レポート:佐部利 典彦(作家)
4月8、9、10と2013年に行う2回目の東北元気アート(ギャッペ)の下見のために、昨年活動を行った
早朝6時半に小田原を車で出発し、大槌の宿舎に着いたのは午後8時過ぎでした。
やっぱり遠いなと実感しながらも遠い道のりにも少し慣れてきたような気がしました。
早速、昨年お世話になった方々と再会し、その後の町の様子やお互いの近況などの話で盛り上がりました。
御自身も被災され、昨年は会場の設営、撤去作業等を手伝って下さり、コンサートやワークショップに参加された方からうれしいお話を聞きました。
「昨年のすどう美術館の活動がなければ、一生、アートなんかに触れることも、興味をもつこともなかったでしょう。コンサートはとても胸を打たれたし、油絵制作は没頭してしまった。自分で制作した油絵作品は仮設住宅の玄関に、すどう美術館からプレゼントでもらった作品は、ワンルームの居間に大事に飾ってあります。仮設の家の壁に何もないのと絵があるのとでは部屋の感じが全く違います」と。
このお話を聞いて我々が「そうなるといいなあ」と思っていたそのもののことだったので、活動の方向性はよかったのだと確信することができたし、素直に嬉しかったです。
私は出会いの時からその人のことが気になって、ずっと見ていました。
はじめは「ワークショップも絵を観ることもコンサートも手伝いはするけど興味はないので参加はしません」と言われていました。
それでも毎日、会場に様子を見に来てくれてそのうちに「ワークショップやってみようかな」「コンサート、すごくよかった」と言われるようになり、最後には油絵に没頭され、コンサートに涙し、絵も何度も繰り返し、観られていました。
私はアートに触れたことで、興味をもたれたのは事実だと思いますが、それとともに、カチンコチンに固まっていた彼の心を、ほんの少しだけれどほぐすことができたのではないかと思いました。
作品やワークショップ、演奏だけではなく、
また、やはり昨年お世話になった役場の職員の方ともお会いしました。
当時は青白い顔で、夜も眠れず、疲れ切った感じで私達はとても心配していましたが、今回お会いして、顔に生気が戻り、表情もあかるくなられた気がしました。
新しい家族ができたり、生活の基盤は一応整って、復興のきざしがみえてきている実感がもてているのだと思いました。
会う人、会う人が少し、明るく、活気がもてているいるような感じを受けました。
そして東北大震災直後からずっとボランティア活動を支え、我々も宿泊をさせて頂いたカリタスの皆さんからもボランティアやNPO,町の人たちの状況について話をうかがいました。
瓦礫の撤去や写真洗浄などの作業は終わり、土地の造成や公営住宅の建設が決まってきたのとともに、ボランティアの活動は心のケアの方に移ってきているということでした。
具体的にはお茶のみ友達として仮設住宅を訪問し、悩みを聞いたり、楽しいことを話したりする通称「おちゃっこ」が活動の中心になっているとのことでした。
お茶を飲みながら、悩みを聞いて、共感したり、時には、アドバイスをしたりするということは、誰にでもできそうで、なかなか難しいことです。
カウンセラーではないので、トラブルが起こることもあるそうです。心のケアは単純ではないのです。
様々な立場の人の話を聞いている中で、被災者もボランティアも行政もNPOも、東北の人も東北以外から来ている人も、とにかく一人一人の状況や思惑が複雑で色々ありすぎて、方向性をまとめていくことは至難の業だと感じました。だけれどもそこにストレスもあり、喜びもあり、復興の鍵もあるような気がしてなりません。
瓦礫がなくなって何かを整理された感じにはなるのですが、同時に途方もなく、混乱している感じももたされます。
そんな中で、今回の訪問で、ここからは、より音楽や美術が必要とされてくるのだと確信しました。
実際、音楽の催しものは、多く企画されており、一年前より、参加者が増えてきているということでした。
家族や町の復興のために必死に頑張り続けていく中で、楽しんだり、休息したいという気持ちにもなるでしょう。
文化を楽しめる場所は町にはまだまだありません。
気持ちが豊かになる催しは、やはり音楽や美術といったものに違いないでしょう。
楽しみを提供するという観点で考えると、人と豊かな時間や場所を共有することであれば、個人や少人数のチームでも様々なことを企画することができるでしょう。
自分のできる楽しいことを準備し、東北にいくことで貢献できることがあると思います。
ようやく我々一人一人が何か貢献できる時期になっていると思います。
より一人一人の個性や興味を出し合いながらギャッペの活動を充実したものにできたらよいのではと考えています。
また、続けていくことも必要だと思います。
そして、多くの人とつながりながら活動をしていくと地域にアートが根付くのだと思います。
ギャッペの活動は東北にとってこれからますます必要で重要な活動になります。
東北での活動で感じる、人の強さ、もろさ、命の尊さ、はかなさ、大切さ、生かされていることの感謝、人とのつながりのうれしさなど、眼に見えないそれらは、私の中に入り込み、私の大事な部分になっています。
この感覚に素直に私はギャッペの活動に参加していきたいと思っています。