月も出ない静かな夜。
周囲は闇に包まれ、目に入る光と言えば遠くに灯る街の明かりと、それを映す冷たい瞳。
「本当にいいんですか」
「……ああ」
断れない訳ではなかった。だが拒んだ先に待つのは大きすぎる代償。
それに比べれば自分の心を殺すくらい簡単なものだ。
「優しい人ですね」
初めから選びようのない選択肢を与えておきながらこの言葉。
ふざけたことを、と言いかけて口を閉じた。今更何を言おうとこの満足気な微笑は崩せないだろう。
どちらを選ぼうと自分にはもう帰る場所などなかったのだ。
それどころか、少なからずこうなることを望んでいたのかもしれない。
なんにせよ、もう元には戻れないという事実だけが暗闇の中に朧げに浮かんでいた。


テレサテンの名曲集を聞いていたらふと。