目の周りのぐるぐる。 | 「犬とプーペガール」娯楽研究所。

目の周りのぐるぐる。

ふと思い出したので、書いてみる。



もう数年前になるけど、当時一緒に働いていた人が大変な事故に

遭った。

出張販売からの帰り道、山道を走っているときのことだった。

大荷物を積んだ軽に乗っていた彼女は、対向車線から居眠り

運転の大型車に猛スピードで突っ込まれ、脚がぐちゃぐちゃになる

大怪我を負った。


大怪我で済んだのは奇跡といってもいい。

普段シートベルトをしない主義(笑)の彼女だったが、事故の直前の

信号待ちのときに「何気なく」シートベルトをはめたのだった。

積んでいた荷物が結構な重量だったことも、衝突の勢いで崖下に

転落せずに済んだことに繋がっているかもしれない。

さらにガソリンが残り少なかったことで、車の炎上は一瞬で終わった。


走っているとき、突然、前の車が宙を舞ったそうだ。

くるっと回って目の前から消えた。

そして視界いっぱいに、大きな乗用車が広がって…閃光。

激痛。腰から下が動かない。

エアバッグが開き、顔面がえぐられたかと思うような衝撃。

意識ははっきりとしたまま、目の前の火柱を見つめる。

逃げようにも動けない。はっきりしたままの意識。炎。


焼け死ぬと思った…そうだ。

しかし、火は消えた。

恐怖は我が身へと引き返す。

顔! 顔が痛い!

脚も痛いが、顔面の痛みのほうが女性として恐怖を掻きたてられる。

砕けたんじゃないかと思うような痛み。


駆け付けた近所の住人や通りすがりの人たちに助けられた彼女は、

「鏡…鏡、顔が…顔」と繰り返していたそうだ。幸いなことに顔は

エアバッグの衝撃だけで済んでいた。

だが脚は…砕けた骨が皮膚の外へ突き破っていた。



不幸中の幸いで、怪我は脚だけで済んでいた。腰とかは無事。

その脚も一時は切断かというところまでいったが、なんとか切らずに

済んで、今は懸命のリハビリに励んでいる。

事故からは少なくない年月が経っているが、全快への道はまだ遠い。


大型車は居眠り運転というか、加害者いわく「ぐーぐー寝てた」で、

まったくもって話にならない。ぐっすり眠ってアクセル踏み込んだまま

反対車線へ突っ込んできたというわけだ。

彼女の前を走っていた車は弾き飛ばされ、乗っていた夫婦は崖下転落

一歩手前でシートベルトで逆さづり状態だったそうだ。怪我は彼女ほど

ではなかったが、相当な後遺症に苦しんでいらっしゃると聞いた。


とにかく彼女は生きているのが不思議な状態で、五体満足でいられる

のも不思議な事故だった。


さて。大変前置きが長くなったが、この事故の前日に私は彼女に

会っている。そのとき、彼女の顔が物凄いことになっていたのを

今でもはっきりと憶えている。

漫画の古典的表現で、目の周りを真っ黒に囲んで「殴られた跡」を

表してるようなアレが、彼女の両目の周りにあったのだ。


黒と青のクレヨンを、地肌に力いっぱい塗りたくったようにくっきりと。

ぐるぐるが、彼女の顔に。


最初、間違ったギャルメイクだと思い、「化粧…変えた?」と控えめに

訊いた。

「?」ってされたので、素直に「あー、なんか目の回り黒いよ?」って言った。

彼女は、普段アイメイクはほとんどしない人だったので。

「えー、別に。そうかな!?」って、やっぱり女性だし気にしちゃって、

他の人に訊いてみたら「ううん。いつもと一緒じゃない?」って答えだった。

お世辞やごまかしでも「いつもと一緒」なんてもんじゃなく見えている私は、

自分の目がおかしいのかと、何回も見直したけど…ぐるぐるはずっとあった。


通りすがりの人も振り返るレベルの、ぐるぐるだった。

いわば仮装?って感じ。

でも、それは私以外には見えていなかった。


そして、次の日、彼女は事故に遭った。


アレがなんだったのかを判断することは、私には出来ない。

あんなぐるぐるが見えたのは、あのとき一度きり。

次に見えたときは、どうすればいいのやら。

できればもう見たくない。


余談かもしれないが、彼女は霊感占いに凝っていた。

事故に遭うちょっと前に占い師から「脚に気をつけて」と、二回注意を

受けていたそうだ。本人は「靴擦れか捻挫だと思っていたんだけど」と

言っていたが、「このことだったのね」と一人納得していた。



悪いが、私は違う意見だ。

ここまでひどい事故ならば、本当に「視える」ならはっきり「視てる」だろう。

そしてはっきり告げるだろう。

せめて「事故には気をつけて」もしくは「車に気をつけて」くらいはな。


…次にぐるぐるを見たなら、私はその人にはっきりと言えるだろうか?

「前にそのぐるぐるが出てた人はね、」とかさ。