コロナの前に最後にヨーロッパ出張に行ったのが2019年の10月末でした。まさか、それから2年半も行けない事態になるとはまったく想像していませんでした。人生何が起こるかわかりませんね。今年秋に、以前毎年開催していた大学院生のドイツ、スイス研修を3年ぶりに行う準備のためにヨーロッパに出張することになりました。

 

5月17日、夜遅い便で羽田空港からベルリンに向かいました。何しろ空港に行くのも久しぶり。事前にウェブや電話でいろいろ確認はしていましたが、実際どんなものかは行ってみないとわかりません。

 

夜8時過ぎに空港に到着し、がらんとしたチェックインカウンターに、すんなりと案内されました。本人確認のため「マスクを取ってください」と言われ、小室圭さんと真子さんがニューヨークに立つためにチェックインしていたニュース映像が浮かびました。あの映像を取るためには、あのあたりに脚立を立ててカメラを構えたんだなあ、とか、よく空港のスタッフはメディアにそんなこと許したなあ、とか、メディアと空港スタッフとの間にやり取りがあったんだろうなあ、とか、昔自分が新聞記者だったのでいろいろ想像しました。

 

コロナの前は、チェックイン後いつも同じお店でレンタルのポケットWifiを借りて出国審査に向かったものですが、コロナでそのお店は休業中。事前に電話で、その時間でも開いていると確認していた、レンタルWifiのあるお店に行きましたが、予約していないと借りられないとのこと。あー、ぬかった!私のばか!確認するべきでした。Wifiが無くて海外で仕事、大丈夫かなあと不安の黒雲が胸の中にむくむくと湧き上がってきます。

 

コロナのため、いろいろなことが以前とは変わっています。事前に十分調べて備えているつもりではありますが、不測の事態が起こるだろうと想像すると、小心者の私の心の隙間に次から次に不安が襲ってくるのです。

 

出国審査は機械化され、マシンに入ってパスポートを読み取らせ、目の前の鏡(カメラ)の前を向けばそれで終わり。簡単です。

 

飛行機に搭乗しましたが、もう新聞も雑誌も置いていません。機内誌も無し。すべては目の前の座席裏のテレビ画面で見ないといけません。アナログ人間の私は苦手です。

 

日本からベルリンへの直行便はまだないので、どこかで乗り換えなのですが、今回私はフランクフルト経由にしました。少し前の情報では、全日空は中央アジア上空を飛ぶ「南回り」とのことでしたが、実際には日本航空と同様、「北回り」でした。飛行機は、飛び立つと太平洋に出て北海道の東を北上し、アラスカの西をかすめて北極の上にさしかかりました。北極の上を飛ぶなんて初めてなので、北極の雪を見てみたいものだと窓の外を覗きましたが、真っ暗で何も見えません。北極上空では外気温がマイナス60℃まで下がっていました。コロナの前は、羽田―フランクフルト間は約11時間だったと思いますが、北回りだと14時間かかります。

 

昔、大韓航空機爆破事件というのがあり、当時のソ連はそれが民間機であることを知ったうえで爆破しました。それを考えれば、これから長い間、シベリア上空を飛ぶことはできないでしょうからヨーロッパは遠くなりました。冷戦時代に時代は戻ってしまったんだなあ、と機内のフライトマップを見つめながら感じたのでした。

 

フランクフルト空港に到着すると、入国審査のための行列は長い廊下の先で折り返し、さらに続いていました。時間はかかってもいい、ちゃんと入国さえできれば、と巡礼者のように祈りながら少しずつ前進します。不愛想なドイツ人入国審査官からパスポートを返してもらい、乗り換えのロビーに入った時には心臓に巻き付いていた鎖がほどけたような感覚がありました。ベルリン行きの搭乗口近くのラウンジに入り、テーブルを見つけて座った時には思わず「疲れたー」と声が出て長い安堵のため息をつき、テーブルに突っ伏しました。食欲は全くなかったので水を飲み、ヨーグルトを食べて一息つきました。

2時間待って、ベルリン行きの飛行機に乗りました。新聞報道で、16日からEU内の飛行機の中のマスク義務化は解除されたと聞いていましたが、私が乗ったルフトハンザはまだ義務を継続中で、私の前に並んでいた女性はマスクをしていなかったところ、アテンダントさんから「マスクをかけてください」と注意を受けていました。機内はほぼ、満席です。

 

出張が決まり、航空券の手配をしてからずーっと不安でしたが、ベルリン空港に到着してスーツケースが無事に出てきたのを見た時は、まずは大きな関門を抜けた、という小さな達成感を味わいました。

 

いやはや疲れた。でも、無事到着できてよかった。

 

なぜか、人生でいつも冒険ばかりしてしまうウサギ