私の担当ではないのだが、同僚が苦笑しながらみせてきたのだ。
修理依頼書には、
「Change le coq grave, pour le coq 'non' grave」
(彫りの入ったテンプ受けを、彫りの入っていないテンプ受けに交換)
と書かれていた。
テンプ受けとは、時計の心臓部である「テンプ」という輪っか状の部品を
支えるための板のことで、
昨夏に出荷した際には、その購入者が記念に自分の名前を彫るよう注文を出していた。
(テンプ受けわかりますか? フランス語でCoq・雄鶏の意味です。なんとなく形が似てる?)
これは私が個人的に持っている1900年初期の懐中時計の
ムーブメント(時計内部にある機械のこと)だが、
一番下の大きな輪っかが「テンプ」で、輪の中心から下へ流れるように乗っている
板がテンプ受けである。
テンプには細い渦巻状のバネがついていてそれが伸び縮みすることで、
時間が正しく進むよう調整している。
テンプ受けはそれを押さえる役目というわけだ。
さて、これはもう交換する意外方法がない。
それ以外にも、テンプ受けにはもともと美しく模様が入っているので
(この写真の懐中時計のように)、削ってしまうことはできない。
精魂こめて作りこまれた時計に対して、故障やメンテナンス以外で手を入れ直すことは、
できれば避けたほうがいいという意見もあるけれど、
それが今回の依頼なのである。
転売のためか、誰かにプレゼントするのか、はたまた飽きてしまったのか、、、
そんな理由だったらなんとなく寂しい。