会った瞬間に、人の性格と考えていることが分かったらいいのに、と思ったことはありませんか?私も、小さい頃、そんな力があればいいな、と思ってました。大学卒業までに、5か国、6都市を転々と移動しながら育っきました。転校したことがある方なら誰でも経験あると思いますが、新しい土地で、最初は周囲の人が何を考えているか分からないし、何が地雷なのか、要注意人物は誰なのか、といったサバイバルのために必要な情報が足りません。そんな時「人が考えていることが分かればいいのにな」と感じていたのです。
しかし、今思うと、人間って大抵の場合、相手が何を考えているのか、どういう人なのか、分かるものなのです。名探偵シャーロック・ホームズが、一瞬しか話していない人の出身地、育ってきた家庭環境から、好きなブランドやスポーツチーム、普段食べているもの、性格などを一瞬で言い当てますよね。その種明かしは簡単で、一重に観察力に突きるのです。人に興味を抱いて、観察していると、その人のことは実は手に取るようにわかります。
いろんな国と文化の中で育ったことから、私は自然と周囲を観察する習慣を身に着け、いつの間にか「人が考えていることが分かる」様になりました。仕事場でも「さっき実は●●って思っていたでしょう?」と同僚に言ったりすると「なんでわかるんですか?!」とびっくりされます。「バレているなら仕方ない」ということで、元々は私に言う気は無かった本音を聞けることがあります。人をよく観察し、人のプロファイリング(FBIなどで使う、状況証拠から人の性格や行動パターンを類推するテクニック)ができるようになると、仕事もスムーズに進みます。
今回からはあなたがしているとても「小さな」ことが、あなたについて実は多くの情報を他人に発信していることについて。中には、意外なものもあるかもしれません。でも、それを意識化することができたら、あなたは人に与える印象を大きく変えることだって可能なのです。
1.歩くペースと動きのペース
私は三日前から入院しています。スキーでケガをした膝の根本治療のためです。入院していると、たくさんの看護師さんや医師、お掃除の方、助手の方、廊下ですれ違う患者の方、売店の方など、一気に新しい人と出会い、かなり密に接するので、人観察マニアで人好きの私にとってはとても楽しい環境です(というより、本来であれば鬱々としがちな入院生活が楽しいと思えるように意識してやっている一つのこと、とも言えるかも)。面白いのは、入院から三日目くらいになると、
足音でどの看護師の方なのか、分かるようになる
ということ。どうしてか?
歩くペースと足音は人それぞれに特徴があり、その特徴は看護師自身の性格と人となりと連動しているのです。
たとえば、てきぱきと働き、動きの速い小柄のAさん。彼女の歩き方は早く、小刻み。足音もシャープなシュパッシュパッという感じ。彼女はおそらく、看護師になってから5~6年目くらいで、仕事もだいぶできるようになり、自分に自信がついてきた頃。一方で、頭の回転も速いので、のろのろと動く患者さん等がいるとイライラしてしまったりもします。
素早く、手際よく仕事ができるということが自分の強味だと思っているAさん。いちど、彼女が私のベッド周りで何かをしようとした時、ぱっと動かした指先が当たり、届けられたばかりの夕食のお茶が私のベッドに落ちました。「わっ、どうしよう、ごめんなさい」と青ざめた彼女。病院食のお茶は、冷めないようにとても熱くなっているので、直接皮膚にかかってしまえば、火傷になりかねません。
運よく、血栓防止のストッキングもつけていたし、あまりたくさんは直接かかりませんでした。濡れたものの片づけも、彼女は手際が良かったです。
娘も、よく同じことをやります。手や足の動きが唐突で、大きいので、色んなものを倒したり、人に当たったりします。そんなとき私は娘に;
「動きはGentle - 優しく、マイルドにして。他の人にあたったり、物を倒したりしないか、そういう結果をちゃんと頭にいれてもっとゆっくり優しくエレガントに動くこと」
と言います。ただし、なかなか難しいようです。
急ぐ必要があるときは、急いでもいいのです。
でも、早く移動しながらも、動きが雑な印象にならなかったり、足音を大きく立てないような移動の仕方も可能です。たとえば、クラシックバレエや日舞の移動の仕方がそれにあたります。共通するのは、コアがしっかりしていること。
コアに力をいれて、ぐっと上半身を持ち上げ、全身で頭を持ち上げて歩けば、足も大きく振り出せますが、コアでコントロールができるので、足音はそれほど大きくはならない。
同時に、手や足の動き、体の振り方も、そこに誰かがいる、何かがあるかもしれないと意識することで、穏やかに、かつ速やかに動くことだってできます。
大事なのは「意識すること」です。自分の動きと、その動きが結果的に引き起こすかもしれない出来事についての「意識」です。
その意識をもって動いているかいないかは、その人の動きが与える印象を大きく左右します。
反対に、するするする、と足音もほとんどなく、スムーズに病室に近づくBさんという看護師。彼女は、お薬を置いたりするときも、テーブルに「どん・ぱん!」と置いたりせず、物音を立てずに、「こちらにおいておきましょうか」と聞きながら、相手の反応をみながら置くようにします。病室だと、スペースも自分の可動範囲も限られるので、テーブルの使い方ひとつにもいろいろとこだわりが出てくるので、聞いてもらえると助かるわけです。つまり、唐突さがなく、スムーズで優しい動きをしている人は、大抵の場合、「他者」への配慮が動きに反映されているのです。
この様に自分の動きに意識的になると、いろいろとプラスの効果が生まれます。
- 安全である→周囲の人・モノに対しての目配りができるようになるので、あらぬ事故を引き起こす可能性が低くなります
- 上品に見える→配慮のあるスムーズな動作の方が、よりエレガントで上品かつ上質な人という印象を与えます。何より、自分に余裕のある人、という印象付けができます。
- 自分自身の気持ちが落ち着いてくる→動きがバタバタしていたり、早すぎると、その動きに自分の内面、脳の状態が影響されます。体の動きに呼応し、心も焦ってしまうのです。いやむしろ、鶏が先か卵が先か、という議論ではありますが、内心に焦りがあり、余裕が無くなっている人の動きが、冒頭の例に出した看護師Aさんのような動きになる、とも言えるでしょうか。
歩く時のペースや、自分の足音に対しても意識的なってみてください。
早いとか、遅いとか、ちょっと乱暴かも?そういった動作の特徴が、他者の視点に立って、どんな印象を与えるかを考えてみてください。人に与える印象によって、あなたへの扱いも変わります。丁寧に人を扱う人は、他の人からも丁寧に扱われる様になります。
動きを変えれば、心も変わります。
次回は、今回の記事と共通するところもありますが「モノの扱い方」について掘り下げます。
