   いつもより、少しトーンの低い声


   「好き、だったんだ。

   兄さんの髪・・・。」


   ポツリと、呟くように言った

   僕は顔を上げ、律の顔を見た


   悲しそうな眼だった



   「り、つ・・・?」

   恐る恐る、様子を伺うように。


   「あの、長い髪の毛が本当に好きだった。

   兄さんが机に向かって勉強してるトキ、よく、後ろからちょっかい出したり・・・。

   布団に横になってる時も、よく隣で撫でてた。

   兄さんも、髪の毛撫でられるのが好きで、

   子供みたいに笑ってくれた。

   その顔を見るのが楽しくて、・・・・。」

   律はそう言うと、俯いてしまった

   「・・・火葬される前にね、

   兄さんのトコロに行ったんだ。

   ・・・髪をひとふさ切ろうと思ったの。

   けど、切れなかった。なにもかも、完璧にしてあげたかったんだ・・・。」


   それだけ言うと、律は部屋を出て行ってしまった





   何も


   してあげられなかった


   もう


   元気になったとばかり思ってたのに


   一ヶ月も経っているのに


  


   追いかけるコトも




   出来ないなんて
































 



























   静かな部屋には

   僕の泣き声だけが響いた

   

   「、美槻・・・、 大丈夫・・・?」

   律の声と共に、僕の方に律の手が置かれた

   つくづく情けないと思う

   本来なら、僕が律を慰めてあげる立場の筈なのに・・・

   本当、自分って気の利かないヤツ

   律だって、

   本当は泣きたいんでしょう?

   だって、あれだけ仲が良かったんだから

   

   僕にだって、

   『東さんが死んだ』

   っていうコトが、まだ信じられないでいるくらい

   

   それでも、

   僕はただ泣くことしか出来なくて・・・

   律は強い子だね、

   さすが東さんの弟

   きっと、律は東さんの自慢の弟だったんだろう

   


   そう思うと、涙だけが出てきて

   恥ずかしいコトに、僕は一晩中律に迷惑掛けた















   それから一ヶ月経って-----


   もう、僕も律も普通に学校に通えるようになっていた

   だが、律は廊下で誰かにすれ違う度に

   「元気出せよ」 「頑張れ」

   など、声を掛けられていた


   だが、そんな皆の思いとは裏腹に

   律は思った以上に元気になっていた

   東さんの話題を切り出されても、

   泣くことは勿論、辛そうな顔さえ見せなくなった

   嗚呼、本当に僕とは大違いだ

   とはいえ、僕もいつまでも引きずっているわけにもいかず、

   気楽にいこうと決めていた


   だってあのとき病院で東さんに言われたから



   僕が哀しんでると

   

   東さんも哀しい




   って




   だからもう泣いたりしないし

   明るく笑顔を心がけてる


   それが、亡くなった東さんの餞ならば




 

   


   勿論、それからも僕は律の家に行き続けてる

   だから、一日一回は最低でも東さんの仏壇に拝むコトが出来るのだ



   その日も、律の家に行こうと決めていた

   帰り道の途中、クラスの奴に会って、一緒に行くコトになった

   

   「なぁ、律。

   お前さ、もう大丈夫なの?なんかすげー普通にしてるみたいだけど。」

   クラスメイトの森月は律に話しかける

   「ん?嗚呼、もうじめじめしたのはなしにしたんだ。

   それにね、一ヶ月も経つと、頭の中でだいぶ整理できたし、

   もう、ちゃんと受け入れられるよ。だってほら、僕は強いから。」

   律はそう言って、笑顔を見せる

   鼻の奥がつーんとした

   勿論泣いたりしないけど・・・




   それからは、意味の分からない馬鹿話を駄弁って

   律の家に


   

   僕ら三人は、

   一番最初に

   東さんの仏壇のある部屋へと向かった



































 






















   怖いくらい、静かな廊下

   暗い辺り

   ちょっと歩いただけでも周囲に響き渡る足音


   「、相変わらず、綺麗な顔してたよね。」

   僕は、廊下の小さな椅子に座っている律に話し掛けた

   「・・・・・・・・、僕の、兄貴なんだから・・・・

   当たり前でしょう・・・?」

   律はそういうと、いきなり顔を伏せたかと思うと声を殺して泣き始めた

   

   一瞬だった


   交通事故で


   

   いきなり信号無視の車が飛び込んできたかと思うと


   あっという間に誰の悲鳴が上がって


   真っ赤な血が渋き


   辺りを恐怖に巻き込んだ


   後から、春日部の制服を着た人が


   僕たちの後を追って病院に来た


   その人たちは


   僕らに頭を下げて謝った


   本当は、轢かれるはずだったのは

 

   東さんではなく、自分達だったというコト


   つまり、


   東さんは自動車から同級生を守ろうと


   自ら犠牲になったってコト


   東さんらしいね


   しかも、その同級生とは


   ほとんど口をきいたコトはなかったらしい


   それでも


   助けてあげたんだ



   正直


   『何で車にはねられたのが この人たちじゃないんだろう


   どうして東さんなんだろう』


   って思ったよ


   それくらい


   大好きだったんだ


   律と比べるモノではないけれど


   違う面では


   東さんの方が好きだった


   僕の大好きなおにいちゃん


   本当に


   尊敬してたんだ





   薄暗い部屋の扉を開けると

   真っ白なベッドがあった


   その上に寝かされているのは


   勿論東さんだった


   顔に白い布をかぶせられて

   

   僕はその布を

   そっと取った

   いつもとなんら変わらない、綺麗な顔

   長い髪

   白い肌

   ただ一つ

   いつもと違うのは




   息をしていないというコト






   何故だがいきなり涙が溢れてきて

   どうするコトも出来なかった

   「あずま、さん・・・、何してるんですかあんたは。

   両親が居ないんでしょう・・・?どうして・・・・。

   貴方まで律をひとりに・・するんですか・・・・・・・?」

   床に膝をつき、冷たくなった東さんの頬に手を添えた

   「ふざけないで下さいよ・・・・、

   律は我侭で、世話の焼ける子ですね、って、

   前、自分で言ってたじゃないですか・・・、

   全部・・・、僕一人に任せる気なんですか・・・?」

   言葉を紡いでいく度に 

   僕の目からは涙が溢れた

  

   だって、

   手を伸ばせば届くのに


   体温だけ


   こんなにも遠い





   そんなとき


   聞いた気がした




   『泣かないで下さい』




   東さんの


   優しい声


   

 

   君が泣くと、


   僕も哀しいんですよ、美槻くん



   後ろを振り向いても


   誰もいるはずがなく・・・・




   僕は


   降り止まない涙を


   とめる術をしらない
































 





















   不自然な人だかり


   大きな道路

   

   ざわつく周囲



   




   その人だかりの中心に、


   横たわる人



   「あ、・・・ずま、さん?」


   何がなんだか分からなくなった

 

   頭が真っ白になっちゃって・・・


   ねぇ、一体こんなトコロで何してるんですか


   僕、これから貴方の家に行こうとしていたんですよ?



   僕は持っていた鞄をその場に落とした

   「美槻?」

   気付いていないのか、

   律は僕の異変に気付くと、不安そうに僕の顔を見た

   そんな場合ではなかった

   僕は一目散に走り出し、無理やり人込みを掻き分けて

   中心部分に来た



   僕の目に


   狂いはなかった



   

   肩より、少し下まで伸ばした綺麗な髪の毛


   さらさらで、


   後姿を見つけるたびに


   愛おしそうに撫で付けた


   そしたら東さんは振り返って


   決まって笑ってくれた


   そんな髪の毛は、


   今は力なく地面に乱れていた


   真っ白な制服を着ている


   小さなロゴが入っていて、


   英語で『春日部』 と記入してある


   東さんの大学の制服だった


   すぐ隣には


   東さんのモノと思われる鞄が落ちていた


   



   そして


   それらが全て



   


   真っ赤に染まってた



   東さんの


   真っ白で綺麗な肌も


   髪の毛も


   制服も


   熱を持たないコンクリートも


   全部


   全部


   

   東さんの


 

   真っ赤な 綺麗な血で




   

   後ろで律が何か叫んでる


   けど、僕には聞こえない



   全てが


   狂ったノイズのように響いた



   息を切らした律が

   僕のすぐ隣に来た

   そして

   僕の目の前に広がる光景に愕然としていた

   「な、にコレ・・・?」

   律は地面に力なく崩れ落ちた

   僕ははっとしたように東さんに近寄った

   そして、自身の血に塗れた東さんの肩を抱き寄せ、

   ゆるく揺すった

   「ねぇ、東さんッ、聞こえてるんでしょうッ?

   返事して下さいよ、ねぇッ!!」

   僕は我を忘れたように叫んだ

   だが東さんは固く閉じたその瞳を開けようとはしなかった

   


   分かっている   分かっていた

   それでも叫び続けた

   もう何も聞こえない東さんに向かって


   


   

   分かっている   分かっていた

   それでも祈り続けた

   もう戻っては来ない東さんのために







   しばらくすると

   救急車が騒がしい音を鳴らして来た

   すぐに隊員の人が担架を持って出てきた

   だけど、僕は東さんを離したくはなかった

   肩を抱き寄せたまま、小さく目を瞑った

   自然と  涙が溢れてきて


   「君、離しなさい、早くッ!」

   担架を持った人は声を荒くして言った

   「・・・いやだ。」

   僕は

   自分で何を言っているのか分からなかった

   再度目を開けて、

   血の気の失せた東さんの綺麗な顔を見つめるコトしか出来なかった

   


   気付いたら東さんは担架に乗せられ、

   救急車の中へと運ばれていった

   

   「・・・やだ、東さんっ、・・・いや、あずまさんッッ!!!!」

   遠いトコロから、

   遠くなる白く、醜い車に叫ぶコトしか出来なかった

   僕の声、届いてますか?


   追いかけたいけど

   ショックで脚が動かなかった

   その場で崩れおちるコトも出来ず、

   僕は夢の中を彷徨うモノのように、

   ただ突っ立っているコトしか出来なくて


   

   


   一向に動こうとしない脚に

   動けと念じ、

   僕は今だ現状を理解出来ていない律の腕を引っ張ると、

   全力で病院を目指した



























 

























   「ねー、律、東さんって何処の大学?」

   律の家に行く途中の道

   人通りも多くて、いつもにぎやかなトコロ

   「え、嗚呼、兄貴?

   んー・・・多分春日部。

   春日部の高校行ってるよ。」

   律はしれっと言った

   「! 春日部ッ?

   嘘、あそこって、かなりレベル高いよね・・・?」

   『春日部高等学校謙大学』は、ここら辺でもかなり有名なトコロだった

   勿論、多少頭良い、程度では入れるわけがない

   「やっぱり東さんって頭良いんだね。」

   僕は笑いながら話しかけたつもりだが、律はむすっとしている

   「どうしたの?」 

   「だって、美槻さ、最近東さん東さん煩いんだもん。」

   律は可愛らしく頬を膨らませて言った

   それがまた可笑しくて、

   「あー、御免御免。

   、そういえばさ、今日の現国のトキ、律寝てたでしょ?」

   僕は授業風景を思い出して言った

   「え・・・、嗚呼、あれね。

   だってさ、今やってるトコロ、かったるくない?」

   「何言ってるの。

   先生が、あそこはテストに出る重要なところだ、って念を押してましたけどね。」

   すると律は嫌そうな顔をした

   「ぅわ、テストとか単語、ありえないよ。

   ていうかノート見せてよ。写したい。内申書、響くしね。」

   悪びれる様子もなく、律は早口で言った

   「ふざけんな、」

   「え、見せてくれないの?」

   「別にそういうワケじゃないけど。

   5分で写し終わるならいいよ?」

   僕は馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った

   「げッ、みーずきさんてば意地悪ぅー。」

   それからは他愛もない会話

   テストがどうのこうのだとか、

   クラスメイトのヤツが別れただとか、

   けど、そんな会話でさえも愛おしく感じた






   




   しばらく歩いたところ 



  

   不自然な人だかり


   大きな道路

   

   ざわつく周囲

 

   悲鳴を上げる、女子

   大学生


   泣き崩れた数人


   慌てふためく人


   逃げるように立ち去る人


   口元を押さえてる人


   可笑しい


   全部、可笑しい


   

   中心に居た人物


   僕の大好きで


   尊敬してた、いや

 

   尊敬してる人


   いつも綺麗に微笑む人


   たまに


   もの凄く意地悪い


   それでも


   優しくしてくれた人


   僕の


   お兄さんみたいな存在


   ねぇ、


   



   「あ・・・あずま、さん?」




   そこで



   何してるの?

















   頭の中が



   真っ白に



   目の前が


   

   真っ黒に



   ねぇ



   一体



   何を



   しているんですか?