「もう、30年以上の付き合いですから」
右の肩をなでながらMさんがいう
Mさんにとって右肩の凝りは
古い友人のようなものらしい
右肩がこっている時が
一番体調がよいという
ちょっと、おかしな話だけれど
右の肩の治療をしている時が
Mさんの安定期なのだ
・・・
Mさんの病は、散歩、逍遥する
ある時は頭痛や目や鼻や口
ある時は胸から動悸から呼吸器や手
またある時は腰や頻尿や足へ
またまたある時は不眠や食欲不振
そのたんびに内科や脳神経外科、
そして整形外科や、泌尿器科や、
心療内科にとても忙しい
そういうわけで、
ほかの病院通いがなく
鍼灸院に右の肩凝りを
治しにきてるくらいが
Mさんの平和な日常だったりする
ところで
Mさんには左の乳房が
ない
随分と昔に乳がんの治療で
切除したからだ
Mさんと僕は
Mさんのリンパ管や
胸の筋肉の不足から起こる
循環の不具合について
よく話し合っていくなかで
それを補うように
とても頑張っている右の方のからだに
話題がのぼるようになった
そのうち、いつしか
Mさんの中で
右肩の慢性の肩こりに対して
感謝や愛おしさのようなものが
生まれたらしい
「先生、右肩はね、私を頑張って
ささえてる相棒みたいよ」
そう、
慢性病や慢性痛は
憎らしい面もあるが
補償したりバランスをとったり
苦労している感謝すべき奴
かもしれないのだ
「やあ、頑張ってるかい
お疲れ様」
今日も僕は
鍼治療をしながら
Mさんの右肩に
心のなかで
そう
話しかける