あの牡蠣の人は【環境デザイン】で不可能を可能にする!Powered by Ameba -5ページ目

日本の食が危ないかもしれない「ウォータープルーフマウンテン現象」とは

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https://note.com/donegism/n/nbb852050bbe5













昔、日本の山は木材のために植えられた。

杉や檜が、斜面いっぱいに植えられている。
なるべく多く育つように、間隔は狭く。

そして、より強い木になるようにと、急な斜面にも植えられた。
急斜面では、木は重力に逆らって立とうとする。

そのせいか、幹はたしかに強くなるのだそうだ。

その頃、木はよく売れた。

だから人々は、山を切り開き、また植えた。
山は次々と木で埋められていった。

ところが、ある日から木は売れなくなった。

理由はいくつもあるが、山の持ち主にとって大事なのはただ一つ、
金にならなくなったということだった。

それから山は、手入れをされなくなった。

山に入ると、昼間なのに薄暗い。
杉が密集して、光がほとんど地面まで届かない。

雨も、枝葉に弾かれてしまう。
水は地面に落ちない。

まるで山全体が、
撥水加工でもされているように見える。

僕はそれを、
ウォータープルーフマウンテンと呼んでいた。

地面には草も苔もほとんどない。
木は生きているはずなのに、

山全体がどこか死んでいるように見える。

山に水が染み込まないと、
川に流れ出る水も変わる。

山の栄養が川に降りてこない。

川に降りてこないものは、
海にも届かない。

そして海は、少しずつ痩せていく。

牡蠣の仕事で地方に行くと、
僕はよく川を遡った。

シャケみたいだと、誰かに笑われたことがある。

海から川を上り、
山に向かう。

そして山の持ち主を探す。

だいたいの場合、
見つけるまでにずいぶん時間がかかる。

やっと訪ねていくと、こう言われる。

「いや、あの山、俺じゃないよ」

本当かどうかはわからない。

山のことは、誰もあまり話したがらない。

間違って山に入ったりすると、
ときどき、あまり機嫌のよくない人が出てくる。

まあ、実際のところ不法侵入なので、
文句を言われても仕方がない。

痛い目に遭ったことも、
ないわけではない。
警察は呼べない。
呼ばれない。

そのかわり、
しばらく話を聞かされることはある。

そのうち、たいてい聞かれる。

「お前、なんでこんなことしてんだ」

自分でも、
よくわからない。

「海が死ぬかもしれないんです」

そんな話をすると、
相手はだいたい黙る。

それから、古いチェーンソーを持ってくる。
そして、刃を磨き始める。

よく見ると、
たいてい少し錆びている。

その日だけ、
山に入ってくれることもある。

何本か木を切って、
また山を下りる。

それだけでも、
何もしないよりはずっといい。

でも、次の山に行けば、
また最初からだ。

さっきの出来事は、
どこにも共有されていない。

日本の山の数を考えると、
同じことを一万回繰り返しても、
まだ足りないかもしれない。

そんな話を、
あるときクラブハウスでしていた。

米農家だという若い人が、
途中でこう言った。

「すみません」

その人の家にも山があるらしい。

間伐しないといけないのは知っていた。

でも、金にならないし、
なんとなくそのままにしていた。

「海に迷惑をかけていたなんて知りませんでした」

そう言って、
彼はいったんルームを抜けた。

少しして戻ってきた。

「間伐してきました」

最初は三本くらいのつもりだったらしい。

でも途中で、
妙に気持ちよくなってきたのだという。

結局、十二本切ったそうだ。

「でも、これだけじゃ足りませんよね」

彼は山から下りて、
間伐の管理センターに申し込みに行ったらしい。

お金も払った。
貯金を全部使ったという。

農薬を撒くためのドローンを買うつもりで貯めていたお金だそうだ。

「しばらくは昔のやり方で農薬を撒きます」

彼はそう言って笑った。

その話を聞いていた人たちが、
次々に動き出した。

「俺も山に行ってきます」

「親に登記をちゃんとさせます」

そんな声が、
ルームのあちこちから聞こえた。

あれは、2021年の春だったと思う。
SNSには波がある。

あの頃は、
ちょうど波が高かった。

だから、
たまたま遠くまで届いたのだと思う。

僕は今でも、ときどき思う。
人はたぶん、
ずっと同じ話を繰り返している。

山で木が育ち、
川に水が流れ、
海に栄養が届く。
その途中で、
誰かが少しだけ手を動かす。

たったそれだけのことで、
世界はわりと変わる。

ただ、チェーンソーは危ない。

間伐は、
素人が気軽にやるものではない。
プロでも、毎年誰か死ぬ。

もし興味があるなら、
まず映画を一本観てほしい。
『ウッドジョブ』という映画だ。

チェーンソーを買うのは、
そのあとでも遅くない。

山には、まだ錆びたチェーンソーがたくさん眠っている。

これからも、僕は、
ウッドジョブならぬ、ウッド『ジャブ』を繰り返していくだろう。

そしていつの日か、
「グッドジョブ」と言われる日がね。
たとえ、いまは、
ささやかな抵抗であったとしても。