旧司法試験過去問解説解答の掲載の要望があったので、随時色々更新していきます。
これが答えだとは思わず、あくまで一つの参考にしておく程度にとどめておいてください。
良い評価を得られる答案を書くために一番大事なことは自分の頭で事案と格闘することです。
そして、格闘の仕方は様々あり、正解はありません。
例えば、野球選手を見ればわかる通り、ピッチングフォームが完全に同じピッチャーなんていません。
自らの筋肉の付き方、チームの状況、体力等がピッチングフォームを形成する要因になるわけで、ピッチングの練習だけでピッチングフォームが定まるわけではありません。
そして、それぞれのピッチャーは、異なるピッチングフォームではありつつもそれぞれのフィールドで活躍しています。
答案の書き方もそれと同じです。
まったく同じ答案を書く人間が二人いることなどありえません(暗記している答案を吐き出す場合は別ですが)。
人の答案の型は、旧司法試験等の問題検討、答案作成だけで形成されるものではなく、様々な法律の文献を読むこと、法律に限らず哲学、経済学、社会学、会計学等の別分野の文献読むこと、人と法律に関する議論をすること、ある先生の授業を受けること等を経て身につくものです。
そして、上位合格者の答案を読んでみても、全く同じ答案はなく、それぞれの答案が様々な視点から評価されています。
はい、何が言いたいのかというと、理想的なピッチングフォームが一つに定まるわけではないことと同様に、理想的な答案が一つに定まるわけではなく、プロのピッチングフォームを真似てみても、そのピッチングフォーム及び実際のピッチングを完全にトレースすることができないのと同様に、人の答案の型を真似てみても、その人の答案の型及び思考方式を完全にトレースすることは不可能であることを言いたかったわけです。
とはいえ、成功しているピッチャーのピッチングフォーム、司法試験に合格している人の答案の型には一定程度共通点があることは確かです。
その共通点を見つけ出すためには複数の答案例や、問題に対する取り組み方のサンプルを観察する必要があります。
そこで、僕は、受験生がその共通点を自ら見つけ出すために必要なサンプルを増やしたいとの思いから、今回のように問題の解説、答案例の掲載をした次第です。
ということで、繰り返しになりますが、僕の答案の型をコピーしても意味はないので、自分の答案の型を身に着けるための一つのサンプルとして扱って頂けたら幸いです。
昭和60年旧司法試験憲法 改題
国会は,国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るため,外国からの輸入を規制し,その生産物の価格の安定を図る措置を講ずる法律を制定した。その生産物を原料として商品を製造しているX会社は,右の法律による規制措置のため外国から自由に安く輸入できず,コスト高による収益の著しい低下に見舞われたため,右立法行為は憲法に違反すると主張し,国を相手に損害賠償を求める訴えを提起した。
〔設問1〕 あなたがXの訴訟代理人として行う憲法上の主張を述べなさい。
〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、被告側の反論を想定しつつ、述べなさい。
解説
1総論
本問は典型的な経済的自由権に関する問題であるから、簡単だと感じた方が結構いるとは思います。が、しかし実際に問題を解いてみると、どうやって憲法上の権利の制約を導けばいいのか、規制目的二分論はどのように言及すればいいのか、国賠の特殊性をどう論じればよいのか、いろいろと疑問がわいたはずです。以下、その疑問を解きほぐしていきましょう。
2憲法上の権利の制約
まず、憲法上の権利の制約として今回問題になっているのは経済的自由権であることがわかります。経済的自由権には、職業選択の自由(22条1項)と、財産権(29条)がありますが、今回はXさんの既得権等が侵害されたわけではないので、22条1項の問題として検討していくこととなります。
では、今回Xさんに職業選択の自由の制約が認められるでしょうか。
今回Xさんはどのように困っているかというと、外国から安く生産物の輸入ができなくなったせいで営業コストがあがったという形で困っています。これが果たして職業選択の自由の制約になるのか、本問での一つの肝となります。
というのは、判例で検討されてきた職業選択の自由に対する制約は、その職業を行うことについての開業許可ですとか、開業自体を問題とする話がほとんどです。一方、今回の問題は開業自体が許可制等で制約されている場面ではないので、判例のように職業選択の自由の制約をただちに認定することが難しい事案であることがわかります。
職業選択の自由には、営業の自由も保障されるとするのが一般的な考え方でしたね。では、今回営業の自由が制約されているのか検討していきましょう。そもそも、営業とは何でしょうか?典型的な商売を行う人たちは、店舗を構え、何か原材料を購入し、それを加工して、販売するといった流れで商売が行われていきます。営業とはこの流れのことです。
そうすると、この流れの中でどこかしらに負担をかけることは円滑な営業を妨害するものとして営業の自由の制約を構成すると主張することができますね。
今回だと、安く外国から輸入することができず、原材料の購入の段階で負担がかかっていることから、営業の自由の制約が認められると論じることが可能となります。
3判断枠組み
(1)規制強度
原告側としては規制強度が強いということを言う必要があります。営業態様に対する規制にすぎず、開業や職業遂行をなんとかしていくことができる程度の規制では、規制強度が強力なものとはいえません。
具体的には、今回の規制が営業それ自体を断念せざるを得ないほどのものと評価できるか?という点が争いになっていきます。
原告としては、本件法律による規制措置のため外国から自由に安く生産物を輸入できず,コスト高による収益の著しい低下に見舞われたとあり、この著しい低下によって、営業継続が困難になり、もって営業の断念につながりかねないものであると主張することが考えられます。
とはいえ、原告が今回の規制によって営業を断念せざるを得なかったとまで評価することは難しく、あくまで収益の低下に見舞われたにすぎず、営業それ自体を行うことはできているわけですね。そうすると、被告としてはまさに、経済的利益を上げにくくなったにすぎず、営業自体の断念を導くほどの規制ではないことから、強度な規制ではない、と論じることが考えられます。私見においても、被告の反論が妥当し、今回の規制は、営業の一態様の制約に過ぎず、実質的な職業選択の自由の制約とは評価できないことから、制約の強度は大きいものではないという結論を導くのが穏当でしょう。
(2)規制目的二分論
いわゆる規制目的二分論も問題になります。規制目的二分論とは、規制目的を積極国家における規制目的、すなわち国民の生命及び健康に対する危険の防止や最低限の秩序維持の目的と、積極国家において登場した規制目的、すなわち積極的な社会経済政策目的に二分して、それぞれ厳格度の異なる審査基準を適用するというものです。
そうすると、審査基準が緩やかになるというのが憲法学界の定説ですが、緩やかになる理由に関しては様々な争いがあります。
その理由としてよくあげられるのが、裁判所の審査能力や国会との役割分担を考慮した結果であるというものです。すなわち、消極目的の規制については伝統的な警察比例の原則が妥当することから目的適合的な手段は限られており、裁判所の審査に適しているのに対し、社会経済政策については達成手段が複数考えられる以上、比例原則を妥当させることが困難であり、国会の判断に委ねるべきであるから、審査基準は緩やかになると説明されています。
今回の法律の目的は、国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るためというものですがこれは積極目的規制といえるのでしょうか。小売市場判決において「憲法は、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図」していることから、「経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請していることは明らか」であるとして、積極目的を認定したわけですが、これはあくまで「経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策」を福祉国家理念から積極目的と認定したわけであって、国家全体の成長のための経済政策を積極目的にあたるとするためには、ワンクッション論証が必要になってきます。
ここで、先ほどの積極目的規制が緩やかな審査になる理由を確認すると、積極目的は複数の達成手段が考えられ、その達成手段の適合性の評価を裁判所が行うことは困難であるから、立法裁量に任せましょうという議論でした。今回の経済政策も、複数の達成手段が考えられ、どれが最も効率的なのか司法が判断するのは困難であることがわかるため、積極目的にあたるとする議論が成り立ちます。
3個別的具体的検討
本件法律の目的は,国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図る点にありますが、国策で経済政策に強く口出しができるという積極国家体制であることは許容されると論じられれば、上記目的の正当性は肯定されることになります。
一方で、日本国憲法は社会的弱者救済のための市場の介入は許されるものの、国家が経済を発展させるという意図での介入はむしろ自由市場をゆがめさせ、健全な経済発展を望むことはできないとして、目的の正当性を否定する議論を展開することも考えられます。
上記議論はネオリベラリズムvsソーシャルリベラリズムという経済学に関する神々の論争になることから、どちらが正しいとか決定することは困難です(先ほど述べたように、小売市場判決において「憲法は、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図」している、と記載されているとはいえ、おそらくネオリベラリズム的思想を排除する趣旨ではないでしょう。)。そこで、裁判所としては、どちらが正しいとか決めるのではなく、民主主義を尊重し、国民が議会へ送り込んだ国会議員の判断を正しいものとみなしましょうと考え、立法目的は正当性を肯定するという流れで立法目的の正当性について検討しましょう。
次に手段審査ですが、外国からの輸入を規制すれば、国内でのその生産物の供給が抑えられるわけですから、価格の安定を図ることができ、もって、国内産業の保護につながると考えることはできますから、著しく不合理なものとはいえないと、端的に論じてしまえばいいところだと思います。
4 立法行為の違憲国賠
最後に、今回のXは、国に対して、国家賠償法1条1項に基づき、賠償を求めています。違憲な立法行為を行ったことを違法であると捉えているわけですが、果たして仮に今回の法律が違憲であるとして、それがただちに、立法行為の「違法」性を導くことになるのでしょうか。これが問題です。法律自体が違憲であるという問題と、違憲な法律を制定することの問題は別問題ですので、そこは意識しておいてください。
この点に関しては、在外邦人選挙権確認訴訟という超有名判例があるのでみてみましょう。
在外邦人選挙権確認訴訟
「国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。」
判例は、まず、「国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。」とし、法律が違憲であることと、違憲な法律を立法することと次元が違う問題であると確認しています。その後、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。」と、立法行為又は立法不作為が違法になる場合の規範を論じています。
立法行為に関しては、「立法の内容・・・が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」
立法不作為に関しては、「①立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,②国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」
に、国賠法上の違法を基礎づけることができるとしています。
今回の問題は、経済的自由権の行使の機会を設けないことが問題だ!としているのではなく、あくまで立法の内容の違憲性が問題になっているわけですから、立法行為に関する違憲国賠の規範を選択する必要があります。
ということで、規範としては、「立法の内容が国民の憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」に立法行為が違法となると、定立することができます。
今回だと、前述したとおり、立法内容自体が違憲とはいいがたいので、結局上記規範に照らしても、立法行為の違法性を見出すことができない、という結論になります。
答案例
第1 設問1
1結論
外国からの輸入を規制し,その生産物の価格の安定を図る措置を講ずる法律(以下、「本件法律」という。)は、Xの営業の自由(憲法22条1項)を制約するものとして、違憲であるから、違憲な立法行為を行ったとして、国家賠償法上違法と言え、損害賠償請求は認められる。
2理由
(1)憲法上の権利の制約
本件法律により、Xは、自己の営業のために使用する生産物を自由に安く輸入することができなくなっている。
憲法22条1項は「職業選択の自由」を保障するところ、職業の遂行をすることができないと、実質的に職業選択の自由を保障したことにはならないことから、職業遂行の自由としての営業の自由も保障される。
本問において、その生産物を原料として商品を製造しているX会社は,本件法律により、原材料の仕入れ、製品製造、販売という営業活動の一環一つの段階である原材料の仕入につき、高値で購入することを強いられていることから、営業の自由の制約が認められる。
(2)判断枠組み
職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格価値とも不可分の関連を有するものであり、重要な価値を有する。
本件法律は外国から輸入物の輸入量が減少させ、それによって輸入物の価格を上昇させるものであるところ、輸入物を原料として製品を販売している者としては、輸入物の高騰により、コストが増加し、それによって、自己が当初想定していたビジネスプランを達成することができなくなることによって、最終的には廃業に追い込まれる可能性があることから、実質的に職業選択の自由を制約するものであるといえる。そして、輸入物の価格は需要と供給という市場原理で決まることであり、自己の努力によって輸入物の価格を下げ、営業を継続させていくことはできないことから、客観規制であり人格的利益への毀損の程度は大きい。
したがって、実質的に職業選択の自由を制約する客観規制であることから、目的が重要で、手段が必要不可欠でなければ違憲となる。
(3)個別的具体的検討
本件法律の目的は、生産物の価格の安定を図り、もって国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図る点にあるところ、物価については、市場原理にゆだねたほうが、効率的な経済活動を促すことができるのであるから、政府が生産物の価格を左右しようとすることは不当な目的といえる。
したがって、本件法律は憲法22条1項に反し違憲であり、違憲な法律を立法する行為を行った国会の行為は国賠法上違法といえる。
第2 設問2
第2(2)について
1 制約態様
(1)被告の反論
本件法律は、営業の一態様を制約するものにすぎず、実質的な職業選択の自由の制約にはあたらない。
(2)私見
X会社は,本件法律により、原材料の仕入、製品製造、販売という営業活動の一環の一つの段階である、製品製造、販売という営業活動の一環一つの段階である原材料の仕入につき、外国からの輸入形での仕入ができなくなっているだけであり、国内での輸入以外の手段での調達を行うことはできるのであるから、コスト高だけを捉えて、実質的な職業選択の自由と評価することはできない。
したがって、被告の反論は妥当である。
2 客観要件であるかについて
(1)被告の反論
市場原理はあらゆる経済活動に妥当する原理であるところ、市場原理の働きが、個人の人格的利益の毀損を招くような規制とは言えず、原告の主張する判断枠組みは妥当しない。
(2)私見
確かに、原材料の価格は需要と供給という市場原理で決まることであり、自己の努力によって仕入価格を下げることはできない。しかし、市場原理による自己の経済活動への影響はどのような営業にも付随するものであり、経済活動を行う者はその市場原理に対応する形で、創意工夫を伴った営業を継続させていくことができないとまではいえないことから、職業選択それ自体に対する客観規制とはいえず、人格的利益への毀損の程度は大きいとはいえない。
したがって、被告の反論は妥当である。
3 規制目的について
(1)被告の反論
本件法律は、本件法律は外国からの輸入を規制し,その生産物の価格の安定を図り、もって国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るものであるところ、積極目的規制であることため、原告の判断枠組みは妥当せず、広範な立法裁量が妥当することから合理性の基準で決すべきである。
(2) 私見
営業の自由については、社会的相互関連性が強く規制の要請が強いことは否めない。そして、積極目的規制であれば、それを達成する手段は複数考えられることから、立法府の裁量に委ねるべきである。したがって、合理性の基準で決すべきである。
本件法律の目的は、国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るものであるが、国民経済の円満な発展という政策遂行目的達成のための規制であることから、それを達成する目的は複数考えられるため、どの手段が最適であるか裁判所が判断すべきではない。
したがって、目的が正当で手段が著しく不合理である、といえなければ合憲である。
4 個別的具体的検討
(1) 被告の反論
本件法律の目的は,国際的競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図る点にあり、積極国家たる日本において、社会経済政策に対する立法を行うことは正当なものといえる。
(2)私見
国家が市場に介入すべきか否かについては、採用する政治的立場によって変化するものであることから、裁判所がどの政治的立場が正当であるかを決定することはできないため、裁判所としては、国民が議会へ送り込んだ国会議員の判断を尊重すべきである。したがって、経済政策の立法目的は議会を通過したものであるから正当なものといえる。
また、手段については、外国からの輸入を規制すれば、国内でのその生産物の供給が抑えられるため、価格の安定を図ることができ、もって、国内産業の保護につながるため、手段が著しく不合理であるとはいえない。
5 立法行為の違憲性国賠
(1) 被告の反論
仮に、本件法律が違憲であったとしても、議員には自由闊達な議論を経て立法をするその立法過程の性質上広い立法裁量があることから、違憲な立法をすることはただちには国家賠償法上の違法を導くことはない。
(2) 私見
国会議員の立法行為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。もっとも、立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合は,例外的に,国会議員の立法行為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法となる。
本件では前述の通り、本件法律は合憲であるから、立法行為が違憲違法となることはない。
よって、本件立法行為は違法とは言えず、Xの請求は認められない。
以上
「解説もあるんですけど、それは別の場で」とかもったいぶるな死ね調子乗るな、という声が聞こえてきたので解説も掲載します。
こんな考え方もあるんだなー、とかこの程度の考え方で司法試験は受かるんだなー、とか何かしら皆さんの勉強の参考になったら幸いです。
要望があればあと何問か作ります。
要望はコメント欄かTwitterまで。
昭和56年旧司法試験第1問改題
Aバス会社は,バスの運転手としてXを採用するか否かを決定するに当たり,Xの交通違反及び交通事故の前歴を調査することとし,犯罪歴に関する記録を保管するY官庁に対し,公的機関のもっている情報は,国民に広く利用させるべきであるとの理由により,Xの右前歴を教示するよう求めたところ、Y官庁はXの交通違反及び交通事故の犯罪歴情報をAバス会社に対し開示した。その結果、Xに交通事故の前歴が1件存在したことから、A会社は、Xの採用を見送った。
〔設問1〕 あなたがXの相談を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして、その訴訟において、あなたが訴訟代理人として行う憲法上の主張を述べなさい。
〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、被告側の反論を想定しつつ、述べなさい。
解説
1.総論
本問の参考判例として前科紹介事件があげられますが、直接妥当するものなのかしっかり考えなければなりません。関連問題としてメーガン法に関する問題があげられますが、それとは類型は質的に異なります。
2.訴訟提起
まずは、訴訟提起から確認していきましょう。今回の原告はXで被告はYですね。ここでA社とした方もいるようですが、情報公開の主体はあくまでYなので、被告はYとするのが適切です。訴訟提起としては、国家賠償請求です。
なお、A社に何らかの訴訟提起をできるかというと、A社とXとの間では何ら契約関係は存在しないことから、XがA社に対して契約を結ぶことを義務付けるような訴訟をすることは、契約自由の原則からできません。また、A社が情報開示請求をしたことにつき、損害賠償請求をすることも考えられますが、これが認められてしまうと、情報開示請求に委縮効果が生じ、十分な知る権利を確保することができなくなってしまう可能性があるので、プライバシー権侵害の帰責点は開示を要求した側ではなく、情報を保有していてそれを開示した側に認めるべき問題なのかなと思います。
3.憲法上の権利の制約
次に、憲法上の権利の制約です。今回は、Xの前歴情報が公開されたという事件ですが、前歴情報の公開が憲法上の何の権利を制約しているのかしっかりと認定する必要があります。
前科紹介事件では、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と論じており、前科等がみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益というものを、認めています。確かに憲法論を論じているわけではありませんが、その後の住基ネット事件において「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される」と、個人に関する情報をみだりに公開されない自由を憲法13条で保障する旨を確認しました。前科前歴情報も個人に関する情報にあたるのは当然ですから、やはり憲法13条によって保障されると考えれば十分でしょう。
今回は、Xの前歴情報という個人に関する情報がA社という第三者に開示されているわけですから、Xのプライバシー権を制約していることは認定できますね。
ここで、プライバシー権と明言はしていいのか、迷う人もいると思いますが、考え方の整理からすると、プライバシー権というものが憲法13条によって保障されており、その中の一つに個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由が含まれていると考えれば、プライバシー権の制約と表現しても間違いはなさそうです。また、前科紹介事件の伊藤正巳補足意見でも「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。」と論じており、学説や下級審判決でプライバシーという言葉を使っているので、答案上表現してもかまわないと思います。
4. 判断枠組み
判断枠組みの構築で意識すべきことは、当該憲法上の権利の制約がどの程度強いものなのかを、個別的事案から少し離れて観察することです。じゃあ、個別的事案から少し離れて観察するって、具体的にどういうこと?と思いますが、ここが非常に難しいです。今回の事案も離れる距離としては、①プライバシー権を制約する場面、②前科情報というプライバシー権を制約する場面、③前科情報というプライバシー権を公開という態様で制約する場面、④交通違反という前科情報というプライバシー権を一つの会社に対して開示するという態様で制約する場面・・・と憲法上の権利の制約を観察する距離はいくらでも詰めることもできるし、離れることもできます。どの位置から観察すればいいのか、それは今までも議論されてきたことだし、これからも議論されることだと思いますので、ここで解決するには僕なんかでは力不足にもほどがあります。じゃあいったいどうしろと?なにもしようがないのではないか?という疑問をもつと思います。ここで、視点を示してくれるのは判例です。判例がどの程度の距離をとって憲法上の権利の制約について観察しているのかを分析することで、観察のための距離をつかむことができるので、やはりここでも判例分析が重要なわけですね。前科紹介事件を見てみましょう。
違法性審査の判断枠具みの構築の場面において、「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」としています。この判断枠組みの構築に至った理由は、直前の「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。」という文脈からです。前科等のある者につき、前科等が公開されない自由があり、それが公開される場面においては、上記判断枠組みが妥当するという理屈になるわけですね
まず、判例はどのような前科であるか否かを具体化しておらず、あくまで前科情報に一般化して判断枠組構築のための考慮要素としています。
加えて、前科は人の名誉信用に直接かかわる事項であり、それが公開されることによって生じる不利益から、判断枠組みを構築していると分析できます。そして、不利益の程度についてそこまで具体的に考慮しているわけではありません(例えば、当該前科情報の公開によって社会的評価が一定程度低下したとか、ただし弁護人がそのような主張をしなかったという可能性もあるので不利益の程度はどこまで考慮すべきなのか議論はあると思います。)ですから、三段階審査風にいうと、①前科は人の名誉信用に直接かかわる事項であり、②それを公開すると、その人の名誉信用に直接影響することになるため、重要な権利に対する強力な制限といえる。という流れで判断枠組みを構築していくといいのではないかと思われます。
じゃあ、判断枠組みとして何を選択するか?という疑問がわくと思いますが、判例はかなり事案に迫った判断枠組みを構築しているので、これをそのまま覚えて吐き出すことはできません。そこで、3種類のやり方が考えられます。
①上級者向け
あくまで、判例をはしごして答案を書きたいという上級者の方は、上記判断枠組みの判例の射程を広げることをしましょう。具体的には、上記判断枠組みの内容を一段抽象化するという作業です。上記判断枠組みは「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができる」とあるわけですから、要約すると①公正な裁判の実現という目的のため、②実現のため、具体的には立証のために他に手段がないような場合に関してのみ、前科を回答することは許される、というものです。これを抽象化する作業を行いましょう。まず、①公正な裁判の実現というのは憲法31条に基づく非常に重要な目的ですから、例えばやむにやまれぬ利益実現のため、という形で抽象化できます。続いて、手段については、②他に手段がないような場合とあるので、まさにLRAってやつですから、目的を達成するために他に手段がないような場合と、抽象化できます。それに加えて、同判例は個別的具体的検討の部分で、「このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である」とありますが、「犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告すること」をやってはいけないことと言っており、逆に犯罪の種類や軽重を考えて最小限度の範囲内で公開していれば問題がなかった、ということも考えられます。
そこで、この個別的具体的検討の部分から逆算して「目的達成のために必要最小限度の範囲内でのみ公開が許される」という判断枠組みも構築することが可能です。
したがって、上記をまとめると、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。という判断枠組みが完成します。
一見判断枠組みがなさそうな判例であったとしても、あてはめや、判断枠組みっぽいところを丁寧に読むと、上記判断枠組みを抽出できることを理解していただけたでしょうか?もっとも、この作業は非常に難しく、何度も判例を読み込むという訓練が必要ですので、マスターしたい方は判例を読む際に上記のような視点でもって、読み込んでみてください。それが一番勉強になりますしおすすめします。
②上級者以外の方
①の手法が理想とはいっても、なかなか難しいし、ロー入試や予備試験には到底間に合わねーよと文句がある方は、単に目的手段審査を駆使してやっていくことも問題はないです。
目的手段審査についてですが、法令審査にしか妥当しない考え方だ!とかいう言説が流布しているようにも思えますが、目的手段審査というのは単に国家は最も経済合理的な手段を取るべき義務があると言っているだけであり、法令審査にしか妥当しない考え方では決してありません。現に上記①の過程を経て出てきた判断枠組みは、ほとんど目的手段審査と同じですよね。てことで、芦部先生が構築した目的手段審査の枠組みを端的に判断枠組みとして導入するということをしていただいでも間違いにはなりません。
※なお、公開がみだりになされたら違法で、そうでなければ適法という理屈なのか、みだりに公開されない自由というものがあって、みだりに公開されない自由の制約があったとしても、判断枠組みで示したような違法性阻却事由があれば、適法になるのか、どちらの思考方法で判断しているのかは読み取れませんが、どちらにせよ判断枠組みに変わりはないので、気にしなくていいでしょう。
5 個別的具体的検討
上記判断枠組みのところでいろいろ言っていましたが、上記判断枠組みの定立は何のためにやっていたかというと、より適切な個別的具体的検討を行うことができるようにするためです。つまり、判断枠組みは個別的具体的検討を行うための手段にすぎないわけですね。ですから、判断枠組みのところはさらっと考えて、個別的具体的検討のところを必死に考えることが肝要だと思います。答案例でかなり厚く論じましたので、詳細は答案例で確認してください。
答案例
第1 設問1
1訴訟選択
Xは、Yに対し、国家賠償請求に基づく損害賠償請求(国家賠償法1条)を提起し、その違法性の主張の中で憲法上の主張を行う。
2 憲法上の権利の制約
Xは、Yによって、自己の交通事故の前歴が、Aバス会社に開示されている。
憲法13条はプライバシー権を保障しているところ、自己の情報をみだりに公開されない権利が、プライバシー権として保障される。
本件では、交通事故の前歴は、自己の過去に犯した前歴情報であり、自己の情報であることから、それを公開されることによって、Xのプライバシー権が制約される。
3 判断枠組み
プライバシー権の保障根拠は、私生活上の平穏を保護するところにある。そして、自己の前歴を開示されてしまえば、それによって、就職において不利に扱われたり、社会生活を営む上で、前歴者としてのまなざしを受け、非常に大きな事実上の不利益を生じさせるおそれが強くなる。したがって、前歴の公開は、私生活上の平穏を著しく害するものといえる。
したがって、前歴の公開は原則として違憲であり、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
4 個別的具体的検討
Aバス会社に、Xの前歴を公開することは、それによってAバス会社の雇用における判断要素を増加させる程度の利益しか生じさせず、個人の生命を保護したり、社会全体の安全を保護するというような利益を得られるわけではないため、当該情報の公開がやむにやまれぬ利益の実現のためとはいえない。仮にやむにやまれぬ利益のためにあたるとしても、交通事故を減らし個人の生命の保護を実現するのであれば、バス会社の雇用段階ではなく、バスの運転免許の取得手続きや更新手続きを厳格にする方がより、目的達成のために資することとなるため、その実現のためにほかの手段がないとはいえない。さらに、前歴の公開によってAバス会社の雇用の判断要素自己の交通事故の前科前歴情報をAバス会社に公開されてしまうと、XはAバス会社から雇用される機会を奪われ、もって、Xの職業選択の自由の制約にもつながりうる程の不利益を生じさせるのであるから、この具体的に生じる不利益に照らして、Xの前歴の公開には必要最小限度の範囲を逸脱している。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
第2 設問2
1 憲法上の権利の制約について
(1)被告の反論
前科前歴は公的情報であり、私的情報ではないから、これを公表されない自由はプライバシー権として保障されないとの反論が想定される。
(2)私見
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
したがって、被告の反論は失当である。
2 判断枠組み
(1) 被告の反論
前科前歴が私的情報にあたるとしても、公的情報としての性質を有するのであるから、一定程度保障される必要性は低下する。したがって、Xのプライバシー権の制約の程度は小さいため、情報公開の必要性があり、それが相当の範囲に留まっていれば違法性が阻却されるとの反論が想定される。
(2) 私見
前科前例は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、その秘密の保護の必要性は非常に高い。そうだとすれば、前科前歴情報の公開が許されるためには、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
3 個別的具体的検討
(1) 被告の反論
①Aバス会社は契約自由の原則のもと、雇用相手の情報を十分に知る権利を有する。そうだとすれば、本件のXの前歴の公開はAバス会社の契約自由の原則を資することとなり、もってAバス会社の営業の自由を十分に保障するものであるから、情報の公開は、憲法上の権利の保護というやむにやまれぬ利益のために行われたといえる。②前科情報の公開は公的機関であるY官庁にしかできないのであるから、他の手段があるとはいえない。③前科前歴の公開の範囲はAバス会社のみに限られており、他の不特定多数者に公開されているわけではないため、Xの前歴の公開によって生じる不利益の程度は大きくないため、必要最小限度の範囲に限って公開している。④さらに、YはAバス会社に交通事故の前科前歴に限って公開しており、他の前科前歴については公開していないのであるから、必要最小限度の範囲に限って公開している。
以上、上記3つの被告の反論が想定される。
(2) 私見
ア ①②について
営業の自由は憲法22条1項により保障されているところ、誰を雇うかを決定する自由は、営業の自由として保障される。しかし、誰を雇うかを決定するための情報収集をする権利に関しては、あらゆる範囲において情報収集を認めてしまうと、企業側の雇用リスクを極端に低減させるものとなり、大企業優位の経済公序を構成することとなるが、このような経済公序を憲法は想定しておらず、一定程度の範囲に限られる。具体的には、他者の権利を侵害してまでも営業の自由のために情報収集をする権利は保障されない。したがって、Aバス会社の営業の自由を保障するためという目的は、やむにやまれぬ利益のために行われたものとはいえない。したがって、①の反論は失当である。そして、目的がやむにやまれぬ利益のためでない以上、実現のための代替手段を考慮することは無意味であるから、②の反論も失当である。
イ ③について
確かに、情報の公開の範囲はAバス会社に限られるが、前科の公開によって生じる不利益の程度は、公開される範囲のみによって決まるといった単純なものではなく、自己が知られたくない人に自己の情報を知られてしまえば、それによって十分プライバシー権は制約されたといえる。そして、Xが、Aバス会社に、交通事故の前科前歴を知られてしまえば、雇用されないリスクが非常に高まるのであるから、Aバス会社には絶対に知られたくない情報であったといえる。したがって、公開の範囲がAバス会社に限られていたとしても、Xのプライバシー権は十分制約されているのであり、本件前歴の公開によって生じる不利益の程度は非常に大きい。
ウ ④について
確かに、本件公開された前歴は、交通事故違反に限られているため、必要最小限度の範囲に留まる。しかし、前記の通り、公開の目的がやむにやまれぬ利益のためのものではないことから、必要最小限度の範囲に留まったとしても、合憲とはならない。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
以上
こんな考え方もあるんだなー、とかこの程度の考え方で司法試験は受かるんだなー、とか何かしら皆さんの勉強の参考になったら幸いです。
要望があればあと何問か作ります。
要望はコメント欄かTwitterまで。
昭和56年旧司法試験第1問改題
Aバス会社は,バスの運転手としてXを採用するか否かを決定するに当たり,Xの交通違反及び交通事故の前歴を調査することとし,犯罪歴に関する記録を保管するY官庁に対し,公的機関のもっている情報は,国民に広く利用させるべきであるとの理由により,Xの右前歴を教示するよう求めたところ、Y官庁はXの交通違反及び交通事故の犯罪歴情報をAバス会社に対し開示した。その結果、Xに交通事故の前歴が1件存在したことから、A会社は、Xの採用を見送った。
〔設問1〕 あなたがXの相談を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして、その訴訟において、あなたが訴訟代理人として行う憲法上の主張を述べなさい。
〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、被告側の反論を想定しつつ、述べなさい。
解説
1.総論
本問の参考判例として前科紹介事件があげられますが、直接妥当するものなのかしっかり考えなければなりません。関連問題としてメーガン法に関する問題があげられますが、それとは類型は質的に異なります。
2.訴訟提起
まずは、訴訟提起から確認していきましょう。今回の原告はXで被告はYですね。ここでA社とした方もいるようですが、情報公開の主体はあくまでYなので、被告はYとするのが適切です。訴訟提起としては、国家賠償請求です。
なお、A社に何らかの訴訟提起をできるかというと、A社とXとの間では何ら契約関係は存在しないことから、XがA社に対して契約を結ぶことを義務付けるような訴訟をすることは、契約自由の原則からできません。また、A社が情報開示請求をしたことにつき、損害賠償請求をすることも考えられますが、これが認められてしまうと、情報開示請求に委縮効果が生じ、十分な知る権利を確保することができなくなってしまう可能性があるので、プライバシー権侵害の帰責点は開示を要求した側ではなく、情報を保有していてそれを開示した側に認めるべき問題なのかなと思います。
3.憲法上の権利の制約
次に、憲法上の権利の制約です。今回は、Xの前歴情報が公開されたという事件ですが、前歴情報の公開が憲法上の何の権利を制約しているのかしっかりと認定する必要があります。
前科紹介事件では、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と論じており、前科等がみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益というものを、認めています。確かに憲法論を論じているわけではありませんが、その後の住基ネット事件において「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される」と、個人に関する情報をみだりに公開されない自由を憲法13条で保障する旨を確認しました。前科前歴情報も個人に関する情報にあたるのは当然ですから、やはり憲法13条によって保障されると考えれば十分でしょう。
今回は、Xの前歴情報という個人に関する情報がA社という第三者に開示されているわけですから、Xのプライバシー権を制約していることは認定できますね。
ここで、プライバシー権と明言はしていいのか、迷う人もいると思いますが、考え方の整理からすると、プライバシー権というものが憲法13条によって保障されており、その中の一つに個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由が含まれていると考えれば、プライバシー権の制約と表現しても間違いはなさそうです。また、前科紹介事件の伊藤正巳補足意見でも「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。」と論じており、学説や下級審判決でプライバシーという言葉を使っているので、答案上表現してもかまわないと思います。
4. 判断枠組み
判断枠組みの構築で意識すべきことは、当該憲法上の権利の制約がどの程度強いものなのかを、個別的事案から少し離れて観察することです。じゃあ、個別的事案から少し離れて観察するって、具体的にどういうこと?と思いますが、ここが非常に難しいです。今回の事案も離れる距離としては、①プライバシー権を制約する場面、②前科情報というプライバシー権を制約する場面、③前科情報というプライバシー権を公開という態様で制約する場面、④交通違反という前科情報というプライバシー権を一つの会社に対して開示するという態様で制約する場面・・・と憲法上の権利の制約を観察する距離はいくらでも詰めることもできるし、離れることもできます。どの位置から観察すればいいのか、それは今までも議論されてきたことだし、これからも議論されることだと思いますので、ここで解決するには僕なんかでは力不足にもほどがあります。じゃあいったいどうしろと?なにもしようがないのではないか?という疑問をもつと思います。ここで、視点を示してくれるのは判例です。判例がどの程度の距離をとって憲法上の権利の制約について観察しているのかを分析することで、観察のための距離をつかむことができるので、やはりここでも判例分析が重要なわけですね。前科紹介事件を見てみましょう。
違法性審査の判断枠具みの構築の場面において、「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」としています。この判断枠組みの構築に至った理由は、直前の「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。」という文脈からです。前科等のある者につき、前科等が公開されない自由があり、それが公開される場面においては、上記判断枠組みが妥当するという理屈になるわけですね
まず、判例はどのような前科であるか否かを具体化しておらず、あくまで前科情報に一般化して判断枠組構築のための考慮要素としています。
加えて、前科は人の名誉信用に直接かかわる事項であり、それが公開されることによって生じる不利益から、判断枠組みを構築していると分析できます。そして、不利益の程度についてそこまで具体的に考慮しているわけではありません(例えば、当該前科情報の公開によって社会的評価が一定程度低下したとか、ただし弁護人がそのような主張をしなかったという可能性もあるので不利益の程度はどこまで考慮すべきなのか議論はあると思います。)ですから、三段階審査風にいうと、①前科は人の名誉信用に直接かかわる事項であり、②それを公開すると、その人の名誉信用に直接影響することになるため、重要な権利に対する強力な制限といえる。という流れで判断枠組みを構築していくといいのではないかと思われます。
じゃあ、判断枠組みとして何を選択するか?という疑問がわくと思いますが、判例はかなり事案に迫った判断枠組みを構築しているので、これをそのまま覚えて吐き出すことはできません。そこで、3種類のやり方が考えられます。
①上級者向け
あくまで、判例をはしごして答案を書きたいという上級者の方は、上記判断枠組みの判例の射程を広げることをしましょう。具体的には、上記判断枠組みの内容を一段抽象化するという作業です。上記判断枠組みは「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができる」とあるわけですから、要約すると①公正な裁判の実現という目的のため、②実現のため、具体的には立証のために他に手段がないような場合に関してのみ、前科を回答することは許される、というものです。これを抽象化する作業を行いましょう。まず、①公正な裁判の実現というのは憲法31条に基づく非常に重要な目的ですから、例えばやむにやまれぬ利益実現のため、という形で抽象化できます。続いて、手段については、②他に手段がないような場合とあるので、まさにLRAってやつですから、目的を達成するために他に手段がないような場合と、抽象化できます。それに加えて、同判例は個別的具体的検討の部分で、「このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である」とありますが、「犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告すること」をやってはいけないことと言っており、逆に犯罪の種類や軽重を考えて最小限度の範囲内で公開していれば問題がなかった、ということも考えられます。
そこで、この個別的具体的検討の部分から逆算して「目的達成のために必要最小限度の範囲内でのみ公開が許される」という判断枠組みも構築することが可能です。
したがって、上記をまとめると、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。という判断枠組みが完成します。
一見判断枠組みがなさそうな判例であったとしても、あてはめや、判断枠組みっぽいところを丁寧に読むと、上記判断枠組みを抽出できることを理解していただけたでしょうか?もっとも、この作業は非常に難しく、何度も判例を読み込むという訓練が必要ですので、マスターしたい方は判例を読む際に上記のような視点でもって、読み込んでみてください。それが一番勉強になりますしおすすめします。
②上級者以外の方
①の手法が理想とはいっても、なかなか難しいし、ロー入試や予備試験には到底間に合わねーよと文句がある方は、単に目的手段審査を駆使してやっていくことも問題はないです。
目的手段審査についてですが、法令審査にしか妥当しない考え方だ!とかいう言説が流布しているようにも思えますが、目的手段審査というのは単に国家は最も経済合理的な手段を取るべき義務があると言っているだけであり、法令審査にしか妥当しない考え方では決してありません。現に上記①の過程を経て出てきた判断枠組みは、ほとんど目的手段審査と同じですよね。てことで、芦部先生が構築した目的手段審査の枠組みを端的に判断枠組みとして導入するということをしていただいでも間違いにはなりません。
※なお、公開がみだりになされたら違法で、そうでなければ適法という理屈なのか、みだりに公開されない自由というものがあって、みだりに公開されない自由の制約があったとしても、判断枠組みで示したような違法性阻却事由があれば、適法になるのか、どちらの思考方法で判断しているのかは読み取れませんが、どちらにせよ判断枠組みに変わりはないので、気にしなくていいでしょう。
5 個別的具体的検討
上記判断枠組みのところでいろいろ言っていましたが、上記判断枠組みの定立は何のためにやっていたかというと、より適切な個別的具体的検討を行うことができるようにするためです。つまり、判断枠組みは個別的具体的検討を行うための手段にすぎないわけですね。ですから、判断枠組みのところはさらっと考えて、個別的具体的検討のところを必死に考えることが肝要だと思います。答案例でかなり厚く論じましたので、詳細は答案例で確認してください。
答案例
第1 設問1
1訴訟選択
Xは、Yに対し、国家賠償請求に基づく損害賠償請求(国家賠償法1条)を提起し、その違法性の主張の中で憲法上の主張を行う。
2 憲法上の権利の制約
Xは、Yによって、自己の交通事故の前歴が、Aバス会社に開示されている。
憲法13条はプライバシー権を保障しているところ、自己の情報をみだりに公開されない権利が、プライバシー権として保障される。
本件では、交通事故の前歴は、自己の過去に犯した前歴情報であり、自己の情報であることから、それを公開されることによって、Xのプライバシー権が制約される。
3 判断枠組み
プライバシー権の保障根拠は、私生活上の平穏を保護するところにある。そして、自己の前歴を開示されてしまえば、それによって、就職において不利に扱われたり、社会生活を営む上で、前歴者としてのまなざしを受け、非常に大きな事実上の不利益を生じさせるおそれが強くなる。したがって、前歴の公開は、私生活上の平穏を著しく害するものといえる。
したがって、前歴の公開は原則として違憲であり、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
4 個別的具体的検討
Aバス会社に、Xの前歴を公開することは、それによってAバス会社の雇用における判断要素を増加させる程度の利益しか生じさせず、個人の生命を保護したり、社会全体の安全を保護するというような利益を得られるわけではないため、当該情報の公開がやむにやまれぬ利益の実現のためとはいえない。仮にやむにやまれぬ利益のためにあたるとしても、交通事故を減らし個人の生命の保護を実現するのであれば、バス会社の雇用段階ではなく、バスの運転免許の取得手続きや更新手続きを厳格にする方がより、目的達成のために資することとなるため、その実現のためにほかの手段がないとはいえない。さらに、前歴の公開によってAバス会社の雇用の判断要素自己の交通事故の前科前歴情報をAバス会社に公開されてしまうと、XはAバス会社から雇用される機会を奪われ、もって、Xの職業選択の自由の制約にもつながりうる程の不利益を生じさせるのであるから、この具体的に生じる不利益に照らして、Xの前歴の公開には必要最小限度の範囲を逸脱している。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
第2 設問2
1 憲法上の権利の制約について
(1)被告の反論
前科前歴は公的情報であり、私的情報ではないから、これを公表されない自由はプライバシー権として保障されないとの反論が想定される。
(2)私見
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
したがって、被告の反論は失当である。
2 判断枠組み
(1) 被告の反論
前科前歴が私的情報にあたるとしても、公的情報としての性質を有するのであるから、一定程度保障される必要性は低下する。したがって、Xのプライバシー権の制約の程度は小さいため、情報公開の必要性があり、それが相当の範囲に留まっていれば違法性が阻却されるとの反論が想定される。
(2) 私見
前科前例は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、その秘密の保護の必要性は非常に高い。そうだとすれば、前科前歴情報の公開が許されるためには、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
3 個別的具体的検討
(1) 被告の反論
①Aバス会社は契約自由の原則のもと、雇用相手の情報を十分に知る権利を有する。そうだとすれば、本件のXの前歴の公開はAバス会社の契約自由の原則を資することとなり、もってAバス会社の営業の自由を十分に保障するものであるから、情報の公開は、憲法上の権利の保護というやむにやまれぬ利益のために行われたといえる。②前科情報の公開は公的機関であるY官庁にしかできないのであるから、他の手段があるとはいえない。③前科前歴の公開の範囲はAバス会社のみに限られており、他の不特定多数者に公開されているわけではないため、Xの前歴の公開によって生じる不利益の程度は大きくないため、必要最小限度の範囲に限って公開している。④さらに、YはAバス会社に交通事故の前科前歴に限って公開しており、他の前科前歴については公開していないのであるから、必要最小限度の範囲に限って公開している。
以上、上記3つの被告の反論が想定される。
(2) 私見
ア ①②について
営業の自由は憲法22条1項により保障されているところ、誰を雇うかを決定する自由は、営業の自由として保障される。しかし、誰を雇うかを決定するための情報収集をする権利に関しては、あらゆる範囲において情報収集を認めてしまうと、企業側の雇用リスクを極端に低減させるものとなり、大企業優位の経済公序を構成することとなるが、このような経済公序を憲法は想定しておらず、一定程度の範囲に限られる。具体的には、他者の権利を侵害してまでも営業の自由のために情報収集をする権利は保障されない。したがって、Aバス会社の営業の自由を保障するためという目的は、やむにやまれぬ利益のために行われたものとはいえない。したがって、①の反論は失当である。そして、目的がやむにやまれぬ利益のためでない以上、実現のための代替手段を考慮することは無意味であるから、②の反論も失当である。
イ ③について
確かに、情報の公開の範囲はAバス会社に限られるが、前科の公開によって生じる不利益の程度は、公開される範囲のみによって決まるといった単純なものではなく、自己が知られたくない人に自己の情報を知られてしまえば、それによって十分プライバシー権は制約されたといえる。そして、Xが、Aバス会社に、交通事故の前科前歴を知られてしまえば、雇用されないリスクが非常に高まるのであるから、Aバス会社には絶対に知られたくない情報であったといえる。したがって、公開の範囲がAバス会社に限られていたとしても、Xのプライバシー権は十分制約されているのであり、本件前歴の公開によって生じる不利益の程度は非常に大きい。
ウ ④について
確かに、本件公開された前歴は、交通事故違反に限られているため、必要最小限度の範囲に留まる。しかし、前記の通り、公開の目的がやむにやまれぬ利益のためのものではないことから、必要最小限度の範囲に留まったとしても、合憲とはならない。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
以上
お久しぶりです。
元気に修習やっています。
全然更新していないのにもかかわらず、毎日一定数の方がブログを見てくれているらしく、ありがたいです。
さて、こんな質問がありました。
①「各権利の重要性や保護範囲、制約の有無・程度についての記述が豊富でまとまっている基本書等はないでしょうか?
芦部には記述されていたり、いなかったりするので…」
②「次に、憲法の問題集として良いものはないでしょうか?(一応、旧司はやりましたがいわゆる「個別具体的な検討」の勉強をしたいので詳しく事例が載っていて分析しながら解けるものでオススメはありますか?)」
③「最後に私は判例と駒村連載ベースで答案を書いているのですが、学者によって言うことが違うので自分が間違えているかもという不安があります。絶対的正解はないとは思うのですが、憲法の実力をつけるために何か参考にすべきものやアドバイスはありますか?」
以下各質問を検討していきます。
①に関する疑問が出てくるのは時代が時代なんですかね。
人権パターンとか三段階審査とか裁量論とかそういった大上段からの書き方ではなく、人権の各論的知識を重視する傾向にあるんですね。事案に即した検討がより重視されているということでとてもいいことだと思います。
僕も、この疑問は受験生時代に抱きました。
もっとも保障根拠とかが簡潔にまとまっている、なかなかいい書籍ってないんですよね。
そこらへんは判例→芦部→佐藤→長谷部→新基本法コンメンタールという流れで参照していた記憶があります。
また、司法試験が終わった後の後輩の受験指導期間中に、具体的に司法試験の答案でどう書くか?という意識で保障根拠とか定義とかを判例を中心に、基本書をサブにしてまとめたりしました。
この司法試験の答案でどう書くか?ということを考えることは、③の答えにもなってくるのだと思います。
参考までに私が作成した憲法13条のまとめの一部を載せておきます。
1.憲法13条 幸福追求権
(1) プライバシー権
ア プライバシー権総説
定義:ⅰ私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利(「宴のあと」)
ⅱ他者が保有している自己に関する情報の開示を請求し、外部利用や第三者利用を拒否する権利(自己情報コントロール権利)
保障根拠:私生活への介入の排除により、個人の私生活領域の保護する
イ 憲法上の権利の制約
制約態様は①プライバシー情報公開過程②プライバシー情報の収集過程の二態様が考えられる。
(ア) ①プライバシー情報の公開過程
●前科照会事件
「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」
論証例
「本件では、前科の公表がなされている。
【原告側の主張】
個人情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由はプライバシー権の一つとして憲法13条により保障される。
そして、前科はそれが公開されれば平穏な社会的生活を営むことが困難となる情報であり、個人情報といえる。したがって、前科の公表は個人情報をみだりに公開されない自由を制約する。
【被告側の反論】
前科は公的情報であることから、これを公表されない自由はないとの反論が想定される。
【私見】
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
よって、被告の反論は失当である。」
●宴の後事件
「私事をみだりに公開されないという保障が、今日のマスコミュニケーションの発達した社会では個人の尊厳を保ち幸福の追求を保障するうえにおいて必要不可欠なものであるとみられるに至っていることと合わせ考えるならば、その尊重はもはや単に倫理的に要請されるに留まらず、不法な侵害に対しては法的救済が与えられるまでに高められた人格的利益であると考えるのが正当であり、それはいわゆる人格権に包摂されるものではあるけれども、なおこれを一つの権利と呼ぶことを妨げるものではないと解するのが相当である。・・・プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容がⅰ私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄であること、ⅱ一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、還元すれば、一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められる事柄であること、ⅲ一般の人々にいまだ知られていない事柄であることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする」
論証例
「個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法上保護される。
そこで、ⅰ私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄で、ⅱ一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄である、ⅲ一般の人々にいまだ知られていない事柄で一般人の感受性を基準にすれば公開を欲しない事項であれば、個人の私生活領域にある事項といえるので、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。」
●住基ネット判決
「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。←保護範囲
そこで,住基ネットが被上告人らの上記の自由を侵害するものであるか否かについて検討するに,住基ネットによって管理,利用等される本人確認情報は,氏名,生年月日,性別及び住所から成る4情報に,住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,変更情報も,転入,転出等の異動事由,異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので,これらはいずれも,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。これらの情報は,住基ネットが導入される以前から,住民票の記載事項として,住民基本台帳を保管する各市町村において管理,利用等されるとともに,法令に基づき必要に応じて他の行政機関等に提供され,その事務処理に利用されてきたものである。そして,住民票コードは,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等を目的として,都道府県知事が無作為に指定した数列の中から市町村長が一を選んで各人に割り当てたものであるから,上記目的に利用される限りにおいては,その秘匿性の程度は本人確認情報と異なるものではない。←権利の重要性
また,前記確定事実によれば,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等は,法令等の根拠に基づき,住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」←制約がないことを認定
論証例
本件住基ネットにより、氏名,生年月日,性別及び住所から成る4情報が管理利用されるに至っている。
個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条により保障される。
この4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないものの、個人の生活領域を保護するという趣旨からすれば、単個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないとしても、自己の望まない他者にこれを開示される場合には、個人の私生活領域が害されるといえる。したがって、上記4情報がみだりに第三者に開示又は公表されない自由はプライバシー権として保障される。
もっとも、住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はなく、受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできないことからすれば、4情報がみだりに第三者に開示又は公表されない自由の制約は認められない。
(イ) ②プライバシー情報の収集過程
●京都府学連事件
「憲法13条は「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由として、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」
論証例
「本件では警察官がAの姿態を撮影している。
個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権たるプライバシー権が憲法13条によって保障される。そして、個人の容貌がみだりに撮影されれば、その私生活領域は乱される。そこで、みだりに容貌を撮影されない自由はプライバシー権として保障される。
したがって、上記姿態の撮影によりAはみだりに要望を撮影されない自由を制約されている。」
※公開・開示がなされない場合でも問題となるので注意
●早稲田江沢民事件
「氏名、住所など「本件個人情報は大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。・・・しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
「このようなプライバシーに係る情報は、取り扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。」
論証例
「本件では、特定者の氏名住所等の情報が警察への開示のために収集されている。
【原告側の主張】
自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法13条により保障されるところ、個人情報をみだりに収集されない自由は、同権利の一つとして保障される。
本件では、氏名住所等という個人情報が収集されているため、個人情報をみだりに収集されない自由を制約しているといえる。
【被告側の反論】
①個人情報を収集される時点では、何ら不利益を生じさせないのであり、個人情報をみだりに収集されない自由はプライバシー権として保障されない。また、②個人情報は秘匿されるべき必要性が肯定されるもののみが対象となるのであって、氏名住所等という単純情報は個人情報として保護されない。
【私見】
①情報の収集段階においては、個人の私生活を害する具体的危険が存在しないことから、個人情報をみだりに収集されない自由はプライバシー権として保障されない。もっとも、当該収集目的が開示にあるのであれば、個人情報をみだりに公開されない自由に対する侵害の危険性が顕在化しているといえることから、公開されない自由についての制約については認められると考える。
②個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法13条により保障される。
そして、氏名住所等は単純情報であるため、プライバシー権としてこれを開示されない自由は保障されないようにも思えるが、個人の生活領域を保護するという趣旨からすれば、単純情報ではあっても、自己の望まない他者にこれを開示される場合には、個人の私生活領域が害されるといえる。したがって、氏名住所等の単純情報であっても、これを自己の望まない者に開示されない自由はプライバシー権として保障される。」
※問題となった場面は情報収集過程ではあるものの、判例は情報公開のおそれからプライバシー権の制約を認めている点に注意。
ウ 判断枠組み(正当化論証)
(ア) 法令審査
プライバシー権侵害の法令が問題となった事案があまり存在せず[1]、法令審査においては、学説を頼りに判断せざるを得ない状況であるため、プライバシー権の権威である佐藤幸治先生の見解を紹介する。
個人情報は、①個人の道徳的自律の存在に直接関わる情報と、②個人の道徳的自律に直接関わらない個別的情報とに区別される。前者は「プライバシー固有情報」と呼ばれ、政治的・宗教的信条に関わる情報、心身に関する基本情報、犯罪歴に関わる情報等がこれに当たる。
後者は「プライバシー外延情報」と呼ばれ、税に関する情報や単純な情報がこれに含まれる。
前者のプライバシー固有情報は要保護性が高いことから、権利の重要性が高い。一方、後者のプライバシー外延情報は要保護性がそれほど高くなく、権利の重要性は低い。
前科照会事件の伊藤補足意見においては、「前科等は、個人のプライバシーの内でも最も他人に知られたくないものの一つであり」と認定しており、前科がみだりに公開されない権利は非常に重要な権利であると評価している。一方で、早稲田江沢民事件においては、「本件個人情報は、・・・単純情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。」としており、学籍番号、氏名、住所、および電話番号を開示されない自由は秘匿性が低いことから要保護性は低いと認定している。
このように判例を見てみると上記学説は判例と整合性が保てているであろう。
(イ) 処分審査
●京都府学連
「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性が有り、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を以って行われるとき」に許容される。
※刑訴の任意処分の限界と同様の枠組みであることに留意
● 前科照会事件(不法行為類型)
「市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏洩してはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して解答を得るのでなければ、他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき解答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱には格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」
伊藤正巳補足意見
「公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。」
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的な感じです。
参考にしてみてください。
あ、論証例はあくまで判例・学説の理解を促進する手段としてまとめることに意義があって、覚えることには何ら意義がないのでそこはしっかりと意識してくださいね。
②については、実は旧司法試験でも十分個別的具体的検討の勉強はできたりします。
私も旧司法試験は愛用してました。
もっとも、予備試験、司法試験みたいに主張反論形式に改題してから問題を解くようにしていました。
上で、プライバシー権関係のまとめを挙げたので、以下に、プライバシー権関係の問題の改題及び解答例を掲載します。(解説もあるんですけど、それは別の場で)
解答例を見ていただければ、この程度の長さの問題であったとしても、個別的具体的な検討の練習を行うことは十分可能であることがわかります。
個別的具体的検討の問題は、要は問題文に記載されている事実からどれだけ想像を膨らまして考えることができるかという問題なので、問題文の長さとかはそこまで関係ないのかなと思います。
昭和56年旧司法試験第1問改題
Aバス会社は,バスの運転手としてXを採用するか否かを決定するに当たり,Xの交通違反及び交通事故の前歴を調査することとし,犯罪歴に関する記録を保管するY官庁に対し,公的機関のもっている情報は,国民に広く利用させるべきであるとの理由により,Xの右前歴を教示するよう求めたところ、Y官庁はXの交通違反及び交通事故の犯罪歴情報をAバス会社に対し開示した。その結果、Xに交通事故の前歴が1件存在したことから、A会社は、Xの採用を見送った。
〔設問1〕 あなたがXの相談を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして、その訴訟において、あなたが訴訟代理人として行う憲法上の主張を述べなさい。
〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、被告側の反論を想定しつつ、述べなさい。
解答例
第1 設問1
1訴訟選択
Xは、Yに対し、国家賠償請求に基づく損害賠償請求(国家賠償法1条)を提起し、その違法性の主張の中で憲法上の主張を行う。
2 憲法上の権利の制約
Xは、Yによって、自己の交通事故の前歴が、Aバス会社に開示されている。
憲法13条はプライバシー権を保障しているところ、自己の情報をみだりに公開されない権利が、プライバシー権として保障される。
本件では、交通事故の前歴は、自己の過去に犯した前歴情報であり、自己の情報であることから、それを公開されることによって、Xのプライバシー権が制約される。
3 判断枠組み
プライバシー権の保障根拠は、私生活上の平穏を保護するところにある。そして、自己の前歴を開示されてしまえば、それによって、就職において不利に扱われたり、社会生活を営む上で、前歴者としてのまなざしを受け、非常に大きな事実上の不利益を生じさせるおそれが強くなる。したがって、前歴の公開は、私生活上の平穏を著しく害するものといえる。
したがって、前歴の公開は原則として違憲であり、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
4 個別的具体的検討
Aバス会社に、Xの前歴を公開することは、それによってAバス会社の雇用における判断要素を増加させる程度の利益しか生じさせず、個人の生命を保護したり、社会全体の安全を保護するというような利益を得られるわけではないため、当該情報の公開がやむにやまれぬ利益の実現のためとはいえない。仮にやむにやまれぬ利益のためにあたるとしても、交通事故を減らし個人の生命の保護を実現するのであれば、バス会社の雇用段階ではなく、バスの運転免許の取得手続きや更新手続きを厳格にする方がより、目的達成のために資することとなるため、その実現のためにほかの手段がないとはいえない。さらに、前歴の公開によってAバス会社の雇用の判断要素自己の交通事故の前科前歴情報をAバス会社に公開されてしまうと、XはAバス会社から雇用される機会を奪われ、もって、Xの職業選択の自由の制約にもつながりうる程の不利益を生じさせるのであるから、この具体的に生じる不利益に照らして、Xの前歴の公開には必要最小限度の範囲を逸脱している。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
第2 設問2
1 憲法上の権利の制約について
(1)被告の反論
前科前歴は公的情報であり、私的情報ではないから、これを公表されない自由はプライバシー権として保障されないとの反論が想定される。
(2)私見
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
したがって、被告の反論は失当である。
2 判断枠組み
(1) 被告の反論
前科前歴が私的情報にあたるとしても、公的情報としての性質を有するのであるから、一定程度保障される必要性は低下する。したがって、Xのプライバシー権の制約の程度は小さいため、情報公開の必要性があり、それが相当の範囲に留まっていれば違法性が阻却されるとの反論が想定される。
(2) 私見
前科前例は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、その秘密の保護の必要性は非常に高い。そうだとすれば、前科前歴情報の公開が許されるためには、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
3 個別的具体的検討
(1) 被告の反論
①Aバス会社は契約自由の原則のもと、雇用相手の情報を十分に知る権利を有する。そうだとすれば、本件のXの前歴の公開はAバス会社の契約自由の原則を資することとなり、もってAバス会社の営業の自由を十分に保障するものであるから、情報の公開は、憲法上の権利の保護というやむにやまれぬ利益のために行われたといえる。②前科情報の公開は公的機関であるY官庁にしかできないのであるから、他の手段があるとはいえない。③前科前歴の公開の範囲はAバス会社のみに限られており、他の不特定多数者に公開されているわけではないため、Xの前歴の公開によって生じる不利益の程度は大きくないため、必要最小限度の範囲に限って公開している。④さらに、YはAバス会社に交通事故の前科前歴に限って公開しており、他の前科前歴については公開していないのであるから、必要最小限度の範囲に限って公開している。
以上、上記3つの被告の反論が想定される。
(2) 私見
ア ①②について
営業の自由は憲法22条1項により保障されているところ、誰を雇うかを決定する自由は、営業の自由として保障される。しかし、誰を雇うかを決定するための情報収集をする権利に関しては、あらゆる範囲において情報収集を認めてしまうと、企業側の雇用リスクを極端に低減させるものとなり、大企業優位の経済公序を構成することとなるが、経済公序を憲法は想定しておらず、一定程度の範囲に限られる。具体的には、他者の権利を侵害してまでも営業の自由のために情報収集をする権利は保障されない。したがって、Aバス会社の営業の自由を保障するためという目的は、やむにやまれぬ利益のために行われたものとはいえない。したがって、①の反論は失当である。そして、目的がやむにやまれぬ利益のためでない以上、実現のための代替手段を考慮することは無意味であるから、②の反論も失当である。
イ ③について
確かに、情報の公開の範囲はAバス会社に限られるが、前科の公開によって生じる不利益の程度は、公開される範囲のみによって決まるといった単純なものではなく、自己が知られたくない人に自己の情報を知られてしまえば、それによって十分プライバシー権は制約されたといえる。そして、Xが、Aバス会社に、交通事故の前科前歴を知られてしまえば、雇用されないリスクが非常に高まるのであるから、Aバス会社には絶対に知られたくない情報であったといえる。したがって、公開の範囲がAバス会社に限られていたとしても、Xのプライバシー権は十分制約されているのであり、本件前歴の公開によって生じる不利益の程度は非常に大きい。
ウ ④について
確かに、本件公開された前歴は、交通事故違反に限られているため、必要最小限度の範囲に留まる。しかし、前記の通り、公開の目的がやむにやまれぬ利益のためのものではないことから、必要最小限度の範囲に留まったとしても、合憲とはならない。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
とはいえ、旧司法試験の解説解答に関してはあまり良質なものが出回っていないという難点があります。
自分で上記のことをやるのが不安という方には、新司法試験をラノベ風に解説し、解答例もついている(公知の事実)大島義則「憲法ガール」をお勧めします。
新司法試験に手を付けるのは少し早いかも・・・という方には小山他「判例から考える憲法」をお勧めします。ただ、「判例から考える憲法」は、問題毎のクオリティにかなり差があるので、そこは気を付けて使用する必要があります。
以上久々のブログ更新でした。
司法修習は、自分の出来の悪さを痛感したり、毎日勉強することばかりで大変な面もありますが、非常に充実した毎日を過ごせておりとても楽しいです。
是非司法試験を合格した暁には全力で司法修習楽しみましょう(貸与制とかいろいろ問題はありますが・・・)。
元気に修習やっています。
全然更新していないのにもかかわらず、毎日一定数の方がブログを見てくれているらしく、ありがたいです。
さて、こんな質問がありました。
①「各権利の重要性や保護範囲、制約の有無・程度についての記述が豊富でまとまっている基本書等はないでしょうか?
芦部には記述されていたり、いなかったりするので…」
②「次に、憲法の問題集として良いものはないでしょうか?(一応、旧司はやりましたがいわゆる「個別具体的な検討」の勉強をしたいので詳しく事例が載っていて分析しながら解けるものでオススメはありますか?)」
③「最後に私は判例と駒村連載ベースで答案を書いているのですが、学者によって言うことが違うので自分が間違えているかもという不安があります。絶対的正解はないとは思うのですが、憲法の実力をつけるために何か参考にすべきものやアドバイスはありますか?」
以下各質問を検討していきます。
①に関する疑問が出てくるのは時代が時代なんですかね。
人権パターンとか三段階審査とか裁量論とかそういった大上段からの書き方ではなく、人権の各論的知識を重視する傾向にあるんですね。事案に即した検討がより重視されているということでとてもいいことだと思います。
僕も、この疑問は受験生時代に抱きました。
もっとも保障根拠とかが簡潔にまとまっている、なかなかいい書籍ってないんですよね。
そこらへんは判例→芦部→佐藤→長谷部→新基本法コンメンタールという流れで参照していた記憶があります。
また、司法試験が終わった後の後輩の受験指導期間中に、具体的に司法試験の答案でどう書くか?という意識で保障根拠とか定義とかを判例を中心に、基本書をサブにしてまとめたりしました。
この司法試験の答案でどう書くか?ということを考えることは、③の答えにもなってくるのだと思います。
参考までに私が作成した憲法13条のまとめの一部を載せておきます。
1.憲法13条 幸福追求権
(1) プライバシー権
ア プライバシー権総説
定義:ⅰ私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利(「宴のあと」)
ⅱ他者が保有している自己に関する情報の開示を請求し、外部利用や第三者利用を拒否する権利(自己情報コントロール権利)
保障根拠:私生活への介入の排除により、個人の私生活領域の保護する
イ 憲法上の権利の制約
制約態様は①プライバシー情報公開過程②プライバシー情報の収集過程の二態様が考えられる。
(ア) ①プライバシー情報の公開過程
●前科照会事件
「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」
論証例
「本件では、前科の公表がなされている。
【原告側の主張】
個人情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由はプライバシー権の一つとして憲法13条により保障される。
そして、前科はそれが公開されれば平穏な社会的生活を営むことが困難となる情報であり、個人情報といえる。したがって、前科の公表は個人情報をみだりに公開されない自由を制約する。
【被告側の反論】
前科は公的情報であることから、これを公表されない自由はないとの反論が想定される。
【私見】
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
よって、被告の反論は失当である。」
●宴の後事件
「私事をみだりに公開されないという保障が、今日のマスコミュニケーションの発達した社会では個人の尊厳を保ち幸福の追求を保障するうえにおいて必要不可欠なものであるとみられるに至っていることと合わせ考えるならば、その尊重はもはや単に倫理的に要請されるに留まらず、不法な侵害に対しては法的救済が与えられるまでに高められた人格的利益であると考えるのが正当であり、それはいわゆる人格権に包摂されるものではあるけれども、なおこれを一つの権利と呼ぶことを妨げるものではないと解するのが相当である。・・・プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容がⅰ私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄であること、ⅱ一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、還元すれば、一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められる事柄であること、ⅲ一般の人々にいまだ知られていない事柄であることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする」
論証例
「個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法上保護される。
そこで、ⅰ私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄で、ⅱ一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄である、ⅲ一般の人々にいまだ知られていない事柄で一般人の感受性を基準にすれば公開を欲しない事項であれば、個人の私生活領域にある事項といえるので、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。」
●住基ネット判決
「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。←保護範囲
そこで,住基ネットが被上告人らの上記の自由を侵害するものであるか否かについて検討するに,住基ネットによって管理,利用等される本人確認情報は,氏名,生年月日,性別及び住所から成る4情報に,住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,変更情報も,転入,転出等の異動事由,異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので,これらはいずれも,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。これらの情報は,住基ネットが導入される以前から,住民票の記載事項として,住民基本台帳を保管する各市町村において管理,利用等されるとともに,法令に基づき必要に応じて他の行政機関等に提供され,その事務処理に利用されてきたものである。そして,住民票コードは,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等を目的として,都道府県知事が無作為に指定した数列の中から市町村長が一を選んで各人に割り当てたものであるから,上記目的に利用される限りにおいては,その秘匿性の程度は本人確認情報と異なるものではない。←権利の重要性
また,前記確定事実によれば,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等は,法令等の根拠に基づき,住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」←制約がないことを認定
論証例
本件住基ネットにより、氏名,生年月日,性別及び住所から成る4情報が管理利用されるに至っている。
個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条により保障される。
この4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないものの、個人の生活領域を保護するという趣旨からすれば、単個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないとしても、自己の望まない他者にこれを開示される場合には、個人の私生活領域が害されるといえる。したがって、上記4情報がみだりに第三者に開示又は公表されない自由はプライバシー権として保障される。
もっとも、住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はなく、受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできないことからすれば、4情報がみだりに第三者に開示又は公表されない自由の制約は認められない。
(イ) ②プライバシー情報の収集過程
●京都府学連事件
「憲法13条は「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由として、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」
論証例
「本件では警察官がAの姿態を撮影している。
個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権たるプライバシー権が憲法13条によって保障される。そして、個人の容貌がみだりに撮影されれば、その私生活領域は乱される。そこで、みだりに容貌を撮影されない自由はプライバシー権として保障される。
したがって、上記姿態の撮影によりAはみだりに要望を撮影されない自由を制約されている。」
※公開・開示がなされない場合でも問題となるので注意
●早稲田江沢民事件
「氏名、住所など「本件個人情報は大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。・・・しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
「このようなプライバシーに係る情報は、取り扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。」
論証例
「本件では、特定者の氏名住所等の情報が警察への開示のために収集されている。
【原告側の主張】
自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法13条により保障されるところ、個人情報をみだりに収集されない自由は、同権利の一つとして保障される。
本件では、氏名住所等という個人情報が収集されているため、個人情報をみだりに収集されない自由を制約しているといえる。
【被告側の反論】
①個人情報を収集される時点では、何ら不利益を生じさせないのであり、個人情報をみだりに収集されない自由はプライバシー権として保障されない。また、②個人情報は秘匿されるべき必要性が肯定されるもののみが対象となるのであって、氏名住所等という単純情報は個人情報として保護されない。
【私見】
①情報の収集段階においては、個人の私生活を害する具体的危険が存在しないことから、個人情報をみだりに収集されない自由はプライバシー権として保障されない。もっとも、当該収集目的が開示にあるのであれば、個人情報をみだりに公開されない自由に対する侵害の危険性が顕在化しているといえることから、公開されない自由についての制約については認められると考える。
②個人の私生活領域を保護する趣旨から、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が憲法13条により保障される。
そして、氏名住所等は単純情報であるため、プライバシー権としてこれを開示されない自由は保障されないようにも思えるが、個人の生活領域を保護するという趣旨からすれば、単純情報ではあっても、自己の望まない他者にこれを開示される場合には、個人の私生活領域が害されるといえる。したがって、氏名住所等の単純情報であっても、これを自己の望まない者に開示されない自由はプライバシー権として保障される。」
※問題となった場面は情報収集過程ではあるものの、判例は情報公開のおそれからプライバシー権の制約を認めている点に注意。
ウ 判断枠組み(正当化論証)
(ア) 法令審査
プライバシー権侵害の法令が問題となった事案があまり存在せず[1]、法令審査においては、学説を頼りに判断せざるを得ない状況であるため、プライバシー権の権威である佐藤幸治先生の見解を紹介する。
個人情報は、①個人の道徳的自律の存在に直接関わる情報と、②個人の道徳的自律に直接関わらない個別的情報とに区別される。前者は「プライバシー固有情報」と呼ばれ、政治的・宗教的信条に関わる情報、心身に関する基本情報、犯罪歴に関わる情報等がこれに当たる。
後者は「プライバシー外延情報」と呼ばれ、税に関する情報や単純な情報がこれに含まれる。
前者のプライバシー固有情報は要保護性が高いことから、権利の重要性が高い。一方、後者のプライバシー外延情報は要保護性がそれほど高くなく、権利の重要性は低い。
前科照会事件の伊藤補足意見においては、「前科等は、個人のプライバシーの内でも最も他人に知られたくないものの一つであり」と認定しており、前科がみだりに公開されない権利は非常に重要な権利であると評価している。一方で、早稲田江沢民事件においては、「本件個人情報は、・・・単純情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。」としており、学籍番号、氏名、住所、および電話番号を開示されない自由は秘匿性が低いことから要保護性は低いと認定している。
このように判例を見てみると上記学説は判例と整合性が保てているであろう。
(イ) 処分審査
●京都府学連
「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性が有り、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を以って行われるとき」に許容される。
※刑訴の任意処分の限界と同様の枠組みであることに留意
● 前科照会事件(不法行為類型)
「市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏洩してはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して解答を得るのでなければ、他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき解答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱には格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」
伊藤正巳補足意見
「公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。」
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的な感じです。
参考にしてみてください。
あ、論証例はあくまで判例・学説の理解を促進する手段としてまとめることに意義があって、覚えることには何ら意義がないのでそこはしっかりと意識してくださいね。
②については、実は旧司法試験でも十分個別的具体的検討の勉強はできたりします。
私も旧司法試験は愛用してました。
もっとも、予備試験、司法試験みたいに主張反論形式に改題してから問題を解くようにしていました。
上で、プライバシー権関係のまとめを挙げたので、以下に、プライバシー権関係の問題の改題及び解答例を掲載します。(解説もあるんですけど、それは別の場で)
解答例を見ていただければ、この程度の長さの問題であったとしても、個別的具体的な検討の練習を行うことは十分可能であることがわかります。
個別的具体的検討の問題は、要は問題文に記載されている事実からどれだけ想像を膨らまして考えることができるかという問題なので、問題文の長さとかはそこまで関係ないのかなと思います。
昭和56年旧司法試験第1問改題
Aバス会社は,バスの運転手としてXを採用するか否かを決定するに当たり,Xの交通違反及び交通事故の前歴を調査することとし,犯罪歴に関する記録を保管するY官庁に対し,公的機関のもっている情報は,国民に広く利用させるべきであるとの理由により,Xの右前歴を教示するよう求めたところ、Y官庁はXの交通違反及び交通事故の犯罪歴情報をAバス会社に対し開示した。その結果、Xに交通事故の前歴が1件存在したことから、A会社は、Xの採用を見送った。
〔設問1〕 あなたがXの相談を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして、その訴訟において、あなたが訴訟代理人として行う憲法上の主張を述べなさい。
〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、被告側の反論を想定しつつ、述べなさい。
解答例
第1 設問1
1訴訟選択
Xは、Yに対し、国家賠償請求に基づく損害賠償請求(国家賠償法1条)を提起し、その違法性の主張の中で憲法上の主張を行う。
2 憲法上の権利の制約
Xは、Yによって、自己の交通事故の前歴が、Aバス会社に開示されている。
憲法13条はプライバシー権を保障しているところ、自己の情報をみだりに公開されない権利が、プライバシー権として保障される。
本件では、交通事故の前歴は、自己の過去に犯した前歴情報であり、自己の情報であることから、それを公開されることによって、Xのプライバシー権が制約される。
3 判断枠組み
プライバシー権の保障根拠は、私生活上の平穏を保護するところにある。そして、自己の前歴を開示されてしまえば、それによって、就職において不利に扱われたり、社会生活を営む上で、前歴者としてのまなざしを受け、非常に大きな事実上の不利益を生じさせるおそれが強くなる。したがって、前歴の公開は、私生活上の平穏を著しく害するものといえる。
したがって、前歴の公開は原則として違憲であり、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
4 個別的具体的検討
Aバス会社に、Xの前歴を公開することは、それによってAバス会社の雇用における判断要素を増加させる程度の利益しか生じさせず、個人の生命を保護したり、社会全体の安全を保護するというような利益を得られるわけではないため、当該情報の公開がやむにやまれぬ利益の実現のためとはいえない。仮にやむにやまれぬ利益のためにあたるとしても、交通事故を減らし個人の生命の保護を実現するのであれば、バス会社の雇用段階ではなく、バスの運転免許の取得手続きや更新手続きを厳格にする方がより、目的達成のために資することとなるため、その実現のためにほかの手段がないとはいえない。さらに、前歴の公開によってAバス会社の雇用の判断要素自己の交通事故の前科前歴情報をAバス会社に公開されてしまうと、XはAバス会社から雇用される機会を奪われ、もって、Xの職業選択の自由の制約にもつながりうる程の不利益を生じさせるのであるから、この具体的に生じる不利益に照らして、Xの前歴の公開には必要最小限度の範囲を逸脱している。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
第2 設問2
1 憲法上の権利の制約について
(1)被告の反論
前科前歴は公的情報であり、私的情報ではないから、これを公表されない自由はプライバシー権として保障されないとの反論が想定される。
(2)私見
そもそも、自己情報コントロール権として個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がプライバシー権の一つとして憲法13条前段により保障されるのは、個人の私生活領域を保護する趣旨にある。
そして、前科のような公的情報であっても、時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない自由はプライバシー権として保護される。
したがって、被告の反論は失当である。
2 判断枠組み
(1) 被告の反論
前科前歴が私的情報にあたるとしても、公的情報としての性質を有するのであるから、一定程度保障される必要性は低下する。したがって、Xのプライバシー権の制約の程度は小さいため、情報公開の必要性があり、それが相当の範囲に留まっていれば違法性が阻却されるとの反論が想定される。
(2) 私見
前科前例は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、その秘密の保護の必要性は非常に高い。そうだとすれば、前科前歴情報の公開が許されるためには、①やむにやまれぬ利益の実現のため、②その実現のために他の手段が存在せず、③かつ、必要最小限度の範囲内である場合に限り、合憲となる。
3 個別的具体的検討
(1) 被告の反論
①Aバス会社は契約自由の原則のもと、雇用相手の情報を十分に知る権利を有する。そうだとすれば、本件のXの前歴の公開はAバス会社の契約自由の原則を資することとなり、もってAバス会社の営業の自由を十分に保障するものであるから、情報の公開は、憲法上の権利の保護というやむにやまれぬ利益のために行われたといえる。②前科情報の公開は公的機関であるY官庁にしかできないのであるから、他の手段があるとはいえない。③前科前歴の公開の範囲はAバス会社のみに限られており、他の不特定多数者に公開されているわけではないため、Xの前歴の公開によって生じる不利益の程度は大きくないため、必要最小限度の範囲に限って公開している。④さらに、YはAバス会社に交通事故の前科前歴に限って公開しており、他の前科前歴については公開していないのであるから、必要最小限度の範囲に限って公開している。
以上、上記3つの被告の反論が想定される。
(2) 私見
ア ①②について
営業の自由は憲法22条1項により保障されているところ、誰を雇うかを決定する自由は、営業の自由として保障される。しかし、誰を雇うかを決定するための情報収集をする権利に関しては、あらゆる範囲において情報収集を認めてしまうと、企業側の雇用リスクを極端に低減させるものとなり、大企業優位の経済公序を構成することとなるが、経済公序を憲法は想定しておらず、一定程度の範囲に限られる。具体的には、他者の権利を侵害してまでも営業の自由のために情報収集をする権利は保障されない。したがって、Aバス会社の営業の自由を保障するためという目的は、やむにやまれぬ利益のために行われたものとはいえない。したがって、①の反論は失当である。そして、目的がやむにやまれぬ利益のためでない以上、実現のための代替手段を考慮することは無意味であるから、②の反論も失当である。
イ ③について
確かに、情報の公開の範囲はAバス会社に限られるが、前科の公開によって生じる不利益の程度は、公開される範囲のみによって決まるといった単純なものではなく、自己が知られたくない人に自己の情報を知られてしまえば、それによって十分プライバシー権は制約されたといえる。そして、Xが、Aバス会社に、交通事故の前科前歴を知られてしまえば、雇用されないリスクが非常に高まるのであるから、Aバス会社には絶対に知られたくない情報であったといえる。したがって、公開の範囲がAバス会社に限られていたとしても、Xのプライバシー権は十分制約されているのであり、本件前歴の公開によって生じる不利益の程度は非常に大きい。
ウ ④について
確かに、本件公開された前歴は、交通事故違反に限られているため、必要最小限度の範囲に留まる。しかし、前記の通り、公開の目的がやむにやまれぬ利益のためのものではないことから、必要最小限度の範囲に留まったとしても、合憲とはならない。
よって、本件前歴の公開は、Xのプライバシー権を侵害するものとして違憲違法である。
とはいえ、旧司法試験の解説解答に関してはあまり良質なものが出回っていないという難点があります。
自分で上記のことをやるのが不安という方には、新司法試験をラノベ風に解説し、解答例もついている(公知の事実)大島義則「憲法ガール」をお勧めします。
新司法試験に手を付けるのは少し早いかも・・・という方には小山他「判例から考える憲法」をお勧めします。ただ、「判例から考える憲法」は、問題毎のクオリティにかなり差があるので、そこは気を付けて使用する必要があります。
以上久々のブログ更新でした。
司法修習は、自分の出来の悪さを痛感したり、毎日勉強することばかりで大変な面もありますが、非常に充実した毎日を過ごせておりとても楽しいです。
是非司法試験を合格した暁には全力で司法修習楽しみましょう(貸与制とかいろいろ問題はありますが・・・)。