(昨日からのつづき)

1.最高裁のメッセージ

昨日、紹介した最高裁判決には、メッセージがあるように思う。

まず、債権放棄の議決が許される場合の判断要素の一つとして、①当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響が挙げられている。

そして、債権の発生原因については、「違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等」を問題とし、経緯及び影響については、「不法な利益」「不当な利得」を問題としている。


さらに、神戸市の人件費違法支出事件の方では市長の過失を否定している。(雑に言えば、先述の「帰責性」と「過失」とはほぼ同意義であることにも留意が必要)


債権放棄の際の考慮事項が「違法事由の性格」「帰責性」「不法な利益」「不法な利得」そして、当該事案における市長の「過失の否定」。これらのキーワードからは、


形式的に(少し)法律・条例違反があっても実質的に(大して)悪くない場合には債権放棄を認める。実質的にも悪い場合には債権放棄を認めない。というメッセージであり、さらにはちょっとしたミスで揚げ足を取るようなくだらない裁判を起こすなというメッセージではなかろうか。


思うに、実質的に債権者(主に首長など)が悪い場合においてまで議会与党派との馴れ合いの債権放棄は許されないが、他方、複雑多岐にわたる行政の事務を一歩間違えれば多額の賠償責任を負うのは酷である。


最高裁の判断は、債権の発生原因に着目し、その両者を分かつ点において正当であろう。特に、千葉裁判官の補足意見がその悩みを見せるとともに、他の制度(国家賠償法の求償権(1条2項))を参考に立法的解決を示唆している。


2.過失

先述の通り、最高裁は市長の過失を否定した。過失は結果回避義務違反をいうが、結果回避義務は予見可能性を前提とする。

正直に言うと、ヤミ休暇事件において元市長・田村氏に予見可能性があったかは疑問もなくはない。(まぁ、もう和解してしまっていますけどね・・・)


3.千葉裁判官補足意見

千葉裁判官は、債権放棄議決が、住民訴訟制度の機能を否定する目的でされたと認められる場合はそれだけで議会の裁量逸脱・濫用になるとする。その例として、

①長の損害賠償責任を認める裁判所の判断自体が法的に誤りであることを議会として宣言することを議決の理由とする場合

②選挙で選ばれた長の個人責任を追及すること自体が不当であるとして議決をしたような場合


さすがに、議会場ではこの手の発言はありませんでしたが、色々な人が言っていた気もする・・・


さらに、同裁判官の意見では、議会は「単なる政治的・党派的判断ないし温情的判断のみで処理することなく、その逸脱・濫用とならないように、(中略)肝に銘じておくべきである。」としている。


和解議案(債権放棄も含む)の賛成意見を述べた3人のうち、2人の意見は、当てはまるか、あるいは近いように思われます。法廷意見ではなく一裁判官の意見ですが、反省・注意しましょう!


PS23日にも最高裁の判決が出ました。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120423184236.pdf