松丸元気のあ~ゆう事やそ~ゆう事

松丸元気のあ~ゆう事やそ~ゆう事

仕事の事や映画の事、色々な日常に感じた事をウダウダと書いていきます~

※それなりにネタバレが含みます。

「笑いのカイブツ」

製作年:2023年
製作国:日本
配給:ショウゲート、アニモプロデュース
上映時間:116分
映倫区分:G

◆スタッフ
監督:滝本憲吾
原作:ツチヤタカユキ
脚本:滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
エグゼクティブプロデューサー:成宏基
プロデューサー:前原美野里
撮影:鎌苅洋一
照明:神野宏賢、秋山恵二郎
録音:齋藤泰陽、藤本賢一
美術:安藤秀敏、菊地実幸
装飾:岩井健志
衣装:馬場恭子
ヘアメイク:楮山理恵
編集:村上雅樹
音楽:村山☆潤
助監督:齊藤勇起
制作担当:後藤一郎
宣伝写真:三宅英文

◆キャスト
岡山天音:ツチヤタカユキ
片岡礼子:おかん
松本穂香:ミカコ
前原滉:氏家
板橋駿谷:水木(べーコンズ)
淡梨:前田旺志郎
管勇毅:松角洋平
菅田将暉:ピンク
仲野太賀:西寺(ベーコンズ)

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにし、毎日気が狂うほどにネタを考え続ける。
そんな生活から6年が経った頃、劇場にネタの持ち込みをしたことから、実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。
そんな中、お笑い芸人の「ベーコンズ」の深夜ラジオ番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになり、番組中にベーコンズの西寺から声を掛けられ上京することになるが、ここでもツチヤは周囲との摩擦を起こしてしまう…

以前から気になっていた作品を鑑賞しました。
昨年末に鑑賞した作品のレビューがまだ書ききれてないけど、この作品のパンチが強すぎて、フライングで感想を書いてみましたw

で、感想はと言うと…面白い!
よくぞここまで振り切った!と言う感が強くて、こんな実在の人物が居るのかと言う驚きと多少の脚色があるにしてもフィクションに振り切ってないのなら尚更驚き。
好みが分かれると思うし、万人が楽しめる作品ではないけど、見応えがあり、映画好きの人にはハマるのでないかと。
社交術を身に付いてしまった大人の物差しで図る人には理解出来ない部分が多々あるけど、それを取っ払ってしまうと物凄く純粋で自身の価値観とルールで突っ走るツチヤを共感かつ羨ましく思えてしまう。
でも、汚れてしまった大人の自分にはツチヤの行動は不器用を通り越してワガママにも映るw
「有名になりたいです」と西寺の問いに答えながらもそれに納得出来ないツチヤの行動には“面白いと言うのが絶対の正義だから、それに従わない奴らがおかしい”的な部分も含んでいるようにもと思う。でも“単に有名になりたいのなら無冠の帝王の如く、アマチュアで凄い奴を目指せばいいやん。仕事として業界で有名になりたいと考えるなら周囲との連携があってこその仕事やん”と考えたりもする。
良い意味でツッコミどころの余白があり、その余白に各々の考える価値観が含まれて完成。
映画鑑賞後に観た人と“あ~だこ~だ”と喧々諤々に語れることがこの作品の意図と醍醐味でもあるんでは?と考えるとちょっと凄い作品。

また、そんなツチヤを演じる岡山天音さんがぴったり過ぎ。他にツチヤを演じられる人が見つからないくらいにハマリ役。この時点で作品の成功をハードルを1つ越えてます。
また、ピンク役の菅田将暉さんや西寺役の仲野太賀さんが良い感じなんですよね。
アウトロー的な生き方のツチヤに共感を感じつつも笑いにひたむきなツチヤに憧れを抱き、寄り添えるピンクは何処か観る側の代弁者でもあり、そんなツチヤとの奇妙な友情が良い。そんな菅田将暉さんの好演がキラリと光る。
また、ツチヤの才能を信じつつ、チャンスを与えながらも社会性の薄いツチヤを軌道修正しフォローをする西寺演じる仲野太賀さんがホント良いんですよね。不器用ながらもお笑いに愚鈍なまでのツチヤを可愛がり、そんな西寺にツチヤも心を開らこうとしていく。
こんな人に巡り合えたツチヤは幸せ者ですが、そんな西寺の恩義を感じるからこそ、それに報えないツチヤの葛藤が切ないんですよね。

居酒屋で酔っ払って思いの丈を吐いたツチヤに対して「地獄やな。その地獄で生きていけや」と言うピンクのセリフと駐車場で「お前、このままでは終わらないからな!」と叫ぶ西寺のセリフ。この2つは屈指の名シーン。
あとラストの片岡礼子さん演じるオカンの「1回、死んだんやったら無敵やん」は良いセリフ。
ラストでこの後の無敵になったツチヤに期待を寄せてしまい、そこはかとない光明を感じさせるのが良いんですよね。オカン…やるやんw

全体的にはツチヤの社交術の無さと周囲との軋轢に不一致にズシッとやり切れ無さがのし掛かるんですが結構ツッコミどころもあり、いろんなアルバイトを速攻でクビになってはいるけど、いろんなバイトの面接から採用にまでは行けているツチヤって、入り口の部分ではとりあえず社交性あるんやなとw
また、グダグダに酔っ払った際に地回りのお兄さんから「これで漫喫でも行けや」とお金を差し出されたら「…有難うございます…」と言うセリフで引き下がるのにはちょっと笑ってしまったw
あと、構成作家見習いで入った劇場での盗作疑惑や仲が良くなりかけたトカゲとのその後はフェードアウトなのはちょっと消化不良かな。
大阪に帰ったツチヤの実家に訪ねてくるトカゲのラストで締めって言うのは…ベタですよねw

深夜放送が全盛期にはハガキで投稿する事がちょっとしたブームになっていた時期がありましたが、ラジオは今や縮小傾向気味。2028年にはAM放送が終了してFM放送と統合される事を考えるとラジオ好きには切ない限り。
でも、ラジオと言うメディアは絶対無くならないと思うし、それを支えるリスナーが居るからこそ、次代の構成作家が育つとも考えます。

夢に不器用過ぎるくらい不器用で真っ直ぐで笑いの為なら周囲との摩擦も気にしないツチヤはある意味凄いけど、ここまでやるか…とも思えてしまう。
でも、そんなツチヤタカユキに腹立だしくもあり、切なく、愛おしくもあるんですよね。

「正直者が馬鹿を見る」のお笑いの正直者が馬鹿をとことん追求しまくって、馬鹿の先にあるピリオドの向こうをたどり着こうとする物語。
昨年末の「M-1グランプリ」で漫才指導をした「令和ロマン」が優勝したりしているのを考えるとなんか「持っている」感があるし、これ、2024年の日本アカデミー賞になんらかで絡むのでは?と思うし、絡んで欲しい。
そう思わせるだけのパワーがある作品です。お薦め!
※それなりにネタバレが含みます。

「駒田蒸留所へようこそ」

製作年:2023年
製作国:日本
配給:ギャガ
上映時間:91分
映倫区分:G

◆スタッフ
監督:吉原正行
原作:KOMA復活を願う会
脚本:木澤行人、中本宗応
キャラクター原案:高田友美
キャラクターデザイン:川面恒介
総作画監督:川面恒介
美術監督:竹田悠介
色彩設計:田中美穂
3D監督:市川元成
撮影監督:並木智
編集:高橋歩
音楽:加藤達也
主題歌:駒田琉生(早見沙織)
アニメーション制作:P.A.WORKS

◆キャスト
早見沙織:駒田琉生
小野賢章:高橋光太郎
内田真礼:河端朋子
細谷佳正:安元広志
辻親八:東海林努
鈴村健一:斉藤裕介
堀内賢雄:駒田滉
井上喜久子:駒田澪緒
中村悠一:駒田圭

亡き父の跡を継ぎ、家業である「駒田蒸留所」の社長に就任した駒田琉生は経営難に陥った蒸留所の立て直しを図るが前途は多難。
そんなある日、転職を繰り返してきたニュースサイトの新米記者・高橋光太郎が駒田蒸留所を取材に訪れる。興味の無かったウイスキーに対して、徐々に興味を示していくが踏ん切りのつかない日々にいろんなミスを重ねてしまう。
そんな中、琉生は起死回生の秘策として災害の影響で製造できなくなった幻のウイスキー「KOMA」の復活を実現させるべく奮闘する…

以前から興味のあった作品を出張先で観る機会があり、やっと鑑賞しました。

で、感想はと言うと…面白い!
個人的にウイスキーは大好きで、いろんなウイスキーの蒸留所に足を運んでいるので、こういったウイスキーに纏わる作品は興味津々と言うか、大好き♪
様々な土地のベンチャーウイスキーの蒸留所がモデルにしているのも良く分かるし、物凄く良く調べられている。世界中で注目されるジャパニーズウイスキーでも小規模で製造されているベンチャーウイスキーに焦点を当てられてますが、細かい部分でもきっちりと練り込まれている。
物凄くウイスキー愛に溢れています。

世界五大ウイスキーの1つとして挙げられるジャパニーズウイスキーは近年、サントリーの「山崎」や「白州」、ニッカの「竹鶴」などのブランドウイスキーの価格高騰や中国市場での買い占めが取沙汰されてますが、日本のウイスキー市場の8割近くを占めるのは比較的低価格クラスのウイスキー。
それでも「安かろう悪かろう」ではなく、様々な飲み方にも対応出来つつ、料理との相性も抜群なのは価格を超えた高品質の表れ。
サントリー、ニッカ、キリン等の大規模な企業での製造以外にも小規模で「ベンチャーウイスキー」と称される地ウイスキーは規模こそ小さいけど、ハイクオリティな物も多く、市場に出回りにくい物も多い為、プレミアが付いている物もあります。
ただ、一般流通も殆どしていなく、ウイスキーマニアでないと知らない銘柄も多い中で、様々な土地で蒸留されているウイスキーのお話はウイスキー好きには嬉しい限り♪
柔らかい絵柄に様々なウイスキーの基礎知識が盛り込まれた作風はウイスキー好きでなくても、見応えある作品なのは、流石「お仕事アニメ」を得意とするP.A.WORKSの本領発揮かと思います。

通を唸らせる様々な蘊蓄だけでなく、ウイスキー工程の流れもマル。ベンチャーウイスキーの多くの蒸留所が焼酎やジンを足掛かりにして、ウイスキーの蒸留に着手すると言うのはウイスキーを仕事にしているものには当たり前でも普通は知らない知識。
特に幻のウイスキー「KOMA」の最後の決め手になる「カスクフィニッシュ」には“よくぞここまで!”と膝を叩きたくなる程のウイスキーへの愛を感じます。

また、変に恋愛に片寄らないのも良い。
駒田蒸留所の社長でヒロインの駒田琉生とニュースサイトの記者、高橋光太郎との関係は恋愛に行ってもおかしくないのに、そこに至らなかったことがとても良い。
アニメだからと言う偏見では無いんですが、男女の登場人物がなんでもかんでも恋愛に発展すると言うのはちょっとあざとい感じで個人的に嫌。
“恋愛にうつつ抜かさずにもっと確りとウイスキーについて考えんかい!”と言うオジサンの気持ちをよく御理解頂いてますw

また、シングルモルトではなく、ブレンデッドなのも良い♪
どちらかと言うとシングルモルトとブレンデッドでは価格の違いもある分、シングルモルト>ブレンデッドと言う風潮がありますが、会社規模の経営関係でベンチャーウイスキーの本懐はブレンデッドかなと個人的には思います。
また、ブレンデッドは様々な組み合わせでシングルモルトを上回るようなウイスキーが産まれることもあり、それこそがブレンダーの本領発揮ではないかと思います。

琉生がウイスキーのイメージをイラスト(それもBLテイストw)で表現しているのはご愛嬌w
この辺りがちとアニメ作品っぽいし、何処か「神の雫」的な感じもあるw
けど、そのイラストが海外でウケると言うのは結構伏線回収としては上手いと思います。

ただ、多少なりともツッコミどころが無い訳ではなく、高橋光太郎のイージーなミスはちょっと“…おいおい…”どころの騒ぎではない。校了に際してのミスの確認はし過ぎてもし過ぎないのに、時間が無かったとかはあり得なさ過ぎ。
またウイスキーを樽で熟成保存する「ウェアハウス」の漏電火災は最初光太郎が原因かと思ったw
琉生の兄の駒田圭がライバル企業の社員でありながら、終業後にライバル先のウイスキーの開発に多分に加担するのは実家の家業の手伝いとは言えど、どうなのかとw
“ベンチャーウイスキーの希望でウイスキー好きが待望する「KOMA」の復活になら、喜んでお手伝いしますよ”と言うぐらいのくだりがあればまだ納得出来ていたけど、光太郎のチェックミスで起こしたトラブルを鑑みると…ちょっと難しいわなw

個人的にはもう少し、ベンチャーウイスキーの開発に地元活性化や地元食材とコラボ企画なんかが作中に盛り込まれていると良いのかと思いますが、本筋に変な流れが組み込まれる感じもしなくもないので、悩むところではありますが如何でしょうか?

約1時間半と言う上映時間も観やすいし、かと言って中弛みもない。光太郎の成長物語でもあるけど、琉生の成長物語でもあるし、ベンチャーウイスキーの成長物語でもあるのはいろんな意図が含まれる作品の懐の深さかなと。
とても上質な作品でウイスキーをよく知らない人でも楽しめるし、ウイスキー好きな人ならより一層楽しめる。
ウイスキーをストレートで味わうような重厚さやロックで味わうような変化の妙。また水割りのような飲みやすさやハイボールのような爽快感が味わえる作品!…と言うと…言い過ぎですかねw
でも、とても良い作品なので機会があれば是非鑑賞してい頂きたい作品。お薦めです♪
※それなりにネタバレが含みます。

「コーポ・ア・コーポ」

製作年:2023年
製作国:日本
配給:ギグリーボックス
上映時間:97分
映倫区分:G

◆スタッフ
監督:仁同正明
原作:岩浪れんじ
脚本:近藤一彦
エグゼクティブプロデューサー:吉永敦仁
企画:小岩学、浅井春人
プロデューサー:鈴木剛
協力プロデューサー:森谷雄
ラインプロデューサー:ワダシンスケ
撮影:山本英夫
照明:小野晃
録音:丹雄二
音響効果:丹雄二
美術:小林慎典
衣装メイク:松延沙織
メイク:升水彩香、森麻美子
編集:渡辺直樹
音楽:加藤賢二
音楽プロデューサー:菊地智敦
助監督:小山亮太
VFXプロデューサー:平興史
VFXディレクター:小林敬裕
キャスティング協力:森本友里恵
演技指導:益山貴司
スチール:若本良仁
メイキング:耳井啓明
制作担当:若山直樹

◆キャスト
馬場ふみか:辰巳ユリ
東出昌大:中条紘
倉悠貴:石田鉄平
笹野高史:宮地友三
前田旺志郎:カズオ
北村優衣:高橋
藤原しおり:タバコを交換したがるおばちゃん
片岡礼子:ユリの母親

様々な事情を抱えながら様々な住人が住んでいる、大阪の下町にある安アパート「コーポ」。
ある日、同じくコーポの住人である山口が首を吊って死んでいるのを発見する。
一癖も二癖もありながら、似たような境遇で暮らす人間の死を目の当たりにした住人たちは、それぞれの人生を思い返しながらも日常を淡々と過ごし生活をしていくが…

出張先でたまたま空いた時間に鑑賞しました。
なので前段階での期待も予備知識も全く無し。大阪は西成近くの下町のお話と言うところでなんとなく意欲をそそられたぐらいw

で、感想はと言うと…面白い♪
ちょっと緩い感じのドラマがなんとなく心地好くて、個人的には好きな感じで結構当たりな作品ではないかと。

住人のいきなりの首吊り自殺から始まるスタートはパンチが効いていて先制点としてはバッチリ。
でもそこから何か大きな事件が起こるでもなく、淡々と各々の日常が進んでいく。それがなんか心地好いんですよね。
住人それぞれも一癖も二癖もありそうだけど、別に悪人では無い。何処かいろんな過去に少し振り回されてここにきてはいるがそれに特に悲観も達観もしていない。
なんとなく「それはそれ。コレはコレ」的に日常を受け入れている。
その緩さとなんとなくの温かさに小ネタとテンポの良いセリフが効いている。良いっすね♪

登場人物の住人も良い感じ。
善人ではないけど、悪人ではない。何処か不器用なだけ。でも時折何処か脱線しそうであるけどとりあえず真っ直ぐに生きているw
馬場ふみかさん演じる辰巳ユリと笹野高史さん演じるお爺ちゃんの宮地が個人的に好き。
馬場ふみかさんの辰巳ユリがホントに大阪に居そうなちょっとヤンキー気質の姉ちゃんで会話のテンポが良いんですよね。
マイセンとかショートホープとかにこだわりがありそうでそれでいて行きつけの喫茶店ではオムライスとミックスジュースが好きそうw
不器用だけど真っ直ぐ日雇い労働の倉悠貴さん演じる石田鉄平はホント良い奴♪しんみりと部屋で貧乏酒を飲んだら楽しそうw
ただ、東出昌大さん演じる中条と藤原しおりさん演じるタバコを交換したがるおばちゃんはちょっと脱線感があって、作品の伝えたいことが若干濁るようにも感じなくはない。またこの辺りが何処か「めぞん一刻」感があるんですよね。言うならば大阪西成版めぞん一刻w

また、大阪の西成を舞台にしていても作品的には何処か西成感が薄い。
近年は西成も以前ほどのダーティなイメージは無いけどw、それでもまだまだ治安はそんなによろしくはない。至るところに「覚醒剤売るな!」の看板や「トイレに注射器を流すな」と言った貼り紙が張られていて、初めて行くとかなり面食らうし、正直「ここは日本か?」と思ってしまうくらいにアンダーグラウンド感が強いw
もちろんそんなイメージばかりではなく、一歩抜けると普通の下町の住宅街が広がるし、激安でも抜群に美味くて新鮮なホルモン焼きなどのお店も多数ある。
呑兵衛には愛すべき街ではあるけど、西成を舞台にするのであればもっと外部から感じる西成感を作中に出しても良かったのではないかと。

小ネタも効いていて、セリフ回しのテンポも良い。ユリの何処かスカした様で結局は面倒を見る良い奴感も好きだし、宮地の善人ではない小悪党感も好き♪
上映時間の97分も観やすくて良い。
群像劇ではあるけど固くはないし、最初の首吊り自殺から始まっても死生観を問うような固さもない。
テーマが有るようで無い感じなのが心地好い。
ただ、そこに好みが分かれそうかなと思いますが個人的には好きですね。

終始心地好いほんわさが良くて、なんとなく「晩年は西成に住んでも良いなぁ…」と思ってしまう。
でも、風呂無しトイレ共同(多分)のコーポは…個人的にちょっと嫌かもw

大阪の下町に親近感があって、めぞん一刻が好きな人ならハマるかもw
機会があればちょっと観てほしい作品です♪
※それなりにネタバレが含みます。

「首」

製作年:2023年
製作国:日本
配給:東宝、KADOKAWA
上映時間:131分
映倫区分:R15+

◆スタッフ
監督、原作、脚本:北野武
製作:夏野剛
プロデューサー:福島聡司
ラインプロデューサー:宿崎恵造
撮影監督:浜田毅
照明:高屋齋
録音:高野泰雄
美術:瀬下幸治
装飾:島村篤史
衣装デザイナー:黒澤和子
特殊メイク:江川悦子
特殊造形スーパーバイザー:江川悦子
サウンドデザイナー:柴崎憲治
VFXスーパーバイザー:小坂一順
編集:北野武、太田義則
音楽:岩代太郎
助監督:足立公良
殺陣師:二家本辰己
スクリプター:吉田久美子
キャスティング:椛澤節子
製作担当:根津文紀、村松大輔
能楽監修:観世清和

◆キャスト
ビートたけし:羽柴秀吉
西島秀俊:明智光秀
加瀬亮:織田信長
中村獅童:難波茂助
木村祐一:曽呂利新左衛門
遠藤憲一:荒木村重
勝村政信:斎藤利三
寺島進:般若の佐兵衛
桐谷健太:服部半蔵
浅野忠信:黒田官兵衛
大森南朋:羽柴秀長
六平直政:安国寺恵瓊
大竹まこと:間宮無聊
津田寛治:為三
荒川良々:清水宗治
寛一郎:森蘭丸
副島淳:弥助
小林薫:徳川家康
岸部一徳:千利休

各地で様々な勢力と攻防を繰り広げて、天下統一を目指す織田信長。
そんな中、信長の家臣・荒木村重が謀反を起こして姿を消す。信長は明智光秀や羽柴秀吉ら家臣たちを集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索命令を下す。秀吉は弟・秀長や軍師・黒田官兵衛らとともに策を練り、元忍の芸人・曽呂利新左衛門に村重を探すよう指示。実は秀吉はこの騒動に乗じて信長と光秀を陥れ、自ら天下を獲ろうと狙っていた…

話題の作品を鑑賞しました。

で、感想はと言うと…他の方も言われてますが、…まあ、「アウトレイジ」戦国版w

キャストはとにかく豪華。
これでもかと実力派が連ねていて、端役に近い役でも名の知れた役者が参加しているのは流石世界の北野監督。
西島秀俊さん演じる明智光秀と遠藤憲一演じる荒木村重が衆道だったのに、西島秀俊さんが出演している「きのう何食べた?」と少し照らし合わせてしまったw

とにかく出世や下剋上に取り憑かれた戦国武将達のあの手この手の策略と化かし合い、騙し合いが生々し過ぎる。
戦国武将と言うのはいろんなジャンルでも取り扱われているので些か美化された感があるだけに、本当なら多分こんなもんだろうと言う生々しさが賛否分かれるところ。
加瀬亮さん演じる織田信長が取り扱いの難しい人物と言うのは分かるけど、ヒステリーかつカリスマ性が皆無に見えるように描かれているのはちょっとビックリ。
たけしさん演じる豊臣秀吉も結構恰幅が良いので、史実ではそうなのかもだけど、秀吉は小柄なと言うイメージが強いのでそういった点でも北野節で描かれてますね

誰も良い奴が居ないのが北野監督らしいし、戦国時代の出世争いなんてこんなもんかと思うとリアルっちゃあリアル。
でも、誰も憧れるような存在が居ないと言うのもなんだかな~って感じw
唯一まとも(そう)に見えるのは西島秀俊さん演じる明智光秀ぐらい。ただこの時代、正直者が馬鹿を見るではないがまともに受け取ると寝首をかかれることは日常茶飯事なのでより狂っている方が上に上がっていけると言う狂気の沙汰がまかり通っているだけに誰もが一癖も二癖も持っている。今の政治の世界の探り合いどころではないだけに、確かに北野監督の本領発揮のジャンルかと思いますね。
所々にアドリブの掛け合いがあり、アウトレイジほど重々しくないからこそ、小ネタを挟み込めるバランスが良い。北野武では重く描くところにビールたけしで出演している妙があるのかと思います。

冒頭初っぱなから首の無い死体が川に横たわっていると言うオープニングからぶちかましてくるのが如何にも北野作品っぽい。
信長が本能寺で死を迎え、明智光秀が討ち取られるまでの流れは有名なのでここにブレは無いのは安心して観ていられる。
いろんなエピソードが伏線と小ネタ的に盛り込まれていて飽きいが観る側にも緊張を突きつけられるのでちょっと疲れる。

政治の世界にヤクザ社会を盛り込んだような戦国絵巻は正直、華々しさは皆無。
面白いかと言えば面白いけど、笑える要素はかなりのブラックジョークで下品と言えば下品だし、下世話と下世話。
でも常に緊張感の中に身をおきながら、良い意味でも悪い意味でも「明日は我が身」であれば開き直りもするし、何気ない仕草や初動がいとおかしに感じるところもあるかと。
夜中に気の置けない仲間とダラダラと他愛もない話をしながら酒を飲んでる時に、なんか妙にツボにハマる時の笑いに近いのかなとw

確実に観る人を選ぶし、多分子供の時には観ても全く刺さらない、ある意味大人の作品。
北野作品が好きな人と戦国合戦を斜に構えて観れる人には合っているのではないかと思いますw
※それなりにネタバレが含みます。

「理想郷」

原題:As bestas
製作年:2022年
製作国:スペイン・フランス合作
配給:アンプラグド
上映時間:138分
映倫区分:G

◆スタッフ
監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
製作:トマ・ピバロ、アン=ロール・ラバディ、ジャン・ラバディ、ロドリゴ・ソロゴイェン、ナチョ・ラビージャ、エドゥアルド・ビジャヌエバ、サンドラ・タピア、イグナジ・エスタペ、イボン・コメンサナ
製作総指揮:サンドラ・タピア
脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン、イサベル・ペーニャ
撮影:アレハンドロ・デ・パブロ
美術:ホセ・ティラド
衣装:パオラ・トレス
編集:アルベルト・デル・カンポ
音楽:オリビエ・アルソン

◆キャスト
ドゥニ・メノーシェ:アントワーヌ
マリナ・フォイス:オルガ
ルイス・サエラ:シャン
ディエゴ・アニード:ロレンソ
マリー・コロン:マリー

フランス人夫婦のアントワーヌとオルガはスローライフを求めてスペインの山岳地帯にある小さな村に移住する。しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、穏やかとは言えない生活を送っていた。
そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトが持ち上がり、村人の大半は賛成するがアントワーヌ達は反対し、それが切っ掛けとなり、村人と対立し、隣人の兄弟は新参者の夫婦を嫌い、彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく…

テレビの映画コーナーで紹介されてから気になっていた作品をやっと鑑賞しました。

で、感想はと言うと…モヤモヤ~w
煮え切らないしスカされるしとなかなか鬱憤が貯まる作品w
良い部分も多分にあるけど、何故こうなった?何故こうした?何故こうしなかった?と言うのがいろいろと出てくる作品です。

定年後に田舎に引っ越して念願の田舎暮らしと言うのは日本でもよく聞きますが、田舎暮らしが思ったよりもハードと理想と現実の違いに愕然としてあえなく都会に戻ると言うのはよくある話と聞きますが、実は田舎暮らしの独特のルールと近隣住民とのお付き合いによるトラブルで揉めるのが原因の3割らしい。
個人的には都会が大好きで綺麗な水洗トイレに慣れきった身の上では水洗でなく和式のトイレはすんごく嫌。それだけで多分なストレスになりますw

作中のアントワーヌとオルガは田舎暮らしにはなんの文句もないけど、アントワーヌを最初から小馬鹿にしている近隣住民とのトラブルでのストレスが100%の原因でそこに来たばかりの時に村に風力発電の話を反対したのが決定的なドドメとなってる。
最初はアントワーヌと粗暴なシャンとロレンソのお隣さん兄弟にアントワーヌ側の味方の心境だったけど、中盤での話し合いの中でなんとなくシャン兄弟の気持ちも分からなくないと言う感じになってきた。
産業もなく、貧乏が慢性的な村にゆりかごから墓場までを全うすることが当たり前のような住人にとっては、風力発電の建設の話は振って沸いたようなタナボタ話。
慢性ビンボーの身の上なら景観が壊れるなんて知ったこっちゃ無いと言うのもなんとなく分かります。
そこに引っ越してきたばかりのご新規さんが俺にも権利がある!とばかりに権利を主張して、反対となったとあればそりゃあ怒るわなと。
村の長年の状況を踏まえず、理想論を振りかざして、反対を唱える。それも自分達が理解出来ないような理論にインテリぶった感じになったら、そりゃあムカつきもしますわなとw
最初と最後はアントワーヌ側であっても、中盤の酒場の話し合いのシーンではシャン兄弟側の心境も理解出来る。このシーンって意外と作中でも重要かつ屈指のシーンだと思います。

あと、この作品って結構長回しのシーンが多いんですよね。長回しは役者泣かせかと思いますが、役の心境や気持ちの流れや空気感が際立つので、この作品でも空気感や緊迫感が秀逸に感じます。

ただ、正直…どうなの?と思うくらいの肩透かしが多数。
アントワーヌの煮え切らないし態度は観ていて“やっておしまい!”と思いつつも“やらんのかい!”とツッコミ大盛りw
元教師であったとしても、立派な体格は喧嘩でも負けそうにないのにハートはチキン野郎。結局アントワーヌの煮え切らないし態度が悲劇を生んだと言うのが1割くらいはありそう。
また、妻のオルガが最初は“村を出ましょう”とアントワーヌに諭すのに、アントワーヌが行方不明になってからの村への固執が心情描写が微妙なんですよね。それがどうも分かり難くて、オルガがなんか良からぬことを企んでいるのでは?もしくは黒幕だったのか?と勘繰ってしまう。
それに至るのに地元警察の煮え切らないし態度に“お前らもグルか?”と感じてしまうから余計にタチが悪いw

なんか無意味なセクシーショット(娘のマリーは良いがアントワーヌのはホントに意味が分からんヽ(`Д´)ノ)もあるし、飼い犬のティタンは人(犬)が良いのか、番犬感が薄い。でもティタンの性格って、アントワーヌとよく似ていると思ったら結構納得w

肝心なシーンが省かれていたりして、アントワーヌやシャン兄弟、オルガやマリーが何故そこに至ったのか?と言うのがバッサリ。
変にBGMが盛り上がって“何かあるのか?”とドキドキしても特に何にも起こらなかったり、ラストの締め方もなんか中途半端で“…えっ?これで終わり!?”とスカッと感が薄い。
まあ、ある意味フランス映画らしいとも言えますが、ちょっと丸投げ感が強い。
役を全うしたのはホント、終始小悪党のシャン一家といつまでも煮え切らない態度の地元警察官ぐらいでしょうかw
あと、二部構成とありますが、オルガ編はかなり付け足し感が強いです。

シャン兄弟とアントワーヌとの和解の糸口的なのはなんとなくちらほらあったようにも思えるけど、結局は双方の主張が互いに理解出来ないことに終着。
あと、一歩踏み込んで互いを理解出来たら?
あと、一歩踏み込んで先を見通して行動出来てたら?
アントワーヌは態度では無く、話し合いで解決を試みるんやったら、もっと確りとそうせんかい!と思えるし、オルガも捜索するのならもっとちゃっちゃとやらんかい!とモヤモヤ~

理想郷はあくまでも理想とするからであって、その地は理想とは限らないのは分かる。
でもそんな哲学的解釈は置いといても、もうちょっと確りと描いて欲しかったなぁ~と個人的には感じます。