彼女はびくりとふるえ、一声高く叫ぶと、それが何のためか自分でもわからぬまま、いきなり彼の足もとにひざまずいた。

 「あなたはなんてことを、いったいなんてことをご自分にたいしてなさったんです!」[…] 「あなたはこの世界のだれよりも、だれよりも不幸なのね!」彼の言葉も聞こえぬらしく、彼女は夢中で叫んだ。そしてふいに、ヒステリーでも起きたように、おいおいと泣きはじめた。[…] 

 「でも、きみになんと言えばいいんだ?だって、どうせきみには何もわかりっこない、きみはただ…ぼくのために苦しみぬくだけなんだ!ほら、現にきみは、泣きながら、またぼくを抱く。でも、きみはなんのためにぼくを抱くんだ?。ぼくが自分で耐えきれなくなって、他人にお裾分けにきたからかい。「きみも苦しんでくれよ、僕が楽になるから!」って。いったいきみは、そんな卑劣な男を愛することができるのかい?」 
 
 「だって、あなただって
 苦しんでいるじゃありませんか?」

 ソーニャは叫んだ。

 【トストエフスキー:罪と罰】