健康麻雀を強く推進していることで有名な、NPO法人雀新会 の フレムさん さんとちょっとした議論になりました。
発端は ↓ こちらのツイートで、
要約すると、
「風営法を遵守すると、オンレ・ノーレ問わずほとんどの雀荘が潰れてしまう。こんな実態に則していない形骸化した、民業圧迫の悪法は何とか改正するように働きかけていく必要がある」
といった内容。
まあ、「ほとんどの雀荘が潰れる」は少し言い過ぎたかも知れませんが、非常に多くの店舗が、潰れないまでも相当厳しい状況に追い込まれることは間違いありません。
 
ここまで読まれて、「風営法を遵守すると何で雀荘が潰れるの?」という疑問を持たれた方も少なくないと思います。
実は、風営法では雀荘における一人一時間あたりのゲーム代を(全自動卓の場合) 648円までと上限を定めているのです。
雀荘関係者や雀荘によく通う方でしたら、一人一時間の上限が648円では、雀荘経営は相当厳しいし廃業に追い込まれる店も少なくないだろう、ということが細かい計算などしなくても皮膚感覚でわかって頂けるのではないかと思います。
しかし、実際に試算してみるに越したことはないので、このエントリーでは、「フリー雀荘A店」という架空の店舗を想定して試算をしてみたいと思います。
なお、あくまでもド素人による試算ですので、勘違いや誤差が少なからずあることをご了承の上、あくまで「試算の一例」と捉えて頂けると幸いです。
 
 
A店の営業形態は以下の通り
・年中無休、12時間営業(12~24時)
・立地は関東の比較的都市部、最寄りの中規模駅から徒歩3分
・建物は賃貸(賃料は20万円 / 月)
・全自動卓6台稼働。1台50万円(新古品)で購入し12回のローン払い
・フリーゲーム代 400円、トップ賞100円
・セットはフリーと料金体系が異なる
・メンバーは常時3名体制で、メンバーの時給は1000円、二交代制で休憩は30分
・フリードリンク制(お茶、麦茶、コーヒー、紅茶、ジュース数種類程度、アルコールは無し)
・食事メニューは提供していない(持ち込みや出前は可)
 
 
【A店の売り上げ】
・場代
・トップ賞
 
まず1か月の売り上げですが、以下の条件で試算していきます。
①東南戦(オーラスまで行った場合)の1G平均所要時間を30分とする
②トビ終了、60000点終了(コールド)あり
③フリーゲーム代400円 / 1人1G
④トップ賞 / 100円
⑤全ての曜日で開店~閉店まで、平均してマル(メンバー入らず)で2卓(客8名)稼働するものとする
⑥4ゲームに1回程度トビやコールドにより10分程度で終了するゲームがあると仮定し、1Gの平均時間を25分とする
⑦風営法を遵守しない
 
[A]1Gの売り上げ=1700円 ((400円×4)+100円)
[B]1卓 / 1日 のゲーム数=28.8回 (720分÷25分)
 
1日の売り上げ =[A]×[B]× 2卓 = 97,920円
 
1か月(30日)の売り上げ = 97,920円 × 30 = 2,937,600円
 
この 2,937,600円 という金額が、A店が風営法を遵守しなかった場合の1か月の売り上げになります。
 
 
次に、風営法を遵守した場合ですが、この場合トビやコールド終了を廃止する必要が出てきます(平均ゲーム消化時間を長くするため)。
トップ賞も廃止しなければなりません。
東南戦の平均時間を30分と見積もった場合、風営法で定める1時間630円を下回るためには、ゲーム代をMAXでも300円程度に抑えなくてはなりません。
 
では、風営法遵守の前提で、1か月の売り上げを再度試算してみます。
 
[A]1Gの売り上げ=1200円 (300円×4)
[B]1卓 / 1日 のゲーム数24回
 
1日の売り上げ =[A]×[B]× 2卓 = 57,600円
 
1か月(30日)の売り上げ = 57,600円 × 30 = 1,728,000円
 
この 1,728,000円という金額が、A店が風営法を遵守した場合の1か月の売り上げになります。
 
以上の試算より、A店の1か月の売り上げは、
・風営法を遵守した場合 → 約173万円
・風営法を遵守しなかった場合 → 約294万円
と、実に120万円以上の差が出ることがわかりました。
 
 
続いて経費を試算してみます。
 
【A店の経営にかかる経費】
①人件費
②賃料
③全自動卓のローン支払い
④光熱費
⑤ドリンク調達代
⑥広告費(麻雀王国の雀荘検索)
⑦イベント還元費
⑧ポイント還元費
⑨書籍代
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[10]ゲスト報酬
[11]広告(近代麻雀など)
 
①~⑨は、ほとんどの店舗でかかるであろう経費で、比較的大きな出費のみ挙げてみました。
10 , 11 は、店舗によって状況が大きく異なると思われます。
従って、まずは①~⑨のみを試算してみることにします。
 
①A店は、常時メンバー3名体制で12時間営業です。
開店~閉店まではメンバー3名、開店前に1時間早く出勤するメンバーが1名、閉店後に一時間残るメンバーが1名いるとします。二交代制で一人の休憩時間は30分。
その場合、1日の人件費は
(38時間 × 1000円) - (500円 × 6回) =35,000円
となり、1か月(30日)の人件費は105万円になります。
 
賃料に関しては、店舗ごとに大きく事情が異なるので画一的な試算は出来ませんが、あくまでA店のケースとして考えてみます。
関東の比較的都市部で中規模駅から徒歩3分、全自動卓を6台設置するスペースがあるのですからなかなかの物件です。20万円前後が相場でしょうか。
 
③そこそこ人気の全自動卓6台を新古品として1台50万円(計300万円)で購入し、12回ローンを組んだとすると、1か月の支払いは(頭金にもよりますが)20万円くらいでしょうか。全自動卓のローン返済額は月額20万円とします。
 
④厨房がなければ、雀荘は比較的光熱費(電気・水道・ガス)は抑えられそうですが、それでも月に3万円くらいは掛かるのではないでしょうか。光熱費は3万円とします。
 
ドリンク調達代も、店舗がこれを売りにしているかどうかで経費が大きく変わって来そうですが、A店の状況ではザックリ言えば平均1杯10円、1日100杯提供して1,000円、1か月では3万円としておきます。
 
麻雀王国の掲載費は都市部だと年額48,000円だそうなので、月額だと4,000円ですね。
 
イベント還元は完全にピンキリですが、A店の場合は1週間に1万円程度還元するものとします。1か月で約4万円ですね。
 
ポイント還元もかなりピンキリ(3~20万円くらい)ですが、A店では月5万円程度とします。
 
書籍代は、近代麻雀2冊(1,040円)と漫画2冊で月平均2,000円とします。
 
 
①~⑨を合計すると約164万円となり、風営法を遵守した場合の売り上げ約173万円でギリギリ賄えるかどうかというラインであることがわかります。
この164万円という数字はかなりカツカツで経営している前提で試算していますし、急な出費や雑費などは一切計上していません。
メンバーを1人でも増やしたら完全に赤字になります。
雑費にしても、文房具・おしぼり・洗剤・布巾・エプロン(ユニフォーム)・Wi-Fi使用料・固定電話代などいくらでもありますし、メンバー待遇も、時給以外に交通費や特別手当て、保険や年金、その他福利厚生を店が負担している場合もあるでしょう。
また、プロを常駐メンバーとして雇用している場合は、当然アルバイトより人件費が嵩みます(知名度などにもよりますが、8時間勤務で12,000円程度でしょうか?)
 
更に、近代麻雀などに広告を出したりゲストプロを呼んだりすると非常に経費がかかります。
近代麻雀への広告出稿は1/4ページで3万円前後(ソースが怪しいので違ったらゴメンナサイ)、
ゲストプロは完全にピンキリですが2~10万円くらいはかかるそうです。
また、学生割り引きや女性割り引き、半額キャンペーンなどもありますし、他にも私の知らない様々な出費があるだろうと思います。
 
つまり、売り上げはほぼ増える要素がないのに、売り上げが減ったり経費が増える要素はいくらでもある、というわけです。
 
 
いかがでしょうか。
ここまで読んで頂けたなら、
・風営法が如何に実態に則しておらず徒に民業を圧迫しているか
・風営法をバカ正直に遵守したら、オンレ・ノーレ問わず、非常に多くの雀荘が窮地に立たされてしまう
ということがご理解頂けたのではないかと思います。
 
 
そしてこの場をお借りして、常日頃から私が強く思っていることを追記させて頂こうと思います。
 
ノーレ推進派とオンレ愛好家は、同じ麻雀愛好家であるにも関わらず、理念や利害の対立する部分が少なくなく、対立してしまうことも珍しくありませんよね。
これはある程度は仕方ないことだと思うのですが、マクロの視点で、また中長期的に、麻雀業界の発展・麻雀界の市場規模拡大を考えた場合に、この対立がプラスに作用するとは到底思えないのです。
 
ノーレ推進派の一番の主張は「賭博は違法」ということではないでしょうか。(もちろん他にもたくさんあるでしょうが)
しかし考えてみてください。
「賭博は違法」ということで、法律を盾に取ってオンレ愛好家やオンレ店を批判するのなら、風営法を遵守していないノーレ愛好家やノーレ店はどうなるのですか?
風営法を遵守していない(多くの)ノーレ店も同じように批判しないと説得力に乏しくありませんか?
 
賭博罪と風営法を同列に扱うな!
ギャンブル依存症の問題はスルーか!
 
こんな声が聞こえてきそうです。
確かにギャンブル依存症は深刻な問題ですが、本当にギャンブル依存症患者を日本から減らしたいなら、働きかけるべき対象は、パチンコであり公営ギャンブルであり課金ゲーです。
特にパチンコは、全国津々浦々で誰でも気軽に興じることが出来る世界最大のギャンブルなのです。
パチンコ業界の市場規模はざっと20兆円。
この数字は世界140カ国に存在するカジノを全て合計した市場規模とほぼ同じです。
対して、麻雀業界の市場規模はたった500億円。実にパチンコ業界の1/400です。
 
規模の問題じゃない!
賭け麻雀で人生を狂わせる人が少なからずいるのは事実だろう!
 
と、これまた反論されてしまいそうです。
それはその通りですよね。
ですが、賭け麻雀で人生を狂わせる人は賭け麻雀がなくても他の何かで人生狂わせますよ。
 
 
そして結局、法律を盾に取った場合、お互い「スネに傷を持つ身」になってしまいますし、今一つ発展的な議論に繋がらないような気がします。
 
 
麻雀は賭けて遊んでも楽しいですし、賭けなくてもたまらなく面白いゲームだと思います。
麻雀自体にそういう多面的な魅力があるので、これは仕方ないことだと思うんですよね。
 
とは言え、ノーレ推進派の言いたいこともわかります。
ギャンブル・タバコ・徹夜と言ったネガティブなイメージが、知的・健康的なゲームとしての麻雀の普及に悪影響を与えている、という側面があることは確かだと思います。
ですが、それはオンレ愛好家やオンレ店が全滅しなければ絶対に達成出来ない目標なのでしょうか?
オンレ麻雀しかやらない人でも、ノーレや健康麻雀の普及・発展を応援している人はたくさんいます。
それに、今はオンレ派だけど老後はノーレ・健康麻雀にシフトする、という層は今後増えていくと思いますよ。
 
同じ麻雀愛好家なんですから、批判や対立をするより、認めるところは認めて共存共栄の道を一緒に模索して行きませんか?