【ロンドン川崎桂吾】
9日夜(日本時間10日未明)のレスリング女子55キロ級決勝で、吉田沙保里(さおり)選手(29)が五輪3連覇を決め、セコンドを務めていた父栄勝(えいかつ)さん(60)を肩車した。父にたたき込まれたタックルを思い出し、初心に帰って臨んだ大会。開幕前に誓った「肩車の公約」を実現し、父と娘は共に「最高」という言葉で表現した。
決勝の第2ピリオド。残り30秒で吉田選手が矢のようなタックルで相手に突き刺さった。「よし行け」。観客席の声援を背に受け、場外へ押し出す。リードを保ったまま終了のブザーが鳴ると、応援席で母幸代さん(57)と兄の栄利(ひでとし)さん(32)が抱き合った。「家族の夢がかなった」。口々に声を弾ませた。
3歳の時から栄勝さんにたたき込まれた高速タックル。五輪2連覇の原動力となったが、世界の選手から研究されて効かなくなった。新たなスタイルで挑んだ5月の国際大会では敗北を喫した。
救ったのは幸代さんの一言だった。「小さい頃からやってきたタックルは、すてきだったよ」。栄利さんも思っていた。「俺たちがおやじから学んできたことが正しいことを証明してほしい」。吉田選手は初心に戻って五輪に臨むことを決めた。
幸代さんによると、開会式の旗手に選ばれたことが吉田選手の心に火を付けた。「旗手は金メダルを取れない。そんなジンクスなんか私が破る」。ロンドンに乗り込む前にそう語ったという。
また7月に栄勝さんがセコンドに入ることが決まったことも、モチベーションを高めた。「今度はお父さんを肩車したい」。吉田選手はアテネで栄(さかえ)和人コーチ(52)=現監督=を担ぎ、北京では栄コーチに担がれた。3度目は父をと誓い、周囲にも公言した。
娘の肩の上で浴びた「世界女王」への大歓声。元々照れ屋という栄勝さんだが「最高だったですよ。高い所に上がって」と顔をほころばせた。吉田選手も上気した顔で「北京から4年、負けを知って、さらに強くなれたかなと思います」とインタビューに答え、肩の上の父についても笑顔で振り返った。「重かったですよ。でも、最高の幸せです」