翌日曜日も昨日同様快晴で朝から太陽は強烈でした。ロンドンにしては珍しいかも。さて、今日はどうしようか。ホテル近くのカフェで朝ごはんを食べながら観光ガイドブックを見て考えました。

帰りの飛行機は5時発なので、4時までには空港に到着しておく必要があります。朝はゆっくりしたので朝ごはんも10時でした。大英博物館は近くでしたが、あまりに大きな博物館は歩くだけで疲れるので、中規模の美術館を探すと、あったあった!「Tate Britain」(テート美術館)がありました。ここには有名な「オフィーリア」の絵(ジョン・エバレット・ミレー作)があるのです。

私は高校生の頃、夏目漱石の大ファンでした。夏目漱石は若い頃ロンドンに文学の勉強に行っています。彼がどこかに書いた文章に、「気の触れたオフィーリアが川の流れに流されていく絵を見た」というようなことが書かれていたことを覚えています。それが、このテート美術館の「オフィーリア」です。ご存じのとおり、シェークスピアの「ハムレット」の一場面です。

いつかどこかで「テート美術館展」があった際に見たことはあるのですが、漱石が実際に見た場所で見るのはまた格別ではないか。そんな気もして、テート美術館に出かけました。

テート美術館は入館料無料で、工事中でした。1500年代からのイギリスの美術品が集められています。いやはや、それはそれは素晴らしい絵画が多数展示されていますので、美術に興味のある方はぜひ見ていただきたい!

目当ての「オフィーリア」はもちろん言うに及ばず素晴らしい!なんてきれいな絵。他にもサージェントの「Carnation, Lily, Lily, Rose」(カーネーション、ユリ、ユリ、バラ)という変わった名前のすばらしい絵があります。何度見ても飽きない、いつまでも見ていたい美しい絵です。ぜひ一人でも多くの方に直接見ていただきたいものです。

 

 

他にも、1680年に描かれた「Sir Neil O’Neil」(ニール・オニール卿)という絵などは、オニール卿の足元に日本の侍が身に着けたはずの美しい鎧がまるで作り立てのような輝きを放って描かれています。

解説を見ると、オニール卿はカトリック教徒で、イギリスでカトリック教徒が排斥された時にアイルランドに追放されたそうです。そしてこの絵に日本の鎧を描かせたのは、カトリックを排斥する勢力に対する反撃だそうで、当時カトリックを排斥した(禁教令が出て)日本はとても悪名高かったため、その象徴として描かれた、とのことでした。いやはや、キリスト教のプロテスタントとカトリックの争いは部外者にはまったく理解できません。それにしても、なんて美しい鎧でしょう!

1600年代の絵には素晴らしいものがたくさんあり、中でも貴族の女性の服装の描写のすばらしさには引き込まれました。レースの描き方がまるで写真のようです。美しー!これが王族ではなく、単なる貴族なのですから。どれだけの富を集めたのか。その陰では植民地からさんざん搾取したのでしょうが。

 

 

さて、4時にはロンドン市内から最も近いシティ空港に到着し心は既にジュネーブに飛んでいました。ところが…。飛行機への搭乗は時間通りだったものの、座席に座ってシートベルトを締めて、なんと1時間20分も飛びませんでした。この時期、ヨーロッパはとても日が長く、5時くらいは最も暑い時間帯で、窓側の席に座っていた私は汗だくでした。

ようやく飛び立ち、飛行機はジュネーブに向かってまっしぐらに飛んでいきました。そろそろジュネーブ、という頃、空に雲が広がり、暗くなり雨が窓を打ちました。

それでもしばらくたつと太陽の光がまぶしく感じられたので窓の外を見ると、なんとそこには、翼の上に二重の虹が出ていました。私は左翼の上の窓際の座席だったのですが、翼の後ろを見るとそこにも二重の虹が。ななな、なんなの、これは?と驚くことしきり。いわゆる「ブロッケン現象」(自分の姿が雲や雪山に映る)なのか?と思いましたが、飛行機は虹を横に従えて飛んでいきます。

 

ようやくジュネーブ空港に到着すると、先ほどまで降っていたらしい雨は止み、雲が空を半分くらい覆っていましたが、空港の建物の上にやはり二重の虹の足が見えました。つまり、私の飛行機は二重の虹の横を飛んできたらしいのです。

小さい頃から「虹は近くで見るとどうなっているのかな。虹の傍に行って見てみたいな」と思っていたのですが、まさかこんなことが起こるとは。こんな偶然は一生に一度ではないかと思います。本当にラッキー、幸せ!飛行機が1時間20分遅れなかったらこんな奇跡は見られませんでした。窓側の翼の上に座席が割り当てられなかったら、見られませんでした。自分でお願いしてこの席になったわけでもないのに…。何か不思議な力に付き添われているような、包まれているような気持がしました。ありがたや、ありがたや…。

ちょっと元気が出たウサギ