一昨日の秋祭りにより、昨日は筋肉痛や腰痛になやまされましたが、今日は痛みはまったくなく自分の体の若さを自負しております!(最近、また太りましたがヘルスメーターでの体年齢は20代をかろうじて保っています)


今日のブログは「議会の債権放棄」の話ですから、ちょっぴりマニアックかもしれません。興味のない方は読み飛ばしてください。


神戸市に情報公開請求していた文書(一週間以上前に公開決定した旨の連絡をいただいていた)を取りに行ってきました。今年になってから3、9月と議会の債権放棄に対する大阪高裁の判断がくだりましたが、その判決文です。(大阪高裁に連絡しましたが、閲覧はできるがコピーできないとのことでしたので神戸市に情報公開請求をして入手することにしました)


おそらくはと繰り返し明言しますが、高砂市の「ヤミ休暇問題」「ヤミ退職金問題」について、そう遠くはない将来に、高砂市議会は(その一部の!?)債権放棄の判断を迫られることになると思われます。


もちろん、神戸市の事件と高砂市の事件は事案を異にします。しかし、住民訴訟によりはじまった事件の債権が議会による債権放棄により終わろうとしたところ、その債権放棄に対し司法判断があり、かつその司法判断が2VS2で分かれているのですから興味をそそられますし、研究しておくことは今後の高砂市議会の債権放棄の判断に際し、有用だと思われます。債権放棄を迫られた時は既に最高裁判決が出ているかもしれませんが・・・・・、否、それまで債権放棄を迫ったり、議決したりするべきではないと思われます!


先に各判決の結論だけを書いてから、次に概要に触れます。

1 平成21年11月27日判決 無効

(以下、「13部判決」とします)

2 平成22年8月27日判決 有効

(以下、「14部判決」とします)

3 平成23年3月15日判決 有効

(以下、「8部判決」とします)

4 平成23年9月16日判決 無効

(以下、「7部判決」とします)

1.13部判決 (結論:無効)
(1)債権放棄は執行機関による放棄行為が必要

(ゆえに、債権放棄の効力は生じてないとの結論になるので、議会の債権放棄についての言及は傍論になると思われる)

(2)「住民訴訟の制度趣旨に照らすと,少なくともこれらの制度に係る損害賠償請求権,不当利得返還請求権の放棄をするためには公益上の必要その他合理的な理由が必要である」

(3)「本件権利の内容・認容額,同種の事件を含めて不当利得返還請求権及び損害賠償請求権を放棄する旨の決議の神戸市の財政に対する影響の大きさ,議会が本件権利を放棄する旨の決議をする合理的な理由はなく,放棄の相手方の個別的・具体的な事情の検討もなされていないこと等の事情に照らせば,本件権利を放棄する議会の決議は,地方公共団体の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為を放置し,損害の回復を含め,その是正の機会を放棄するに等しく,また,本件住民訴訟を無に帰せしめるものであって,地自法に定める住民訴訟の制度を根底から否定するものといわざるを得ず,上記議会の本件権利を放棄する旨の決議は,議決権の濫用に当たり,その効力を有しないものというべきである。」


2.14部判決 (結論:有効)
(1)債権放棄は議会の議決だけで足りる
(2)債権放棄は、議会の良識的な合理的判断に委ねられており、議会の議決が有効か否かを判断するにつき「公益上の必要性」なる概念をいれる余地はない。「議会が放棄できる債権の種類、発生原因を制限していない」し、「住民訴訟が提起されたからといって、住民の代表である議会がその本来の権限に基づいて住民訴訟における個別的な請求に反した議決に出ることが妨げられる理由はない」からである。


3.8部判決 (結論:有効)
(1)債権放棄は議会の議決だけで足りる
(2)債権放棄は議会の権限であり、住民訴訟を経たからといって、この権限は制約されない。

(3)債権放棄の「是非は議会の良識ある合理的判断に委ねられ、その適否は終局的には選挙を通じて審査されるべきもの」である。
(4)債権放棄の効力が否定されるのは「権利放棄を議会の議決に委ねた趣旨に明らかに背いていると認められるような特別の事情がある場合に限られる」。

4.7部判決 (結論:無効)
(1)債権放棄は議会の議決と公布で足りる

(2)債権放棄の規定は議会に専断的な権限が与えられたと解することはできない。
(3)公権力の行使と同様に、議会の裁量の逸脱・濫用も司法審査するべきである。

(4)住民の代表である議会の健全かつ合理的な裁量・判断を尊重しつつも、以下の5点を総合的に考慮して議会の裁量逸脱や議会の議決権の濫用を判断すべきである。
①債権放棄が議会の議決事項とされている趣旨
②放棄の対象となる債権の種類、性質
③債権放棄の理由に合理性や公共性があるか
④放棄する金額や財政への影響
⑤放棄することによる行政全般への影響など


さて、繰り返しになりますが高裁判断が分かれており最高裁の見解が待ち遠しいところです(できれば、「議会の債権放棄」について明確な判断をくだして欲しい)。


まず、14部判決は、議会の債権放棄議決は司法審査の対象にならないことになりかねず、少し乱暴に思えます。(判決は当該事案について述べられており、どこまで一般化できるかについての疑問はあるとしても)確かに、法文や「古典的な立法府が強い三権分立観」には忠実かもしれませんが・・・

次に、8部判決は司法審査の対象となる場合を認めてますが、「「趣旨に明らかに背いていると認められる」場合に限定しています。


思うに、フランス革命前夜にとなえられたような立法府が強い三権分立観は現代にそぐわない。これは、立法国家から行政国家へという標語のみならず、行政手続法の制定や司法制度改革が行われていることからも明らかといえる。

現実を直視しても、「法律による行政の原理」」といわれながら、地方議会においては条例案は限りなく100%に近く行政から提出され、かつ限りなく100%が可決されているのは周知の事実である。(それゆえ、議会不要論や議会改革論が出るのだが)多くの議会が行政当局の行為に「法に則り議決したという権威」を与えるだけの機関に堕しているのである。


そのような現実を前に、議会の債権放棄議決に対する司法審査が消極的であれば、それは住民訴訟の結果を行政当局がいかようにでもできるということを意味する。
やはり、1、7部判決のように、住民の代表である議会の判断を尊重しつつも、裁量逸脱や権限濫用についてはキメ細かく審査する必要があるのではなかろうか。


そもそも、議会の債権放棄議決に司法審査がなじむか否かは、住民の代表である議会の議決(一応、民意を代表している)を優先させるか、二者対立構造の下双方が提出して資料により判断するのが適切かという問題である。裁判所は議会の判断を尊重するとしても、その判断が尊重に値するか、議会の議論の過程に着目し、議論の過程の中で議会が「公共性や合理性」を見出したか否かを事後的に審査すべきであるし、また債権放棄の有効・無効を争う当事者の提出する資料によって審査できるものと思われる。


7部判決判決とその判決で挙げられた考慮要素を基本的には評価したいと、私は、考えます。


もっとも、7部判決考慮すべき点に「⑤放棄することによる行政全般への影響」を挙げながら、「住民訴訟制度そのものの否定につながりかねない。そして、これを行政の側から見れば、貴重なチェック手段を失うことに等しく、行政全般に対しても悪影響を及ぼす」とあてはめています。

⑤の基準を挙げたことは正当だとは思いますが、このようにあてはめるのであれば、はじめから⑤の基準は債権放棄が不当であるとの結論に傾いているように思われる。また、同様に「②放棄の対象となる債権の種類、性質」「③債権放棄の理由に合理性や公共性があるか」という考慮要素を挙げながら、「対象債権は、住民訴訟に基づき違法な財務会計行為を是正するもの」だから「一般的合理性や公共性を見いだすことは困難」とするのであれば、基準として挙げた意味がないように思えます。

換言すれば、住民訴訟を経た債権はいかなる場合も債権放棄を許さないことにつながる基準となってしまっています。この点は、評価できません。


議会としては、住民訴訟を経た債権であっても債権放棄できるという前提に立ちながら、7部判決の5考慮要素に加えて相手方の資力や違法行為の是正の改善や反省の程度など個別具体的な事情を参酌して放棄するか否かの判断をくだすことが必要であると思われます。でなければ、市民に対して説明できないばかりか、司法審査に耐えられないことが予想されます。